テクノプロに見る、「誰をどこに出すか」を勘から仕組みに変える経営

人材派遣や技術者派遣の現場では、「配属力があります」という言葉が、わりと気軽に飛び交います。便利な言葉です。営業にも使えるし、採用広報にも使えるし、場合によっては社内の反省会でも使えます。ただ、その「配属力」とやらが、具体的に何でできているのかを聞くと、急に空気が薄くなることがあります。ベテランの勘、長年の経験、営業担当の人脈、配属担当のセンス。もちろん、それらは全部大事です。大事なのですが、それだけで回している会社は、名人がいる間は強いけれど、名人がいなくなると制度ごと消えがちです。テクノプロ・ホールディングスの2025年6月期有価証券報告書を読むと、同社はこの「配属力」を、属人的な腕力ではなく、スキル可視化とタレントマネジメントを軸にした経営システムとして捉えていることが見えてきます。派手ではありませんが、かなり本質的です。こういう地味な基盤が、だいたい後で効いてきます。

同社の有価証券報告書で最も象徴的なのは、22ページの記載です。そこでは、技術者の市場価値向上という観点から、技術スキルを可視化し、ギャップ分析を行い、リスキリングを進めて効果測定するタレントマネジメントの仕組みを、当社グループのコアコンピタンスの一つとしています。ここで重要なのは、「教育しています」でも「人を大事にしています」でもなく、スキルを見えるようにし、不足を測り、学び直しを進め、その結果まで見るという一連の流れが明示されている点です。言い換えれば、技術者の評価や配属を、感想文ではなく管理対象にしているわけです。派遣会社の経営で最も怖いのは、人を見ているつもりで、実は雰囲気だけを見ていることです。その点、同社の記載はかなり冷静です。

しかもこのタレントマネジメントは、人事制度の棚にしまわれたきれいな概念ではありません。有価証券報告書では、人材育成への積極投資により技術者の技術力を磨き、有能な技術者を創出することで、技術者の市場価値向上を実現し、働きがいと満足度向上を追求するとしています。つまり、スキル可視化は管理のための管理ではなく、配属の精度を上げ、本人のキャリアを伸ばし、結果として処遇や満足度にもつなげる前提として置かれています。配属というのは、売上を立てるだけの行為に見えて、実際にはその人の次の市場価値を決める行為でもあります。そこを分かっている会社は、配属を埋め草扱いしません。分かっていない会社は、空いている案件にとにかく誰か入れて、半年後にまた採用会議で頭を抱えます。業界あるあるです。

この思想は、同社の配属そのものの説明にも表れています。8ページでは、技術者の多くはグループの正社員であり、技術者のキャリア形成を支援しつつ顧客へ配属することで、タイムリーな技術者の確保や人件費の変動費化に対する顧客ニーズに安定的に応え、事業規模を活かしながら高稼働率を維持していると記載しています。ここで面白いのは、「キャリア形成を支援しつつ顧客へ配属」という順番です。先に配属してから、あとで考えるではない。少なくとも言葉の上では、キャリア形成支援と配属が一体になっています。派遣会社の配属は短期売上に引っ張られやすいので、ここを意識的に言語化しているのは大きい。顧客の穴を埋めることと、技術者の価値を高めることを両立させる。言うのは簡単ですが、仕組みがないとだいたい崩れます。

その仕組みとして同社が示しているのが、技術者情報の一気通貫管理です。報告書では、技術者派遣業務には、採用母集団の形成、スクリーニングと採用、配属、リテンション、研修、育成・要員計画といったコアプロセスが存在し、IT技術の進展により、各プロセスにおける技術者情報を可視化し、一気通貫で活用する仕組みを推進しているとしています。さらに16ページでは、技術者情報の収集、蓄積、分析をデータサイエンスやAIも活用しつつ充実させることで、採用効率の向上、効果的な人材育成、AIマッチングによる適正な技術者配属、契約単価向上など、コアプロセスを強化するための打ち手を導入すると記載しています。これを読むと、同社における配属力とは、「配属担当が頑張ること」ではなく、「採用から育成、配属、定着までの情報がつながっていること」だと分かります。ここを切り離してしまうと、採用部門は採用人数だけを見て、人材開発は受講時間だけを見て、営業は空き案件だけを見て、みんな頑張っているのに全体はうまく回らない、というおなじみの地獄が始まります。

