派遣事業の事業所新設、監査証明は不要? 財産要件をクリアする最短ルート

すでに労働者派遣事業許可を取得している事業者が、新たに事業所を増設する際の手続きについて、多くの事業者が見落としがちな重要なポイントを含めて解説します。特に「財産的基礎要件をクリアするために公認会計士の監査証明が必要なのか」という実務上最も重要な論点について、明確な結論をお示しします。

事業所新設時に必要な手続き

1. 事業所新設届の提出

すでに労働者派遣事業許可を持っている事業者が新たに派遣元事業所を設置する場合、「派遣元事業所新設届出書(様式第5号)」を、新設する事業所を管轄する労働局に提出します。

提出期限:事業所を設置した日から10日以内

2. 提出先

新設する事業所の所在地を管轄する都道府県労働局(需給調整事業部または需給調整課)

3. 届出に必要な主な書類

  • 派遣元事業所新設届出書(様式第5号)
  • 事業所の平面図・設備の配置図
  • 事業所の使用権を証明する書類(賃貸借契約書等)
  • 派遣元責任者の住民票の写し
  • 派遣元責任者の履歴書
  • 派遣元責任者講習受講証明書
  • 個人情報適正管理規程
  • 就業規則(派遣労働者用)
  • その他所定の書類

4. 事業所新設の要件

新設する事業所も、初回許可申請時と同様の基準を満たす必要があります。

主な要件

  • 事業所の独立性:個室または間仕切りで区画された専用スペースがあること
  • 面積要件:概ね20㎡以上の広さがあること
  • 派遣元責任者の配置:各事業所に専任の派遣元責任者を配置すること
  • 派遣元責任者講習の受講:派遣元責任者が3年以内に所定の講習を受講していること
  • 財産的基礎要件:事業所数の増加に応じた財産的基礎を満たすこと

事業所新設時の最重要論点:財産的基礎要件

なぜ財産的基礎が問題になるのか

見落とされがちなのが、事業所を新設すると財産的基礎要件の計算式が変わるという点です。

事業所が1箇所の場合と2箇所以上になる場合では、求められる基準資産額が異なります。

財産的基礎要件の計算式

労働者派遣事業の許可要件として、以下の財産的基礎を満たす必要があります。

基準資産額の計算

事業所が2箇所以上の場合

  • 基準資産額 ≧ 2,000万円 × 事業所数

現預金の計算

事業所が2箇所以上の場合

  • 現預金 ≧ 1,500万円 × 事業所数

その他の要件

  • 基準資産額 ≧ 負債総額 × 1/7

具体例で理解する

【例】現在1事業所で許可を持つA社が、2事業所目を新設する場合

現状(1事業所)

  • 基準資産額:2,000万円以上
  • 現預金:1,500万円以上

新設後(2事業所)

  • 基準資産額:4,000万円以上(2,000万円×2)
  • 現預金:3,000万円以上(1,500万円×2)

このように、事業所を1箇所増やすだけで、基準資産額が2,000万円、現預金が1,500万円増やす必要があります。

直近の決算書で要件を満たせない場合の対応

問題の所在

事業所を新設しようとした時点で、直近の決算書が財産的基礎要件を満たしていないケースは少なくありません。例えば、1事業所時代の決算書では基準資産額が2,500万円だったという場合、2事業所に増やすには4,000万円必要ですから、1,500万円不足します。

解決策:月次決算による申請

このような場合、直近の決算後の月次決算書で財産的基礎要件を満たせば、新設届を受理してもらえるという救済措置があります。

具体的な流れ

  1. 決算日以降、増資や利益留保により財産的基礎を強化
  2. 月次決算書を作成
  3. 公認会計士または監査法人による証明を取得
  4. 証明付きの月次決算書を添付して新設届を提出

最大の論点:公認会計士の証明は「監査証明」が必要か?

