【派遣許可】小規模事業者の配慮措置(基準資産1,000万円・現預金800万円)の使い方と落とし穴

労働者派遣事業の財産的基礎の要件は、基準資産額2,000万円以上・現金預金1,500万円以上という水準です。小規模な派遣会社にとっては重い数字で、「とても届かない」と感じられる方も少なくありません。

実は、この要件を緩和する「小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置」という制度があります。ただし、この措置は誰でも使えるものではなく、対象が限定されています。この記事では、制度の中身と、実務でつまずきやすい落とし穴を整理します。

1.配慮措置とは|要件がどこまで緩和されるのか

本則と配慮措置の要件を並べると、次のとおりです。

要件本則配慮措置
基準資産額2,000万円 × 事業所数 以上1,000万円以上
負債比率基準資産額 ≧ 負債の総額 × 1/7同じ(緩和されません)
現金・預金1,500万円 × 事業所数 以上800万円以上
対象すべての事業主1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が10人以下である中小企業事業主(当分の間)

基準資産額と現金・預金が、それぞれ半分前後まで下がります。小規模な派遣会社にとっては大きな差です。

ただし、負債比率の要件(基準資産額 ≧ 負債総額 ÷ 7)は緩和されません。ここは誤解の多いところですので、ご注意ください。

2.対象になるのは誰か|3つの条件

配慮措置の対象は、次の3つをすべて満たす事業主です。

  • 1つの事業所のみを有していること
  • 常時雇用している派遣労働者が10人以下であること
  • 中小企業事業主であること

この3つは、いずれも思った以上に厳しく判定されます。詳しくは後の「落とし穴」でご説明します。

さらに重要なのが、適用の入口が限定されているという点です。配慮措置は平成27年9月30日から「当分の間」の措置として設けられましたが、その後の取扱要領の改正により、平成28年9月30日以降は、旧・特定労働者派遣事業を行っている事業者に限定して適用されることになっています。

つまり、新たに労働者派遣事業を始めようとする事業主は、この配慮措置の対象外です。また、すでに許可をお持ちでも、過去にこの措置で許可や更新を受けたことがない事業主は使えません。一方で、過去にこの措置の適用を受けた事業主は、更新の際に再び同じ要件で判定を受けられる場合があります。

「配慮措置があるから大丈夫」と思い込まず、まずはご自身が対象かどうかを管轄の労働局にご確認ください。実際には、多くの会社が本則の3要件で判定を受けることになります。

3.配慮措置を使うときに必要な書類

配慮措置を受ける場合、通常の申請書類に加えて、次の2つの書類が必要になります。

  • 常時雇用する派遣労働者数の報告(様式第17号)… 配慮措置の適用を受けようとする場合に提出します
  • 誓約書(様式第16号)… 許可有効期間中、1つの事業所のみで、常時雇用する派遣労働者10人以下(または5人以下)で労働者派遣事業を実施する旨を誓約するものです

誓約書を出している以上、許可期間中に規模を大きくすると、次回の更新でつまずくことになります。ここが次の落とし穴につながります。

4.落とし穴7つ

落とし穴① 新規で派遣事業を始める会社は使えない

前述のとおり、平成28年9月30日以降、配慮措置は旧・特定労働者派遣事業を行っている事業者に限定されています。「これから派遣業を始めたい」という会社は対象外と考えてください。

落とし穴② 「1つの事業所」の判定は、派遣所以外の拠点も含む

ここは特に誤解が多いところです。配慮措置でいう「1つの事業所のみ」とは、派遣事業を実施する事業所だけを数えるのではありません。当該事業主の労働者が勤務する場所または施設を含めた事業所の数が1つであることが必要です。

つまり、派遣事業はしていないけれど支店・営業所・事務所が別にある、という場合には、配慮措置の要件に該当しません。

落とし穴③ 「10人以下」の判定は、過去1年間の平均人数

常時雇用している派遣労働者の人数は、申請前の過去1年間に雇用された派遣労働者の平均人数で判断します(様式第17号で報告します)。申請時点の人数ではありません。繁忙期だけ人数が増えている会社では、平均で見たときにどうなるかを確認しておく必要があります。

