有料職業紹介と登録支援機関を同時に取る会社が多いのはなぜか
特定技能外国人受け入れビジネスを、きれいごと抜きで、しかし制度の趣旨は外さずに見る
特定技能制度は、もはや一部の物好きな事業者だけが触る制度ではありません。出入国在留管理庁の公表によれば、令和7年12月末時点の特定技能在留外国人数は390,296人です。このうち特定技能1号が382,341人、特定技能2号が7,955人でした。しかも全体人数は過去最高で、特定技能2号は前期比約2.6倍まで増えています。人手不足分野で外国人材の受け入れが制度として定着しつつあることは、もう「たまたま一時的に伸びたんでしょう」で片づけにくい規模です。
その周辺でよく見かけるのが、有料職業紹介事業許可と登録支援機関登録をセットで取りにいく会社です。受け入れ企業から見ると、人材募集、選考、雇用契約、入国前後の手続支援、就労後の定着支援までを一つの窓口で処理できるので便利です。便利ですし、担当者の胃にもやさしい。外国人材本人から見ても、就職で終わらず、日本での生活立ち上げまで支援がつながるので、制度趣旨にはかなっています。ここまでは表の話です。
では、なぜこの組み合わせが増えるのか。ここで「社会的意義が高いからです」とだけ書くと、会計と許認可の実務を知る方ほど、ちょっとだけ遠い目になるはずです。私も大人ですので声を荒らげたりはしませんが、数字はなかなか正直です。結論からいえば、この組み合わせが選ばれやすい最大の理由は、紹介で一回、支援で毎月、という二層の売上構造が作れるからです。言い方を柔らかくすると事業の安定化、少し正直に言うと、儲けやすい設計になりやすい、ということです。
有料職業紹介事業は、求人企業と求職者の雇用成立をあっせんする事業です。特定技能の文脈では、受け入れ企業の求人ニーズを掘り起こし、候補者を募集し、面接を調整し、雇用契約の成立まで持っていくところが主戦場になります。一方で登録支援機関は、1号特定技能外国人に対して法律上必要な支援を、受け入れ機関から委託されて実施する立場です。事前ガイダンス、空港送迎、住居確保支援、生活オリエンテーション、公的手続同行、日本語学習機会の提供、相談対応、日本人との交流促進、非自発的離職時の転職支援、定期面談と行政機関への通報まで、10項目の義務的支援が制度上列挙されています。つまり、採用の前半を取るのが有料職業紹介、採用後の後半を回し続けるのが登録支援機関です。前半だけだと打ち上げ花火で、後半まで持つと月額課金の装置になる。経営としては、そりゃ気になるに決まっています。
もちろん、ここで「みんな金もうけ目当てです」と雑に断じるのは不正確です。制度の目的は、単なる送客ビジネスではなく、人手不足分野における適正な受け入れと外国人保護にあります。受け入れ機関には、雇用契約の履行、関係法令の遵守、支援計画の実施、定期・随時の届出など、相応に重い責務があります。とはいえ、制度の建付けを冷静に見ると、同じ顧客企業に対して、採用前の紹介業務と採用後の支援業務を一気通貫で提供できる会社の方が、顧客獲得コストを回収しやすいのも事実です。広告費や営業人件費をかけて一社開拓したなら、紹介成立で終わるより、就労後も支援委託契約が続く方が、収益の見通しは立ちやすい。きれいに言えばLTVが高い。身も蓋もなく言えば、営業が泣いて喜ぶ設計です。
実際、制度の外形もそれを後押しします。出入国在留管理庁は、受け入れ機関が支援計画の全部を登録支援機関に委託した場合、受け入れ機関が満たすべき支援体制基準を満たしたものとみなすとしています。受け入れ企業、とくに人事や総務の専任体制が厚くない中小企業にとって、支援の全部委託が合理的な選択になる場面は少なくありません。登録支援機関側から見れば、紹介で入口を押さえ、そのまま支援まで受ける提案がしやすくなるわけです。いわば紹介がフロント商品、支援が継続商品です。悪徳商法の話ではありません。制度がそういう経済合理性を持っている、というだけの話です。
ただし、このモデルは「儲かるから参入しよう」で雑に入ると、かなり危ないです。なぜなら、特定技能分野は売上の見え方に比べてコンプライアンス負荷が重いからです。まず有料職業紹介には、厚生労働大臣の許可が必要です。主な要件として、基準資産額が500万円×事業所数以上、自己名義の現金・預金が150万円+60万円×追加事業所数以上であること、職業紹介責任者の適正選任、個人情報の適正管理、事業所のプライバシー確保などが求められます。新規許可申請には、手数料として5万円+1万8千円×追加事業所数分の収入印紙と、登録免許税9万円が必要で、申請から許可までの標準期間はおおむね2か月から3か月です。思いつきで今月始める、みたいなノリには向きません。
そして、会計事務所の読者にとって重要なのが資産要件です。直近の事業年度の決算書だけでは財産的基礎の要件を満たさない場合、公認会計士または監査法人による監査証明を受けた中間決算書または月次決算書で確認できると、労働局資料には明記されています。ここは地味に見えて、許可申請の成否に直結するポイントです。事業は回っている、資金繰りも改善している、ただ前期末決算だけを見ると足りない。こういう会社は現実にあります。そのとき、数字をきちんと整え、監査証明に耐える月次や中間の財務情報を出せるかどうかで、申請スケジュールは変わります。許認可の現場で「あと少し届かない」が一番やっかいなのは、だいたい皆さんご存じのとおりです。
