テクノプロ、未経験採用を“配属できる戦力”に変える仕組み

人材不足の時代になると、採用の話はだいたい二つに割れます。ひとつは「経験者が採れない」という嘆き。もうひとつは「未経験を採っても配属できない」というため息です。現場の本音としては、どちらもその通りです。採れないし、採っても簡単には埋まらない。派遣会社の経営者にとっては、耳が痛いというより、毎朝の天気予報みたいな話かもしれません。ところが、テクノプロ・ホールディングスの2025年6月期有価証券報告書を読むと、同社はこの難題を、単なる採用問題ではなく、採用、育成、配属、定着を一つの流れとして設計する問題として扱っています。つまり、未経験者を採るかどうかではなく、未経験者をどうやって配属可能な人材に変えるか、という話にしているわけです。派遣会社の勝負どころを、かなり正確に押さえています。

まず、有価証券報告書で確認できる事実として、同社は未経験者採用を明確に経営課題への対応策として位置づけています。報告書31ページでは、顧客からの旺盛な技術者需要が継続する一方で、稼働率が95%前後の状態が続き、新たなオーダーに対応できるリソースが不足しているため、高い採用基準を維持しながら、育成前提の未経験者採用を本格化していると記載しています。加えて、従業員のリファーラルによる高スキル技術者の採用や、対象国を拡げたグローバル外国籍採用も積極的に推進しているとしています。つまり、「経験者だけを追う」一本足打法ではなく、経験者、未経験者、リファーラル、外国籍人材と、採用源を複線化しているわけです。採れない市場で採用するには、気合いより構造が必要だという、なんとも身も蓋もない真理がここにあります。

しかも同社は、未経験採用を場当たり的な補充策として書いていません。15ページでは、需要の高いデジタル技術領域を中心とした技術者育成への投資継続など、量から質への転換を図る一方で、最適な採用と育成ミックスの実現、採用効率と育成効率の向上を推進するとしています。この表現は、かなり重要です。未経験採用をやる会社は多いのですが、未経験採用を「採用と育成のミックス」で語れる会社はそう多くありません。未経験者を採った瞬間に仕事が終わった気になる会社は、だいたいその後で配属に詰まります。対して、採用時点から育成効率とセットで考える会社は、未経験者を採ること自体を、供給制約を突破する経営手段として扱っています。採用を入口だけで見ない。これがまず一つ目です。

では、採った未経験者をどうやって配属可能な人材にしていくのか。有価証券報告書の面白いところは、この「採用と配属の間」にある仕組みまでかなり踏み込んで書いている点です。報告書では、技術者派遣業務において、採用母集団の形成、スクリーニングと採用、配属、リテンション、研修、育成・要員計画といったコアプロセスが存在し、IT技術の進展により、各プロセスにおける技術者情報を可視化し、一気通貫で活用する仕組みを推進していると記載しています。さらに、技術者情報の収集、蓄積、分析をデータサイエンスやAIも活用しつつ充実させることで、採用効率の向上、効果的な人材育成、AIマッチングによる適正な技術者配属、契約単価向上など、コアプロセスを強化するための打ち手を導入するとしています。ここまで読むと、同社の強みは単純な採用力というより、採用した人材を配属までつなぐ情報設計力にあることが見えてきます。採用だけ強い会社はあります。でも、採用して、育てて、きちんと合う案件に載せられる会社は、実はそんなに多くありません。

この点をさらに支えているのが、スキルの可視化とタレントマネジメントです。報告書22ページでは、技術者の市場価値向上という観点から、技術スキルを可視化し、ギャップ分析を行い、リスキリングを進めて効果測定するタレントマネジメントの仕組みを、同社グループのコアコンピタンスの一つと位置づけています。派遣会社における未経験採用の難しさは、「いま何ができるか」だけではなく、「どこまで伸ばせばどの案件に乗るか」が曖昧になりやすいところにあります。ここを勘と経験で回すと、配属担当の名人芸に依存しやすい。名人が居るうちは回りますが、名人が異動したり辞めたりすると急に制度が蒸発します。テクノプロの開示は、この属人的な配属運営を、スキル情報の可視化とギャップ管理で仕組みに変えようとしているように読めます。中小企業からすると眩しく見えるかもしれませんが、考え方自体はかなり再現可能です。

配属の考え方そのものも、かなり明確です。報告書8ページでは、技術者の多くはグループの正社員であり、技術者のキャリア形成を支援しつつ顧客へ配属することで、タイムリーな技術者の確保や人件費の変動費化に対する顧客ニーズに安定的に応え、事業規模を活かしながら高稼働率を維持していると記載しています。ここで重要なのは、「配属」が単なる穴埋めではなく、キャリア形成支援とセットで語られていることです。派遣会社の配属は、ともすると「今ある案件に誰を入れるか」という短期最適に流れやすいのですが、同社の記載は、「その配属が技術者本人の市場価値をどう高めるか」という視点を残しています。言い換えれば、配属は売上計上の手段であると同時に、次の配属を有利にする投資でもあるわけです。これを忘れると、未経験者はいつまでも“未経験枠っぽい案件”を回るだけで終わってしまいます。ありがちな話です。