落とし穴④ 規模が大きくなると、通常の要件に戻る

配慮措置は「当分の間」の措置です。許可有効期間中に派遣労働者が10人を超えたり、事業所が2つ以上になったりすると、次の更新では通常の要件(基準資産額2,000万円以上・現預金1,500万円以上)が必要になります。

「配慮措置で更新できたから安心」と規模を拡大した結果、次回の更新で2,000万円が必要になる。これは実務でよく見られる流れです。成長計画がある会社は、最初から本則の水準を視野に入れておくことをおすすめします。

落とし穴⑤ 「5人以下」の500万円・400万円の措置は、すでに終了している

配慮措置にはもう一段階あり、1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が5人以下である中小企業事業主については、基準資産額500万円以上・現金預金400万円以上という措置が設けられていました。ただし、こちらは平成27年9月30日から平成30年9月29日までの3年間の措置であり、すでに終了しています。現在は使えません。

落とし穴⑥ 配慮措置を使っても、月次決算と公認会計士の証明は必要

配慮措置は、あくまで金額の水準を下げる措置です。直近の本決算で配慮措置の要件を満たしていなければ、その後の月次(または中間)決算で要件を満たし、公認会計士の監査証明または合意された手続実施結果報告書を添えて提出する必要があります。ここは本則の場合と同じです。

また、月次決算書への証明には独立性が求められます。日頃の記帳や決算に関与している顧問の先生は、この証明業務を引き受けられません。

落とし穴⑦ 該当するかどうかの最終判断は、管轄の労働局

「中小企業事業主」に該当するかどうかを含め、配慮措置の適用可否は最終的に管轄の労働局が判断します。自社で自己判断せず、早い段階で確認しておくことが安全です。

5.配慮措置が使えない会社は、どうすればよいか

残念ながら対象外だった場合でも、更新や許可取得を諦める必要はありません。本則の3要件を満たすための打ち手は、いくつかあります。

  • 増資(合同会社であれば、資本金を増やさず資本剰余金を増やす方法もあります)
  • DES(役員借入金などの負債を資本に振り替える)
  • 負債の圧縮(借入金の返済、不要資産の売却・整理)
  • 保険積立金の解約(解約返戻金と積立金の差額が利益となり、基準資産額と現預金を同時に増やせる場合があります)

そして、直近の本決算で要件を満たせない場合は、要件を満たした月次(または中間)決算書と公認会計士の報告書を添えて提出することになります。打ち手の検討と資金の手当てには時間がかかりますので、更新申請の期限(有効期間が満了する日の3か月前)から逆算して、早めに動き出すことが何より大切です。

なお、地方公共団体による債務保証契約または損失補填契約によって派遣労働者に対する賃金の支払いが担保されている場合には、そもそも資産要件が求められないという例外もあります。該当するかどうかは管轄の労働局にご確認ください。

6.まとめ

  • 配慮措置では、基準資産額1,000万円以上・現金預金800万円以上に緩和される(負債比率は緩和されない)
  • 対象は「1つの事業所のみ」「常時雇用する派遣労働者10人以下」「中小企業事業主」の3条件を満たす場合
  • 平成28年9月30日以降は、旧・特定労働者派遣事業を行っている事業者に限定。新規で始める会社は対象外
  • 「1事業所」は派遣所以外の拠点も含めて数える。「10人以下」は過去1年間の平均人数で判定する
  • 規模が大きくなれば、次の更新では通常の要件に戻る
  • 配慮措置でも、月次決算と公認会計士の証明が必要な点は変わらない

まずは、自社が配慮措置の対象になるのか、管轄の労働局にご確認ください。そのうえで、対象外であれば本則の要件をクリアする打ち手を検討することになります。

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jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。