合同会社で資本金ではなく資本剰余金を増やすことをおすすめする理由|減資・払戻しの「債権者保護手続」という観点から

前回の記事では、労働者派遣事業の許可更新において財産的基礎の要件をクリアするために、合同会社が資本金ではなく資本剰余金を増やして対応された事例をご紹介しました。あわせて、合同会社における資本金と資本剰余金の基本的な取扱いについても整理しています。

今回はその続編です。前回は注意点の一つとして一言触れただけだった「減資のときの債権者保護手続」という論点を、今回は掘り下げてお伝えします。

結論を先に申し上げると、資本金を増やすと、あとでそのお金を社員に戻すときに債権者保護手続という重い手続が必要になりますが、資本剰余金として持っておけば、同じ場面でその手続を避けられる場合があります。この点からも、合同会社におかれましては、資本金を増やすよりも資本剰余金を増やす形で財産的基礎の要件をクリアする方向でご検討いただく価値があると考えています。

▶ 合同会社なら登記せずに資本剰余金を増やす方法(前回の記事)

1.おさらい:財産的基礎の要件は「資本金」ではなく「基準資産額」で判定される

労働者派遣事業の許可(新規・更新)では、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

要件基準
① 基準資産額2,000万円 × 事業所数 以上
② 負債比率基準資産額 ≧ 負債の総額 × 1/7
③ 現金・預金1,500万円 × 事業所数 以上
※ 基準資産額 = 資産の総額 -(営業権・繰延資産)- 負債の総額

ここが重要なのですが、判定に用いられるのは「資本金の額」ではなく、基準資産額という純資産ベースの金額です。したがって、資本金を増やしても、資本剰余金を増やしても、基準資産額は同じだけ増えます。要件をクリアするという目的だけを見れば、資本金でも資本剰余金でも効果は同じだということです。

そして、資本剰余金を増やす方法には、資本金を増やす方法にはないメリットがあります。それが、これからお話しする「債権者保護手続」との関係です。

2.資本金を減らすときは「債権者保護手続」が必要

合同会社が資本金の額を減少させる場合、その会社の債権者は、資本金の額の減少について異議を述べることができます(会社法627条1項)。

この場合、会社は次の2つを行わなければなりません(会社法627条2項)。

  • 資本金の額の減少の内容などを官報に公告すること
  • 知れている債権者には、各別に催告すること

そして、債権者が異議を述べることができる期間は、1か月を下ることができません。つまり、公告・催告をしてから1か月以上待たなければ、資本金の減少の効力は発生しません。官報の掲載料もかかります。

これは、資本金の額が、会社にお金を貸している人や取引先を守るための「目安」として機能しているからです。会社の財産のうち、いわば外に出してはいけない部分。それが資本金です。だからこそ、減らすときには債権者に異議を述べる機会が与えられているわけです。

3.資本剰余金なら、払い戻しのときにこの手続を避けられる場合がある

これに対し、資本剰余金の範囲内での払い戻しであれば、債権者保護手続をせずに済む場面があります。具体的には、次の2つの場面です。

(1)出資の払戻し

社員が出資の一部を返してもらう「出資の払戻し」は、まず定款を変更してその出資の価額を減少させることが前提です(会社法632条1項)。そのうえで、その社員の出資について資本剰余金に計上されている額などの範囲内であれば、資本金を減らすことなく払い戻すことができます(会社法632条2項、会社計算規則164条3号ハ)。

資本金を減らさないのですから、前述の会社法627条の債権者保護手続は不要です。

(2)退社に伴う持分の払戻し

社員が退社するときの「持分の払戻し」も同様です。社員に交付する金額が、その持分の払戻しをする日における剰余金額を超える場合に限り、債権者は異議を述べることができます(会社法635条1項)。裏を返せば、持分払戻額が剰余金額の範囲内であれば、債権者保護手続は必要ありません(会社計算規則164条3号ホ)。

なお、この場合の「剰余金額」は、資本剰余金と利益剰余金の合計額です。つまり、資本剰余金を厚く持っておくことは、退社時の払い戻しの原資を厚く持っておくことと同じ意味を持ちます。

参考までに、剰余金額を超える場合の異議申述期間は1か月(持分払戻額が純資産額として法務省令で定める方法により算定される額を超える場合は2か月)を下ることができません(会社法635条2項)。

(3)結局は「資本金を減らすかどうか」で決まる

ここまでの話は、次の条文に集約されます。出資の払戻し・持分の払戻しのために減少する資本金の額は、それぞれの払戻額からその日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない(会社法626条2項・3項)。

つまり、払戻額が剰余金額の範囲内であれば、減少する資本金の額はゼロになり、資本金の額の減少という手続(会社法627条の債権者保護手続)が発生しない、という仕組みです。