さらに、同社は「戦略的シフトアップ」という考え方を明示しています。報告書16ページでは、技術者を同一案件に長期間固定させず、技術者のスキル向上に応じた適正価格水準の案件への配属を進めることを「戦略的シフトアップ」と定義し、契約単価の上昇に取り組んでいるとしています。31ページでも、既存顧客と価格交渉を行うチャージアップだけでなく、異なる顧客に配属することで単価を上げるシフトアップも積極的に行っていると記載しています。これは、未経験採用の記事において非常に大事な論点です。なぜなら、未経験採用の成否は、採用できた人数より、育成後にどの単価帯の案件へ移れるかで決まるからです。安い案件で経験を積ませるだけでは、会社の採算も本人の処遇も伸びにくい。だからこそ、育成と配属替えを連動させる必要がある。未経験者を採ること自体が目的化すると、この一番大事な出口を見失います。

数字を見ても、この設計はかなり具体化されています。2025年6月期の人的資本KPIとして、育成前提技術者採用数は632人、採用数は5,370人と開示されています。また、31ページでは、当連結会計年度末の国内在籍技術者数は28,100人、平均稼働率は94.7%、月次平均売上単価は702千円と記載されています。これらの数値を雑に読むと、「たくさん採って、そこそこ回っている会社」という印象で終わりますが、丁寧に読むとそうではありません。育成前提採用を一定数取り込みつつ、高稼働率を維持し、なおかつ売上単価も前年より上げている。つまり、未経験採用を入れても、配属の質や単価形成が崩れていない構図がうかがえます。未経験者を増やすと稼働率が落ちる、あるいは単価が崩れる、というのは中小企業がよく恐れる点ですが、同社の開示は、その恐れに対して「仕組みで受け止める」という発想を示しています。

施工管理アウトソーシング事業の記載も、未経験採用を考えるうえで示唆的です。32ページでは、慢性的な施工管理技術者不足に対応するため、自社の技術センターを活用し、建設業界未経験者や経験の浅い若手技術者を積極的に採用・育成していると記載しています。ここで参考になるのは、「人が足りないから未経験者を採る」では終わっていないことです。自社の技術センターという育成基盤を使い、採用と育成と配属準備をつないでいます。未経験採用は、採用広報だけ頑張ってもあまり意味がありません。育てる場所、教える人、配属判断の基準、その後の案件導線。この一連の流れがないと、採った後で現場にしわ寄せが行きます。すると現場は疲れ、教育担当は消耗し、本人は不安になり、会社は「やっぱり未経験は難しい」と言い出す。あるあるです。とはいえ、未経験採用が悪いのではなく、仕組みなしにやるのがつらいだけです。テクノプロの記載は、その違いを静かに教えてくれます。

また、同社は将来技術との接続も組み込んでいます。報告書では、Center of Intelligenceという組織において将来の技術動向等を分析し、注力すべき要素技術やソリューションを具体的に定め、当該領域で活躍する技術者の確保、育成およびCenter of Excellence拠点の開発を進めているとしています。未経験採用において見落としがちなのは、「何を教えるか」は採用部門の趣味で決めてはいけないという点です。将来需要が見込まれる領域、顧客が実際にお金を払う領域、単価が乗る領域に向けて育成内容を設計しないと、せっかく採って育てても配属先が弱い。つまり、未経験採用は人事の施策ではなく、営業、事業戦略、教育の接続面にある施策だということです。同社はそこをかなり意識して設計しているように見えます。

では、中小零細の派遣会社は何を参考にすべきか。ここで「AIマッチングを導入しよう」「COIを作ろう」と言い出すと、予算会議の空気が一気に冬になりますし、社長もたぶん遠い目をします。そこまで一足飛びに行く必要はありません。参考にすべきなのは、未経験採用を単独施策にせず、採用、育成、配属、定着をつなぐ設計思想です。たとえば、未経験で採る対象職種を絞る、配属前に必要な最低スキルを定義する、スキル表で可視化する、教育後にどの案件帯へ出すかを決める、配属後の次の案件まで見据えて育成する。これだけでも、かなり景色は変わります。大手のような大規模システムがなくても、配属基準を言語化し、複数の担当者で共有し、教育内容と営業案件を結びつけることはできます。むしろ中小企業の強みは、制度を小さく始めて早く回せるところです。配属力とは、魔法の営業力ではなく、採った人を「どこへ、なぜ、どう育てて」送り出すかを説明できる力だと考えたほうが、実務には効きます。

要するに、テクノプロの有価証券報告書から読み取れる採用戦略の核心は、未経験者を採ることそのものではなく、未経験者を配属できる戦力へ変える仕組みを整えている点にあります。高い採用基準を保ちながら未経験採用を本格化し、教育とスキル可視化で育成し、AIや情報活用で適正配属につなぎ、さらに戦略的シフトアップで単価と処遇の向上を狙う。この流れがつながっているからこそ、未経験採用が単なる人手集めで終わらず、事業成長の装置になりうるわけです。派遣会社の経営で本当に問われるのは、採れるかどうか以上に、採った人をどこまで戦力化し、次の配属まで設計できるかです。その意味で、この有価証券報告書は、「採用力」と「配属力」は別物ではなく、同じ経営システムの中で動かすものだと教えてくれます。派手ではありませんが、かなり本質的な話です。現場で効くやつです。

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jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。