有料職業紹介事業の新規許可申請に必要な「財産的基礎の要件」とは?

有料職業紹介事業を始めるには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。許可要件はいくつかありますが、その中でも特にご相談が多いのが財産的基礎の要件です。
実際、事務所要件や職業紹介責任者の選任は問題なく進んでも、最後に資産要件で止まってしまうケースは少なくありません。

なお、有料職業紹介事業の財産的基礎の要件は、新規許可申請と更新申請で数値基準が異なります。 更新申請では基準が緩和される部分がありますが、本記事では新規許可申請の場合に絞って、必要な数値基準と実務上の注意点をわかりやすく解説します。


有料職業紹介事業の新規許可申請における財産的基礎の要件

有料職業紹介事業の新規許可申請では、次の2つの要件をどちらも満たす必要があります。

1 基準資産額の要件

基準資産額 ≧ 500万円 × 事業所数
という基準を満たす必要があります。

ここでいう基準資産額とは、
資産総額 − 負債総額
で計算する金額ですが、資産には繰延資産及び営業権を含めません。 つまり、貸借対照表上の数字をそのまま見ればよいわけではなく、許可基準上の考え方で計算し直す必要があります。

2 現金預金の要件

自己名義の現金・預貯金の額 ≧ 150万円 + 60万円 ×(事業所数 − 1)
である必要があります。

この現金・預貯金は、事業開始後しばらくの運転資金を確保できるかを見るための要件です。厚生労働省の業務運営要領でも、事業開始後3か月程度の運営を賄うための資金として位置づけられており、現金または預貯金として保有していることが求められます。


事業所数ごとの必要額はいくら?

1事業所で申請する場合と、複数事業所で申請する場合とでは必要額が変わります。整理すると次のとおりです。 厚生労働省

事業所数基準資産額現金預金額
1か所500万円以上150万円以上
2か所1,000万円以上210万円以上
3か所1,500万円以上270万円以上
4か所2,000万円以上330万円以上

したがって、「有料職業紹介は500万円あれば必ず許可が取れる」という理解は正確ではありません。事業所が2か所以上ある場合は、その数に応じて必要額が加算されます。


「500万円あればよい」は半分正解、半分誤解です

新規申請のご相談で多いのが、「資本金500万円で会社を作ったのですが、これならば大丈夫ですか?」というご質問です。
たしかに、1事業所での申請であれば基準資産額500万円以上が一つの目安になります。しかし、実際にはそれだけでは足りません。自己名義の現金預金150万円以上という別の要件も同時に満たす必要があるからです。

また、基準資産額は「資本金の額」そのものではなく、資産と負債の差額で判定されます。設立直後であっても、借入金の状況や設立費用の処理内容によっては、思ったほど基準資産額が伸びないことがあります。とくに繰延資産や営業権は基準資産額の計算から除外されるため、会計上の純資産と許可基準上の判断がずれることがあります。


設立したばかりの会社でも申請できるのか

はい、可能です。
設立後最初の決算期を終了していない法人については、直近の決算書ではなく、会社成立時の貸借対照表等で財産的基礎を確認する取扱いになっています。設立直後の会社で有料職業紹介事業を始めたい場合でも、成立時点の貸借対照表で要件を満たしていれば申請は可能です。

このため、新規に会社を立ち上げて人材紹介業を始めるケースでは、設立時点でどの程度の資本を入れるか、借入をどう設計するかが非常に重要になります。後から調整しようとすると、申請スケジュール全体に影響することもあります。


直近決算書で要件を満たさない場合はどうする?

既存法人が新たに有料職業紹介事業の許可を取ろうとする場合、直近決算書では財産的基礎の要件を満たしていないことがあります。
この場合、厚生労働省の案内では、公認会計士又は監査法人による監査証明を受けた中間決算書又は月次決算書によって確認する取扱いが示されています。

つまり、申請時点では資産状況が改善していても、提出するのが古い決算書だけだと要件を満たさないことがあります。その場合には、申請時点に近い財務状況を示す中間決算書・月次決算書を作成し、監査証明を付けることが実務上の対応になります。


新規申請では「合意された手続」ではなく、原則として監査証明

ここは誤解の多いポイントです。
更新申請では、一定の場合に合意された手続実施結果報告書による運用が認められている場面がありますが、新規許可申請で決算書の不足を補う場合には、公認会計士等による監査証明が求められると整理されています。

そのため、新規申請の記事としては、
「決算書で要件を満たせない場合は、月次決算書や中間決算書を作ればよい」
で止めるのではなく、
「それに加えて監査証明が必要になる」
という点まで覚えておきましょう。


新規申請前に確認しておきたい実務上のポイント

新規許可申請の前には、少なくとも次の点を確認しておくと安心です。

1 事業所数を確定する

財産的基礎の要件は事業所数に連動します。将来的に複数拠点展開を考えていても、申請時点で何か所を許可対象にするのかによって必要額が変わります。

2 貸借対照表の中身を精査する

単純に預金残高だけを見るのではなく、負債の額、繰延資産の有無、営業権の計上の有無なども確認が必要です。見た目の純資産と、許可基準上の基準資産額が一致しないことがあるためです。

3 現金預金は「自己名義」で保有する

現金預金要件は自己名義であることが前提です。法人申請であれば、原則として法人名義の現金・預金で確認される前提で準備を進めるのが安全です。

4 決算書で不足するなら早めに専門家へ相談する

不足が見込まれる場合は、増資や借入整理だけでなく、中間・月次決算書の作成時期監査証明のスケジュールも含めて逆算する必要があります。許可申請は事務所要件や人的要件の準備も並行するため、財産的基礎の問題が後ろ倒しになると全体スケジュールに影響します。


更新申請との違いも一言で整理しておきます

本記事は新規申請向けですが、比較のために更新申請との違いも一言で整理すると、更新では基準資産額の基準が「350万円×事業所数」となります。 この違いがあるため、新規申請と更新申請は分けて説明しております。


まとめ

有料職業紹介事業の新規許可申請では、財産的基礎として、次の2つを満たす必要があります。

  • 基準資産額が 500万円 × 事業所数 以上
  • 自己名義の現金預金額が 150万円 + 60万円 ×(事業所数−1)以上

また、既存法人で直近決算書の数字が届かない場合には、中間決算書や月次決算書を作成し、公認会計士又は監査法人の監査証明を受ける対応が必要になることがあります。新規申請では、この点を早めに見極めることが重要です。

有料職業紹介事業の許可申請は、事務所要件や責任者要件だけでなく、財産的基礎の判定で止まってしまうことがよくあります。申請準備をスムーズに進めるためにも、設立時点・申請前の時点で一度、貸借対照表と預金状況をチェックしておくことをおすすめします。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。