【派遣許可の財産的基礎】株式会社と合同会社でクリア方法はどう違う?増資・DES・減資を比較

労働者派遣事業の許可における財産的基礎の要件は、会社の形態によって変わるものではありません。株式会社でも合同会社でも、同じ3つの要件を満たす必要があります。

ところが、その要件をクリアするための手続は、株式会社と合同会社で大きく違います。特に「純資産を増やすときに、いくらを資本金にしなければならないか」という点は、登記の要否と登録免許税に直結します。派遣会社の設立や増資を検討されている方は、この違いを早めに知っておくと選べる選択肢が変わってきます。

1.大前提:要件の判定は、株式会社でも合同会社でも同じ

まず、共通の前提を確認しておきます。労働者派遣事業の許可(新規・更新)では、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

要件基準
① 基準資産額2,000万円 × 事業所数 以上
② 負債比率基準資産額 ≧ 負債の総額 × 1/7
③ 現金・預金1,500万円 × 事業所数 以上
※ 基準資産額 = 資産の総額 -(営業権・繰延資産)- 負債の総額

判定に用いられるのは資本金の額ではなく、基準資産額という純資産ベースの金額です。この部分は、株式会社でも合同会社でも変わりません。

違いが生まれるのは、「純資産をどうやって増やすか」と「あとでどう戻すか」の手続です。以下、5つの観点で見ていきます。

2.違い①:増資のとき、いくらを資本金にしなければならないか

株式会社は、払込みを受けた額の2分の1以上を資本金に計上しなければなりません(会社法445条2項)。資本金にしなかった残りは、資本準備金として計上されます。つまり、株式会社では「増資すれば必ず資本金が増える」ことになります。

合同会社には、このような制限がありません。出資のうちいくらを資本金にするかを会社が決めることができ、資本金にしなかった額は資本剰余金になります(会社計算規則44条)。資本金を1円も増やさずに、純資産だけを増やすことができます。

財産的基礎の要件は基準資産額(純資産ベース)で判定されますので、資本剰余金を増やしても資本金を増やしても、要件をクリアするという目的は同じように達成できます。それでいて、後述のとおり手続の重さがまるで違います。

3.違い②:登記と登録免許税

株式会社では、資本金の額は登記事項です。増資をすれば、効力発生日から2週間以内に変更登記を申請しなければなりません(会社法915条1項)。登録免許税は、増加した資本金の額の0.7%(3万円に満たない場合は3万円)です。資本金を最小限の2分の1に抑えれば税額は小さくできますが、ゼロにはできません。

合同会社では、全額を資本剰余金に計上すれば資本金の額が変わりません。登記すべき事項に変更が生じないため、変更登記は不要、登録免許税も0円です。ただし、出資の価額は定款の記載事項ですので、定款の変更(原則として総社員の同意)は必要です。

たとえば、追加で300万円の資金を入れた場合のイメージは次のとおりです。

項目株式会社(資本金に150万円を計上)合同会社(全額を資本剰余金へ)
資本金の増加150万円0円
変更登記必要不要
登録免許税3万円0円
基準資産額の増加300万円300万円
※ 金額は、理解しやすいように置いた仮の例です。

要件をクリアする効果は同じ300万円でも、かかる手間と費用がこれだけ違います。

4.違い③:DES(役員借入金の資本への振替)のしやすさ

役員借入金などの負債を資本に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ)も、会社形態によって手続の重さが変わります。

合同会社の現物出資は、財産の種類や額にかかわらず、検査役の調査は不要です。

一方、株式会社の現物出資は、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要です(会社法207条1項)。ただし例外が定められており、次のいずれかに当てはまれば検査役の調査は不要です(同条9項)。

  • 現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合
  • 現物出資をする引受人に割り当てる株式の総数が、発行済株式の総数の10分の1を超えない場合
  • 市場価格のある有価証券を出資する場合
  • 弁護士・公認会計士・税理士等の証明を受けた場合
  • 現物出資財産が会社に対する金銭債権で、弁済期が到来しており、その価額が負債の帳簿価額を超えない場合

役員借入金のDESは、最後の「会社に対する金銭債権」に当たるため、検査役の調査を省略しやすい類型です。ただし「弁済期が到来しているもの」に限られますので、返済期日を定めている借入金の場合は注意が必要です。

また、株式会社のDESでは資本金が増えるため、変更登記と登録免許税が発生します。合同会社で資本剰余金に計上すれば、これらを避けられます。

5.違い④:純資産を「戻す」ときの難しさ

次に、入れたお金を戻す場面です。

株式会社が資本金の額を減らす場合は、株主総会の特別決議(会社法447条1項)に加えて、債権者保護手続が必要です(会社法449条1項)。官報への公告と知れている債権者への各別催告を行い、1か月以上の異議申述期間を置かなければなりません。例外は、準備金のみを減少させて欠損のてん補に充てる場合です。

合同会社が資本金の額を減らす場合も、同じく債権者保護手続が必要です(会社法627条)。ここは両者に差がありません。

ただし、合同会社はそもそも資本金を増やさないという選択ができます。資本金を増やしていなければ、あとで社員に払い戻すときも資本剰余金の範囲内で対応でき、債権者保護手続を避けられる場合があります。手続の重い資本金に一度入れてしまうと、出すときに苦労する。これが、資本剰余金という選択肢を持つことの実質的な意味です。

6.違いを一覧で比較

観点株式会社合同会社
増資時に資本金へ計上する必要払込額の2分の1以上(会社法445条2項)制限なし。全額を資本剰余金にできる(会社計算規則44条)
資本金を増やさない追加出資できないできる
変更登記必要(2週間以内/会社法915条1項)資本金の額が変わらなければ不要
登録免許税増加した資本金の額×0.7%(最低3万円)資本金を増やさなければ0円
現物出資(DES)の検査役原則必要。例外あり(会社法207条9項)不要
資本金を減らすとき株主総会の特別決議+債権者保護手続(会社法447条・449条)債権者保護手続(会社法627条)

7.まとめ:どちらが有利か

純資産を増やして財産的基礎の要件をクリアする、という目的に限って言えば、合同会社のほうが手続の自由度が高いといえます。資本金を増やさずに純資産を増やせるため、登記も登録免許税も発生せず、後々お金を戻すときの選択肢も広く残ります。

もちろん、株式会社には株式による資金調達や種類株式の設計など、別の強みがあります。どちらの形態が優れているかという話ではなく、「派遣許可の財産的基礎をクリアする」という一点で見ると、合同会社の資本剰余金は明確なメリットだということです。

なお、株式会社にも資本剰余金(資本準備金・その他資本剰余金)はあります。ただし、増資のたびに払込額の2分の1以上が資本金に入るため、合同会社のように「最初から全額を資本剰余金に寄せる」ことはできません。

すでに株式会社で、これから更新を迎える場合は、この「資本金を増やさない」という手段が取りにくくなります。その分、DESや負債の圧縮など、別の打ち手を組み合わせて検討する必要があります。自社がどちらに当てはまるか、まずは直近の決算書でご確認ください。

関連ページ

今すぐお電話ください!

預金不足の解決策、純資産不足の解決策、合意された手続、監査のお問い合わせなどお気軽にお問い合わせください。

投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。