観点資本金から払い戻す場合資本剰余金から払い戻す場合
出資の払戻し資本金の額が減るため、債権者保護手続が必要(会社法627条)資本剰余金の範囲内なら資本金は減らず、手続は不要(会社法632条2項)
退社時の持分の払戻し資本金を取り崩す部分があると、その部分について手続が必要払戻額が剰余金額(資本剰余金+利益剰余金)の範囲内なら手続は不要(会社法635条1項)
手続の内容官報公告+知れている債権者への各別催告+1か月以上の異議申述期間不要
かかる時間と費用公告から効力発生まで1か月以上。官報掲載料も必要かからない

※ 実務上は、会社全体の資本金の総額を変えない範囲で、社員ごとの出資について資本金と資本剰余金の内訳を振り替えることで、退社する社員の出資を資本剰余金のみで賄う、という取扱いも紹介されています。ただし、個別の事情によって結論が変わり得ますので、実際の場面では司法書士・税理士にご確認ください。

4.資本金は「あとから増やす」のは簡単、「あとから戻す」のは大変

この非対称性も、ぜひ押さえておいていただきたいところです。

資本剰余金から資本金への組み入れは簡単です。合同会社では業務執行社員の過半数の一致で決めることができ、債権者保護手続も要りません(会社計算規則30条1項3号)。ただし、資本金の額が変わるため変更登記が必要になり、登録免許税(増えた資本金の額の0.7%、3万円に満たない場合は3万円)がかかります。

ところが、その逆はそう簡単ではありません。株式会社とは異なり、合同会社には「資本金を資本剰余金に振り替える」ことを認める規定がありません。合同会社が資本金を減らせるのは、損失の穴埋め(てん補)や、出資の払戻し・持分の払戻しのための場合に限られ、いずれも債権者保護手続が必要です(会社法620条・626条・627条)。

そのため、「迷うなら資本金は控えめにしておき、必要になったら資本剰余金から組み入れる」という考え方には合理性があります。資本剰余金は、いつでも資本金に格上げできる「待機資金」のようなものだと考えていただくと分かりやすいかもしれません。

5.派遣許可の財産的基礎クリアという観点からのご提案

ここまでのお話を、労働者派遣事業の許可更新という文脈に戻します。

  • 財産的基礎の要件は、基準資産額(純資産ベース)と現金・預金で判定されます。資本金を増やしても資本剰余金を増やしても、基準資産額は同じだけ増えます。
  • 資本剰余金で増やす場合、資本金の額が変わらないため変更登記も登録免許税も不要です(前回の記事でご紹介したとおりです)。
  • さらに、将来、社員の入れ替わりや出資の見直しがあったときに、債権者保護手続という重い手続を避けられる可能性があります。官報公告と1か月以上の待ち期間、掲載料。これらが不要になる意味は小さくありません。
  • 特に、現在はオーナー経営者お一人の合同会社であっても、将来、後継者や共同経営者に持分を移す場面は必ず訪れます。そのときの手続負担が軽くなるというのは、目先の費用以上に大きなメリットになり得ます。

もちろん、注意点もあります。

  • 法人住民税の均等割は「資本金等の額」で判定され、資本剰余金も含まれます。資本金を抑えても均等割の区分は下がりません。
  • 登記が不要でも、定款の変更(原則として総社員の同意)と、入金があったことが分かる証憑の保管は必要です。
  • 資本剰余金も会社の財産であることに変わりはなく、事業に使えるお金であることも同じです。
  • 持分の払戻しは、税務上みなし配当として課税対象となる場合があります。

そのうえで、あらためてご提案です。

合同会社におかれましては、財産的基礎の要件をクリアするにあたり、資本金を増やすのではなく、資本剰余金を増やす形でのご検討をされてみてはいかがでしょうか。登記も登録免許税も不要で、しかも将来お金を戻すときの自由度が高い。同じ要件をクリアするのであれば、選ばない手はないように思います。

6.まとめ

  • 資本金の額を減らすときは、官報公告・各別催告・1か月以上の異議申述期間という債権者保護手続が必要(会社法627条)
  • 資本剰余金の範囲内での出資の払戻し、剰余金額(資本剰余金+利益剰余金)の範囲内での持分の払戻しなら、債権者保護手続は不要
  • 資本剰余金はあとから資本金に組み入れられるが、逆はできず、減資には債権者保護手続が必要
  • 財産的基礎の要件は基準資産額で判定されるため、資本剰余金を増やしても資本金を増やしても効果は同じ。であればこそ、資本剰余金という選択肢をご検討いただきたい

個別の判断は会社の状況によって変わりますので、お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。