この一気通貫設計を、経営課題としても同社は正面から置いています。15ページでは、成長戦略の背景にある経営課題の一つとして、営業、配属、デリバリー、育成、バックオフィス業務のデジタル化と生産性向上のためのITデジタル化の推進を挙げています。また16ページでは、営業、人事、会計といった基幹システムの抜本的見直しを進め、ワンシステム化とIT共通基盤の強化を目指しているとしています。ここで見逃せないのは、配属力を現場運用の話で終わらせず、基幹システムの話にまで引き上げていることです。人材会社では、配属は人事か営業の仕事だと思われがちですが、実際には、どのスキルがどの案件に適合するのか、どの育成履歴がどの単価帯に結びつくのか、どの人材が定着リスクを抱えているのか、といった情報がつながっていないと、最適配属はただの願望になります。システム投資は地味で嫌われがちですが、配属力を本気で上げたいなら、最後はそこに行き着くんですよね。夢のある話ではありませんが、夢だけで配属は決まりません。

また、同社のスキル可視化は、将来需要との接続も意識しています。26ページでは、Center of Intelligenceという組織において将来の技術動向等を分析し、注力すべき要素技術やソリューションを具体的に定め、当該領域で活躍する技術者の確保、育成およびCenter of Excellence拠点の開発を進めていると記載されています。これはかなり大事なポイントです。スキルを可視化すると言っても、何を伸ばすかが曖昧なら、可視化しただけで満足して終わります。いわば、見える化したが、どこへ向かうかは不明という、きれいな迷子です。対して、将来の技術動向や注力要素技術と結びつければ、育成も配属も「今足りない案件対応」だけでなく、「次に利益を生む領域」へ向けて設計できます。派遣会社における配属力とは、目の前の空き枠を埋めること以上に、将来価値のある領域に人材を送り込む力でもあるわけです。

そして、この仕組みが数字にどう表れているかも、有価証券報告書は一定程度示しています。24ページの人的資本KPIでは、研修受講者数30.1万人、受講時間88万時間、ソリューション事業稼働技術者数5,423人、従業員満足度指数は技術職84.9%、管理職86.5%、正社員技術者退職率9.8%、月次平均売上単価702千円といった数値が示されています。31ページでは平均稼働率94.7%も確認できます。もちろん、これらの数値だけでタレントマネジメントの優劣を一刀両断に判定することはできません。ただ、少なくとも同社が、育成、配属、単価、満足度、退職率を別々の箱で見ていないことはうかがえます。研修をやって終わりではなく、配属の質や単価や定着まで見に行く。ここが一番大事です。研修時間だけ長くても、単価が上がらず、配属も詰まり、退職率も高いなら、それは努力の量が多いだけで、仕組みはまだ弱い。耳が痛い話ですが、そこから逃げても数字は優しくなりません。

さらに、配属力を支えるのは、スキル情報だけではありません。同社は31ページで、AIエンジン搭載の退職予測システムによる退職リスクの高い技術者の早期特定や、面談専任者による希望や不満の早期ヒアリングを行っていると記載しています。これも広い意味ではタレントマネジメントです。なぜなら、どれだけ精密にスキルを可視化しても、本人が辞めてしまえば配属設計はそこで終わるからです。人材会社の管理は、とかく採用時点と配属時点に寄りがちですが、本当に効くのは、配属後の不満や将来不安をどれだけ早く拾えるかです。タレントマネジメントという言葉は時々きらびやかに聞こえますが、実際にやっていることは、スキル、育成、配置、定着を地味に結び直す作業の積み重ねです。派手さはないけれど、これがないと配属力は長持ちしません。

では、中小零細の派遣会社は何を参考にすべきか。ここで「AIマッチングを導入しよう」「COIを設置しよう」と言い出すと、たいていの会社では総務部長が静かに天井を見上げます。分かります。そこまで一気に行く必要はありません。参考にすべきなのは、配属を支える情報を最小単位でも整えることです。たとえば、技術者ごとの保有スキル、経験工程、希望職種、受講済み研修、今後育成したい領域を一覧化する。案件側も、必要スキル、歓迎スキル、配属後に伸ばせる領域、単価帯を明文化する。そのうえで、配属後にどのスキルが伸びたかを振り返る。これだけでも、勘と経験だけで回す世界からはかなり前進します。小さい会社ほど、名人芸に頼りがちですが、小さい会社ほど、その名人芸を言語化したほうが強い。人が少ないからこそ、一人の退職や異動の影響が大きいからです。

要するに、テクノプロの有価証券報告書から読み取れるのは、配属力の正体は「人を見る目」だけではなく、「スキルを見えるようにし、足りないものを育て、案件とつなぎ、その結果まで追う仕組み」にあるということです。スキル可視化、ギャップ分析、リスキリング、AIを含む情報活用、一気通貫のプロセス管理、そして満足度や退職率まで含めた運用。これらがつながって初めて、配属は短期の穴埋めではなく、売上と人材価値を同時に伸ばす経営機能になります。派遣会社の競争力は、採用数や営業力だけでは測れません。採った人を、どの案件に、どの順番で、どの市場価値へ向けて送り出せるか。その設計図を持っているかどうかで、かなり差がつきます。だいぶ地味な話ですが、現場ではこういう話のほうが、結局いちばん効くんですよね。

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jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。