実務上の大きな疑問

ここで誰もが抱く疑問があります。

「公認会計士の証明として、監査証明が必要なのか、それとも合意された手続実施結果報告書で足りるのか?」

この違いは、事業者にとって時間的にも金銭的にも極めて大きな差があります。

監査証明と合意された手続の違い

監査証明(監査報告書)

  • 公認会計士が財務諸表全体の適正性について意見を表明
  • 実施範囲が広く、手続きが詳細
  • 報酬:数十万円~数百万円
  • 期間:1~3ヶ月程度

合意された手続実施結果報告書

  • 依頼者と合意した特定の手続を実施し、その結果を報告
  • 実施範囲が限定的
  • 報酬:数万円~十数万円程度
  • 期間:1~2週間程度

この違いは、事業者にとってコストが10倍以上違うこともあります。

結論:合意された手続で足りる

結論から申し上げますと、事業所新設時の月次決算書に付ける公認会計士の証明は、監査証明までは不要であり、合意された手続実施結果報告書で足ります。

根拠

この結論の根拠は、労働者派遣事業関係業務取扱要領 第3 3 (3)(ヘ)に明記されています。

同要領には次のように規定されています:

また、「許可基準」の財産的基礎に関する判断に当たって、基準資産額又は自己名義の現金・預金の額が増加する旨の申し立てがあった場合の確認書類の取扱いについては、許可の有効期間の更新手続の公認会計士又は監査法人による「合意された手続業務」を実施した中間決算又は月次決算による場合でも可能とする。

この規定により、事業所新設時に月次決算書で財産的基礎要件を満たす場合、公認会計士による合意された手続実施結果報告書があれば申請可能ということが明確になっています。

なぜこの情報が重要なのか

この情報を知らないと、以下のような不利益を被る可能性があります。

知らない場合の不利益

  • 不要な監査証明に高額な費用を支払う
  • 監査証明の取得に時間がかかり、事業所新設が遅れる
  • 場合によっては費用負担が大きすぎて事業所新設を断念

知っている場合のメリット

  • 合理的な費用で公認会計士の証明を取得
  • 短期間で手続きが完了
  • スムーズな事業拡大が可能

合意された手続実施結果報告書の取得方法

1. 公認会計士への依頼

合意された手続業務を実施できる公認会計士または監査法人に依頼します。

2. 実施される主な手続

一般的に以下のような手続が実施されます。

  • 月次決算書の基準資産額の計算過程の確認
  • 資産・負債の実在性の確認(預金残高証明書との照合等)
  • 現預金残高の確認
  • 債務超過でないことの確認

3. 報告書の取得

公認会計士から「合意された手続実施結果報告書」を受領します。

4. 届出書への添付

この報告書を、事業所新設届出書に添付して提出します。

実務上の注意点

タイミングを考慮する

月次決算書は、本決算の後の月のものを使用することが必要です。

財産的基礎の維持

事業所新設後も、継続的に財産的基礎要件を満たし続ける必要があります。年次の事業報告書提出時にも確認されますので、計画的な財務管理が重要です。

増資の検討

月次決算で要件を満たすのが難しい場合、増資により基準資産額を増加させることも有効な手段です。この場合も、増資後の月次決算書に合意された手続実施結果報告書を添付することで対応可能です。

まとめ

労働者派遣事業の事業所新設時には、以下のポイントを押さえておくことが重要です:

  1. 事業所数の増加により、財産的基礎要件が増加する(1事業所あたり基準資産額2,000万円、現預金1,500万円が加算)
  2. 直近の決算書で要件を満たせなくても、月次決算書で対応可能
  3. 月次決算書に添付する公認会計士の証明は、監査証明ではなく合意された手続実施結果報告書で足りる(労働者派遣事業関係業務取扱要領に明記)
  4. 合意された手続の方が、監査証明に比べて時間・費用ともに大幅に有利

特に3点目の「合意された手続で足りる」という点は、実務上極めて重要な情報です。この知識があるかないかで、事業所新設のスピードとコストに大きな差が生じます。

事業所新設を検討されている事業者の方は、ぜひこの点を念頭に置いて、計画的に準備を進めていただければと思います。

そして、もし、財産的基礎の要件を満たすことが困難な場合は、いちばんやさしいM&Aをご利用ください。財産的基礎の問題で悩む必要がなくなりますし、お値段もとってもお安いです。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。