新リース会計基準で1/7基準が満たしにくくなる?オペレーティング・リースの両建て処理が財産的基礎の要件に与える影響

これまでの記事では、本業が不動産賃貸業の会社さん、太陽光発電事業の会社さんと、実務で実際に遭遇した「1/7基準」につまずいた事例を解説してきました。

今回は業種を特定した話ではありません。新リース会計基準の話です。実務で痛い目にあったという話はまだありません。ですが我々公認会計士は、今から心配しています。少しどころではなく、かなり心配しています。

新リース会計基準が強制適用されると、オペレーティング・リースであっても資産と負債が両建てになり、バランスシートが膨らむ経理処理になります。つまり、会計基準に準拠して財務諸表を作成する義務のある会社さんは、オペレーティング・リースの分だけバランスシートが膨らみ、1/7基準を満たしにくくなる状況が発生するだろうと考えられています。この記事では、その仕組みを解説します。

新リース会計基準とは:何が変わるのか

新リース会計基準(リースに関する会計基準)は、2024年9月に企業会計基準委員会から公表され、2027年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用となります(2025年4月1日以後に開始する事業年度から早期適用も可能です)。適用の対象は、上場会社や大会社など、会計基準に準拠した財務諸表を作成する義務のある会社で、中小会社は原則対象外とされています。

旧基準:オペレーティング・リースはオフバランス

現行のリース会計基準では、リース取引はファイナンス・リースとオペレーティング・リースに区分されます。このうちオペレーティング・リースは、バランスシートに乗りません(オフバランス)。賃借料を支払った都度、費用として処理するだけだからです。実際には長年使い続ける設備なのに、貸借対照表の上には何も現れない。これが旧基準の考え方です。

新基準:オペレーティング・リースも両建てになる

新リース会計基準では、この区分が廃止され、借手は原則すべてのリース契約を「リース資産」と「リース負債」の両建てで貸借対照表に計上します。オペレーティング・リースと呼ばれていた契約も例外ではありません(短期リースなど一定の契約については簡便処理が認められる免除規定があります)。

経理処理の流れは次のとおりです。

  • リース開始時:将来支払うリース料の現在価値にあたる額を「リース負債」として計上し、同額の「リース資産」を計上する(両建て)
  • その後の処理:リース資産は減価償却していき、リース負債も支払いとともに減っていく
  • 損益計算書:賃借料の費用計上から、「減価償却費+利息費用」に変わるため、契約の初年度ほど費用が重くなる

つまり、IFRS(国際会計基準)で既に起きていることと同じ方向の変更です。「借りているだけだから決算書に出ない」という時代が終わります。

なぜ1/7基準が満たしにくくなるのか

おさらいになりますが、財産的基礎の要件の判定では、基準資産額が負債の総額の7分の1以上であることが求められます。ここで問題になるのは、リース負債が「負債の総額」にそのまま加算されることです。

「両建てなら、資産も負債も同じだけ増えるから、純資産は変わらないのでは?」と感じるのが自然です。そのとおりで、基準資産額(実質的な純資産)はほぼ変わりません。しかし、ハードルの方、つまり「負債の総額÷7」だけが上がってしまう。比率の判定では、これが致命的な差になります。

例えば、次のような会社を考えてみましょう(数字は説明のための例です)。

現行基準新リース基準適用後
リース資産計上なし1億円
リース負債計上なし1億円
負債の総額3億円4億円
負債の総額÷7約4,286万円約5,714万円
基準資産額5,000万円約5,000万円(ほぼ不変)
判定クリア未達

会社の中身は何も変わっていないのに、会計基準が変わっただけで財産的基礎の要件を満たせなくなる。しかも、リース負債は支払いとともに減っていくとはいえ、契約を継ぎ足していく限り負債として残り続けます。借入と違って「返せば消える」ものではなく、事業を続ける限りずっと付き合う数字です。

さらに厄介なのは、対象の幅です。車両、機械設備といった動産のリースだけでなく、事務所の賃貸借契約もリース取引に該当し得るため、リースを一切使っていないと思っていた会社でも、影響を受ける可能性があります。

そして、労働者派遣事業許可の財産的基礎の要件の判定に使うのは、まさにこの決算書(直近の本決算、または要件を満たす月の月次決算書)です。決算書の世界が変わるのに、判定基準は「比率」のまま。このギャップへの備えが必要になる、というのが我々の心配している理由です。

今からできる対策

  • リース契約の棚卸と影響シミュレーション:自社のリース契約一覧を作り、リース負債としてどれだけ計上されるかを試算しましょう。負債の総額がいくら増えるかで、1/7基準への影響が数字で見えます。
  • 契約形態の見直し:買い切りでの取得に切り替えるか、リースを続けるかは、資金計画とセットでの判断になります。免除規定のある短期リース(12か月以内)の範囲に収まる契約なのか、契約ごとの確認も有効です。
  • 負債の総額とのトータル管理:財産的基礎の要件で見られるのは借入金だけではなく「負債の総額」です。銀行借入とリース負債を合わせた全体像で管理しておきましょう。
  • 更新・申請のタイミングとの逆算:強制適用の時期と許可の更新時期が重なる会社さんは、要件を満たす月の月次決算をいつ作れるかを含めて、早めに逆算しておくのがおすすめです。
  • 動向の注視:財産的基礎の要件の判定実務が、新リース会計基準にどう対応していくかは今後の動向次第の面もあります。まだ確定した話ではないからこそ、今から準備しておく価値があります。

まとめ

  • 新リース会計基準は、2027年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用となる
  • オペレーティング・リースも「リース資産・リース負債」の両建てで計上され、バランスシートが膨らむ
  • 基準資産額はほぼ変わらないのに負債の総額だけが増えるため、1/7基準は満たしにくくなる
  • 対象は車両・設備・事務所の賃貸借と幅広い。会計基準が変わっただけで要件を満たせなくなる事態に備え、早めの棚卸とシミュレーションがおすすめ

財産的基礎の要件そのものの解説は「財産的基礎の要件とは」、要件をクリアするための選択肢は財産的基礎の要件クリアへ3つの選択肢でも解説しています。労働者派遣事業許可の財産的基礎の要件について、監査証明や合意された手続、要件クリアの方法にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。当サイトでは、労働者派遣事業許可申請のための監査証明・合意された手続を専門に提供しています。

今すぐお電話ください!

預金不足の解決策、純資産不足の解決策、合意された手続、監査のお問い合わせなどお気軽にお問い合わせください。

投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。