不動産賃貸業の会社はなぜ1/7基準でつまずく? 労働者派遣事業許可の財産的基礎の要件と別会社分流の解決策

不動産賃貸業を本業とする会社から、「労働者派遣事業の許可申請で、財産的基礎の要件のいわゆる“1/7基準”をどうしてもクリアできない」というご相談を、実務で立て続けにいただいています。

実態を見れば事業の運営に全く支障がない、むしろ手堅く経営されている会社ほど、この基準で引っかかってしまう――。今回はその構造と、実務でよく採用されている解決策(労働者派遣事業だけを別会社へ切り出す方法)について解説します。

まずおさらい。財産的基礎の要件と「1/7基準」

労働者派遣事業の許可(新規・更新とも)では、直近の決算書(または要件を満たす月の月次決算書)の数字をもとに、次の3つの要件を満たすことが求められます。

要件基準
①基準資産額2,000万円×事業所数 以上
②基準資産額と負債の比率(いわゆる1/7基準)基準資産額 ≧ 負債の総額÷7
③自己名義の現金・預金1,500万円×事業所数 以上

基準資産額とは、資産の総額から負債の総額を差し引き、さらに繰延資産とのれんを控除した額のこと。要は、実質的な純資産です。定義や計算方法の詳細は「財産的基礎の要件とは」の記事で解説しています。

このうち本稿のテーマは、2つ目の「基準資産額が負債の総額の7分の1以上」という基準です。負債が大きい会社ほどハードルが高くなる、その会社の借金の大きさを測る物差しのようなものです。

なぜ不動産賃貸業の会社は1/7基準でつまずくのか

冒頭でご紹介した事例をご覧ください。労働者派遣事業許可を持っている会社さんですが、本業は不動産賃貸業。保有する物件(資産)はたくさんある一方で、銀行からの借り入れも非常に大きく、いわゆるレバレッジを利かせたバランスシートの会社さんでした。

基準資産額も大きく、預金残高も非常にたくさんある。それなのに、負債が膨らんでいるために基準資産額と負債の比率が要件を満たさない――財産的基礎の要件をクリアできない、という状態です。

理由① 不動産賃貸業は、レバレッジを利かせたバランスシートが普通

不動産賃貸業は、通常の事業会社よりも銀行借り入れが大きくなりやすい業種です。会社側からすれば、資本効率を高めるために自己資本はできるだけ少なく、銀行借入(他人資本)でできるだけ多くの物件を取得して、多くの利益を稼ぎたい、という考えがあるからです。

レバレッジは、不動産賃貸業においてはごく自然で、むしろ合理性のある経営手法と言えます。つまり、「経営としては正しいのに、派遣の許可要件では不利に働く」というズレがここで生まれます。

理由② 銀行も、不動産賃貸業には債務償還年数を長めに認める

さらに、銀行の審査の実務では、不動産賃貸業の会社に対しては、一般の事業会社よりも債務償還年数が長くてもよいという扱いをしています。そのため実際には、融資を受けられてしまうのです。

借りられる仕組みがある以上、不動産賃貸業の会社の負債の総額はどうしても膨らみます。そのため、不動産賃貸業を行っている会社さんは、負債の比率が高い会社が非常に多いのです。

その結果、実態は健全なのに「比率で落とされる」

例えば、次のような会社を考えてみましょう(数字は説明のための例です)。

項目金額(例)
基準資産額(実質的な純資産)5,000万円
負債の総額(銀行借入中心)4億円
負債の総額÷7約5,714万円
判定5,000万円<約5,714万円 → 1/7基準 未達

預金も十分にあり、賃貸物件の収益も安定していて、事業の運営に支障がないことは実態を見れば明らかです。しかし、財産的基礎の要件のチェックは貸借対照表の比率分析によって行われるため、実態をどれだけ丁寧に説明しても、この比率ではクリアする方法がありません。

この構造は会社の規模に関係なく生じます。ですから、不動産賃貸業を行っている会社さんで、労働者派遣事業許可を持っている(または取得を考えている)会社さんには、共通のお悩みと言ってもいいかもしれません。

解決策は、労働者派遣事業だけを「別会社」に切り出すこと

では、これに対する解決策はあるのでしょうか。一般的な解決策としては、不動産賃貸業の会社から労働者派遣事業のビジネスだけを切り取って、会社分割や事業譲渡の形で別会社として運営する方法が採用されています。

なぜこれでクリアできるのか。財産的基礎の要件は、申請する会社そのものの貸借対照表で判定されるからです。労働者派遣事業だけを引き継いだ別会社のバランスシートには、不動産も銀行借入も乗りません。負債の総額が小さい会社であれば、「基準資産額が負債の総額の1/7以上」という基準は、ほとんどの場合、簡単にクリアできます。

会社分割事業譲渡
方法労働者派遣事業を分割契約で新会社(または既存の別会社)に承継させる労働者派遣事業を資産・契約ごと別会社へ売り渡す(移転する)
承継のしかた分割契約により包括的に承継個別の契約ごとに相手方の同意を得て移転
手続・手間株主総会決議や事前開示など法務手続が必要移転する契約ごとの切り替え作業が必要

どちらの方法でも、切り出した先の別会社で改めて労働者派遣事業の許可申請(新規)を行うことになります。少し厄介で手間のかかる方法ではありますが、実際にこのようにすることで、労働者派遣事業許可のための財産的基礎の要件をクリアできるケースが多く、実務でもこのような対応をなさっている会社さんが多いです。

別会社に切り出すときの注意点

  • 許可は新規申請になる:既存の許可をそのまま移せるわけではないため、事業の切り出しと許可申請のタイミングを逆算して計画する必要があります。
  • 他の要件も別会社で満たす:専門知識要件(派遣元責任者の確保)や雇用管理要件、財産的基礎の他の2要件(基準資産額2,000万円×事業所数、現金・預金1,500万円×事業所数)も、別会社で改めて満たす必要があります。
  • 契約・取引の移転:派遣先契約や雇用契約などをどう別会社へ移すか。会社分割なら包括承継が使えますが、事業譲渡では個別に同意を取る作業が発生します。
  • 税務・法務の専門家と相談:組織再編の対価の扱いや登録免許税など、コスト面も含めて事前にシミュレーションしておくと安心です。

とくに財産的基礎の他の2要件については、別会社でも改めて満たす必要がある点にご注意ください。ただ、負債の総額の小さい派遣専門の会社であれば、1/7基準の壁は実質的に消えますから、資金計画さえ立てれば、他の2要件と合わせてクリアしやすくなります。

これから派遣業を始める不動産賃貸業の会社さんへ

もしこれから不動産賃貸業の会社さんが人材派遣業を始めたいとお考えになった場合には、このような理由から、はじめから別会社で労働者派遣事業許可をお取りになるのがおすすめです。既存の会社で許可を取ってから「1/7基準でクリアできない」となると、あわてて事業の切り出しという大きな再編を短期間で行うことになってしまいます。

すでに許可をお持ちの会社さんが更新申請の場面で1/7基準に引っかかってしまった場合にも、対応策はあります。財産的基礎の要件をクリアするための他の選択肢(増資・新会社設立・M&A)については、財産的基礎の要件クリアへ3つの選択肢で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

まとめ

  • 不動産賃貸業は資本効率を高める構造上、負債の総額が大きくなりやすい
  • 実態が健全でも、基準資産額が負債の総額の1/7以上でなければ、財産的基礎の要件はクリアできない
  • 解決策は、労働者派遣事業だけを会社分割・事業譲渡で別会社に切り出すこと
  • これから派遣業を始めるなら、最初から別会社で許可を取るのがおすすめ

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。