ジェイックに見る、教育融合型モデルの強さと、採用支援会社が今すぐ考えるべきこと

人材紹介や採用支援の現場では、しばしばこういう空気が漂います。
求人を集める。求職者を集める。両者をつなぐ。成約する。終わり。
たしかに業務フローとしてはそうです。だが、それだけだと薄い。あまりにも薄い。要するに「右から左」です。経済学の言葉で言えば、付加価値の源泉が乏しい状態です。ここでいう付加価値とは、単に手数料を上乗せすることではなく、市場に出る前の人材に何らかの変化を与え、企業にとっての採用可能性を高めることを指します。

この点で、株式会社ジェイックのモデルはかなり示唆的です。同社は1991年設立の企業で、会社概要では、各種教育セミナー事業、7つの習慣研修、デール・カーネギー・トレーニング、原田メソッド研修、若手総合職就職・採用支援サービス「ジェイック 就職カレッジ」、中退者向け就職支援、新卒支援、大学支援サービスなどを事業内容として掲げています。つまり最初から、人を「採る」だけの会社ではなく、人を「育てる」機能を持つ会社として輪郭をつくってきたわけです。

同社自身も、事業を「採用支援・教育支援の2軸」で説明しています。この「2軸」という言い方は大事です。なぜなら、採用支援を単独の売り物にしていないからです。採用と教育が別々に並んでいるのではない。採用の前にも後にも教育があり、教育の先に採用がある。この往復運動が同社の骨格です。言い換えれば、採用支援の中に教育が埋め込まれている。これを本稿では教育融合型と呼びます。ここでいう教育融合型とは、研修事業と人材紹介事業が別部署で併存しているだけではなく、候補者の育成そのものが採用支援サービスの商品価値を構成しているモデルのことです。

ジェイックの個人投資家向け説明では、同社は「若手人材をトレーニングした後、企業に紹介する『カレッジ事業』を展開」と明記しています。対象は、同社の表現を借りれば「就職ポテンシャル層」です。これは、就職活動で苦戦しやすいが、潜在能力まで低いとは限らない若年層を指す整理です。ここが重要です。履歴書だけで見ると弱く見える。しかし、教育を挟むと見え方が変わる。市場でそのまま流すと値が付かないものに、工程を入れることで商品性を持たせる。ずいぶん生々しい言い方になりますが、これは流通ではなく加工です。比喩的に言えば、右から左に運ぶ商社ではなく、手を入れて価値をつくるメーカーに近い発想です。

その象徴が「就職カレッジ」です。公式サイトでは、対象者をフリーター、第二新卒、ニート、未経験者とし、費用はすべて無料としています。内容もはっきりしています。履歴書や面接対策といった就活ノウハウだけでなく、ビジネスマナーや仕事に対する考え方など、就職してから困らない社会人の基礎を学べると説明されています。さらに企業側の説明ページでは、参加する若者に対して、独自に開発したメソッドによる研修を事前に実施し、基本的なビジネスマナーに加え、主体性や考える力、周囲に良い影響を与えるコミュニケーション力を備えた人材を紹介するとしています。

ここで「主体性」という言葉を、ただの精神論として読み飛ばしてはいけません。主体性とはつまり、指示が来るまで固まっている状態から、自分で状況を解釈し、自分で行動を選択できる状態への移行です。企業が未経験者採用で本当に恐れているのは、スキル不足そのものより、学習不能性です。教えても吸収しない、環境に適応しない、報連相が回らない。このリスクが怖い。だからこそ、ビジネスマナー、報連相、仕事観、主体性といった「職務遂行の前提条件」を事前に整えることには意味があります。要するに、まだ戦力ではないが、戦力化できる状態にはしておく。その中間地帯をつくっているのが、教育融合型モデルです。

しかもジェイックは、この育成内容をかなり具体的に開示しています。企業向け採用サービスページでは、就職希望者に対してJAIC版「7つの習慣」のエッセンスを取り入れた研修を行い、主体性の向上を目指すと説明しています。あわせて、新社会人として活躍するための心構え、挨拶、報連相、理想と現実のギャップへの向き合い方、さらに原田メソッドによる目標設定や考える力の養成にも触れています。つまり同社の「教育」は、単なる会社説明会や模擬面接ではありません。社会人化の初期工程をパッケージ化している。ここでいう社会人化とは、職業生活に必要な規範、態度、対人技法、自己管理の基礎を身につける過程のことです。

数字も出ています。個人向けサービスページでは、「就職カレッジ」等主催の面接会参加人数として、2005年5月から2025年4月までで39,392人の就職を支援したとしています。最短2週間で就職決定とする実績も、2024年2月1日から同年9月30日までの初回面談日から就職決定した1,163名をもとに算出したと明記しています。企業向けの採用イベント説明では、2009年7月から2025年4月までの面接会延べ参加企業数が52,009社以上、2024年2月から2025年1月に面接会に参加して内定を得た求職者のうち承諾した人の割合は74.5パーセントとしています。さらに、採用後は1年間に4回のフォロー研修を行うことで高い定着率を実現していると同社は説明しています。