登録支援機関の側も、楽ではありません。令和8年4月23日現在、登録支援機関登録簿には11,324件が掲載されています。制度開始初期に比べると、かなりの数です。市場が大きいから参入者も多い。つまり、もう「登録さえ取れば左うちわ」の時代ではありません。価格だけで勝負すると支援品質が崩れ、支援品質が崩れると事故が起きる。ここでいう事故は比喩ではなく、相談対応の不備、面談の形骸化、生活支援の不履行、届出漏れ、費用負担のルール違反といった、普通に行政対応が必要になるやつです。経営者の皆さんが一番嫌いな、静かに積み上がって後で大きく刺さるタイプの問題です。
特に注意すべきなのは、1号特定技能外国人に対する義務的支援の費用は、直接または間接に本人へ負担させてはならないという点です。出入国在留管理庁のQ&Aでは、事前ガイダンス、生活オリエンテーション、相談対応、定期面談のための通訳費、出入国時の送迎交通費、住居確保のために保証会社を使う場合の保証料などは、受け入れ機関側の負担と整理されています。支援を受託する会社からすると、「ここも請求に乗せたいな」と思う誘惑はあるでしょうが、そこは制度が止めています。さらに、保証金の徴収や違約金契約など、外国人の自由意思を歪める仕組みは広く規制対象です。支援費用の名目や内訳を曖昧にしたまま走ると、あとで説明不能になります。
一方で、登録支援機関が受け入れ機関から徴収する料金には、入管法令上の上限はないとQ&Aで整理されています。ここだけ切り取ると、「ほらやっぱり儲けの話じゃないか」と言いたくなる気持ちは分かります。私も机を軽く三回ほど叩きたくなります。とはいえ、そこには但し書きがあり、委託契約締結時には、支援業務の内容、費用の額、その内訳を明示しなければなりません。つまり、上限はないが、説明責任はある。値付けの自由はあるが、ブラックボックスは許されない。自由市場と行政規制が、廊下で正面衝突しない程度に握手している感じです。
有料職業紹介の側でも、透明性は強化されています。厚生労働省は、令和7年4月1日から、令和6年度に徴収した紹介手数料の実績を人材サービス総合サイトに掲載することを求めています。常用就職の実績が多い上位5職種について、平均手数料率や、定額制ならその額を公開する仕組みです。要するに、手数料は取り方も取りましたでは済まず、実績公開まで含めて見られる時代に入ったということです。紹介と支援をセットで持つ会社ほど、価格設計と説明の整合性が問われます。
では、このモデルのメリットは何か。第一に、受け入れ企業への提供価値が高いことです。採用だけでなく、入国後の生活支援、行政手続、定期面談まで一本化できるため、企業側の管理負担は大きく減ります。第二に、事業収益の波がならされることです。紹介だけだと受注の有無で月次売上がぶれやすいのに対し、支援委託が積み上がると、一定の継続収入が見込めます。第三に、外国人本人の定着支援まで伴走できることです。これは建前ではなく、実務上かなり重要です。特定技能は、採用したら終わりではなく、働き続けられる状態をつくって初めて制度が回ります。紹介と支援が分断されるより、連携している方が改善しやすい場面は確かにあります。
ただし、ここで調子に乗ると危ない。メリットが強いモデルほど、運営が雑だと傷みも大きいからです。紹介した人数を追いかけるあまり、支援が名ばかりになれば、企業も外国人本人も離れます。登録支援機関は、受託した支援業務の全部をさらに第三者へ丸投げすることは認められていません。通訳人などの履行補助は使えても、責任そのものは消えません。人手不足だから外国人を受け入れる制度であるのに、その支援を回す自社の人手と多言語体制が足りない、というのは、笑えそうで笑えない制度コントです。実際にはそこで事故が起きます。
結局のところ、有料職業紹介事業許可と登録支援機関登録を組み合わせる会社が多いのは、制度趣旨に沿ったワンストップ提供ができるからであり、同時に、収益構造として合理的だからです。後者を隠して前者だけ語ると、いかにも清らかすぎて、少し現場を知らない文章になります。逆に、前者を無視して後者だけ語ると、今度は制度の本旨を外します。正確なのは、その両方です。採用前の紹介収益と、採用後の支援収益が一本の事業線になるから、このモデルは選ばれる。けれども、その収益は、許認可、財産要件、手数料開示、支援費用負担、面談、届出、再委託禁止といった細かく重いルールを守って初めて成立する。儲かるかどうかで言えば、儲かる可能性はある。ですが、雑にやると許認可ビジネスではなく、許認可に怒られるビジネスになります。ここだけは、妙に語呂がいいのに、まったく笑えません。
その意味で、公認会計士事務所がこの分野で果たせる役割は小さくありません。とりわけ有料職業紹介事業許可申請では、資産要件をどう示すかが初手の分岐点になります。前期決算だけで判断して「無理ですね」で終えるのではなく、月次や中間でどこまで整っているのか、監査証明に耐える財務情報として提示できるのかを見極めることは、申請の現実性を左右します。制度を正しく使い、無理な参入を避け、やるならきちんと通す。そのための数字の整備は、派手ではありませんが、かなり効きます。派手な営業資料より、静かな残高試算表が勝つ日もある。許認可の世界では、わりと本当です。
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- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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