この74.5パーセントという数字は、経営者目線で見ると重い。内定を出しても辞退される。採用したのにすぐ辞める。現場の実感としては、こちらの方がよほど痛い。採用コストは広告費だけではありません。現場面接の時間、調整工数、教育担当の拘束時間、採用見送りによる機会損失まで含めると、実際にはかなり侵襲的です。ここでいう侵襲的とは、企業の時間と組織資源を深く削る、という意味です。だから企業が買いたいのは、単なる「人」ではなく、「採れる確率が高く、入社後も立ち上がる可能性が高い人」です。ジェイックはそこに対して、研修、面接会、内定承諾支援、入社後フォローを一続きで置いている。これは紹介業の皮をかぶった運用設計業でもあります。

この構造は、労働者派遣や有料職業紹介に関わる経営者にとって、かなり本質的な示唆を持ちます。人材ビジネスが価格競争に落ちるとき、たいていは商品定義が曖昧です。誰でも紹介できる。どこでも紹介できる。つまり代替可能性が高い。経済学的にはコモディティ化です。コモディティ化とは、買い手から見てどの会社から買っても大差がない状態を指します。そうなると、最後に残る勝負は手数料率と営業体力です。大手が強いに決まっています。知名度、母集団、広告投下余力、管理体制、全部で押し切られる。

だからこそ、脱・右から左モデルが必要になります。右から左でつなぐだけの事業か。それとも、つなぐ前に人材を変える事業か。この二項対立は、かなり残酷ですが、かなり正確です。紹介会社が将来も残るかどうかは、この差で決まりやすい。今日の成約件数ではなく、5年後に「その会社に頼む理由」が残っているかどうかです。いまはなんとなく回っていても、景気後退局面や採用抑制局面では、ただ案件を流すだけのモデルから先に苦しくなる。現在の快適さは、未来の無力さを隠します。これを時間軸で言い換えるなら、今月の売上の安心と、3年後の存在意義の不安との交換です。

では、同業他社は何を学ぶべきか。結論は比較的はっきりしています。自社で「育成機能」を持つことです。もちろん、いきなりジェイックと同規模の研修事業を持てという話ではありません。そこまでやる必要はない。必要なのは、候補者に対して何らかの変化を与え、その変化を企業に説明できるようにすることです。乱暴に言えば、「この人、ただ登録してきた人です」では弱い。「この人、応募前にこの講座を受け、この観点を理解し、この課題をやり切りました」まで言えると、商談の質が変わる。候補者のラベルが変わるからです。

実務としては、小さく始めれば十分です。たとえば、ターゲット職種に特化した1時間から2時間のミニ研修を無料で提供する。営業職なら面接突破講座、事務職ならExcelピボットテーブル実践講座、製造業なら現場で使う業界用語と安全衛生の基礎、といった具合です。次に、安価なeラーニングを使い、ビジネスマナー、情報セキュリティ、コンプライアンス、報連相の基礎を事前受講してもらう。さらに、受講履歴、確認テスト、簡単なレポート提出を組み合わせれば、企業に提示できる客観データが増えます。

この「客観データ」は軽く見てはいけません。ここでいう客観データとは、受講したかどうか、理解度テストの結果、提出物の有無、面談時の変化など、候補者の意欲や準備度を第三者に説明できる記録のことです。人材紹介は、どうしても主観が混じる商売です。「感じがいいです」「やる気があります」「伸びしろがあります」。もちろんそれも必要ですが、それだけだと弱い。営業トークに聞こえるからです。そこに、事前学習の履歴、課題完了、一定の研修修了という事実が乗ると、推薦の密度が上がる。候補者は「ただの人」から「準備を終えた人」になります。

効果は三つあります。第一に、企業への説明力が上がります。第二に、候補者の本気度を見極めやすくなります。第三に、紹介手数料の交渉余地が広がります。なぜなら、提供しているものが応募者送客だけではなく、選考前育成という追加工程を含むからです。価格とは、コストの反映ではなく、価値の説明可能性です。説明できる価値が増えれば、価格の防衛力も増します。

もっとも、ここで誤解してはいけない点があります。育成機能を持つことは、善意のボランティアではありません。むしろ逆です。選別精度を上げ、企業との関係を深くし、辞退や早期離職のリスクを下げ、紹介の再現性を高めるための経営施策です。甘やかしではない。収益構造の再設計です。言い方を変えれば、候補者支援の顔をした粗利改善策でもある。きれいごとに見えて、実はかなり現実的です。

ジェイックのモデルが示しているのは、若年層や未経験層を扱うなら、なおさら教育を抜いてはいけない、ということです。履歴書で勝てない人を、そのまま市場に出しても苦戦しやすい。しかし、準備工程を入れれば、企業にとっての見え方が変わる。候補者にとっても、ただ落ち続ける就職活動から、学びながら挑む就職活動へと意味が変わる。採用支援とは、本来そこまでやって初めて支援と呼べるのかもしれません。

人を流すだけか。人を育ててから届けるか。
この差は、いまは営業資料の一文の違いに見えるかもしれません。ですが数年後には、紹介手数料率、成約率、辞退率、リピート率、そして会社の存在理由そのものにまで効いてきます。右から左の仲介で消耗するのか。育成という付加価値で選ばれるのか。人材ビジネスの分岐点は、案外そこにあります。

必要なのは、大げさな変身ではありません。まずは小さな研修を一つ持つことです。
その一歩が、紹介会社を「人を運ぶ会社」から「人の価値を上げる会社」へ変えていきます。
そして、その差こそが、これからの人材ビジネスにおける最も現実的な競争優位になっていくはずです。

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jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。