継続企業の前提の「芽」を計画段階で拾い、監査証明を揺るがさない(人材派遣会社の実務)
1. 監査計画の策定7が扱うもの:計画段階で「継続企業の前提の重要疑義の芽」を確かめる
監査計画の策定7は、監査計画を作る段階で、財務指標の悪化傾向、財政破綻の可能性など、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象または状況があるかどうかを確かめる、という発想です。
ここでのポイントは、結論を決めることではなく、早い段階で「疑義の芽があるか」を拾い、監査の手当て(時間配分、手続の追加、経営者評価の入手計画、開示検討の段取り)を監査計画に組み込むことです。
この段取りが弱いと、期末に資金繰りが急に苦しくなった場合に、監査証明の前提となる検討が間に合わず、説明力のある監査証明を組み立てにくくなります。
2. 基本原則1とのつながり:発見リスクを下げるには「早期警戒」が必要
基本原則1のリスクアプローチは、重要な虚偽表示リスクを評価し、発見リスクを合理的に低い水準に抑えるよう計画・実施する、という考え方です。継続企業の前提に関する論点は、金額の単純な誤りというより、開示の妥当性や前提の適切性に直結し、しかも状況が期中に変わり得ます。
だからこそ、監査計画の策定7で「早めに兆しを掴む」ことが、監査証明の品質を守る近道になります。
3. 人材派遣会社で「兆し」が出やすい領域(実務での見方)
人材派遣会社は、固定費(間接部門・拠点運営)と変動費(派遣スタッフ人件費、社会保険等)が混在し、資金繰りは売掛金回収・派遣先の支払サイト・人員稼働率に強く影響されます。兆しの拾い方は、次のように整理すると実務で機能します。
(1) 財務指標の悪化:数字に出る兆し
- 営業損失の継続、粗利率の低下(単価交渉で押される、稼働率が落ちる)
- 売掛金回転の悪化、滞留の増加(派遣先の支払遅延)
- 借入返済の集中、短期借入への依存増
- 手元資金月商比率の低下、運転資金の不足
(2) 営業・運用に出る兆し:現場から見える兆し
- 特定の大口派遣先への依存が急増、または契約縮小の予兆
- 主要拠点の管理者離職、採用難による稼働率低下
- 勤怠・請求のトラブル増(請求差戻し、検収遅延が常態化)
(3) 法規制・許認可・社会保険に出る兆し:派遣業界特有の火種
- 行政対応の遅れ、是正勧告・指導の兆候
- 社会保険料の納付遅延、立替払いの常態化
- 許認可の更新に影響し得る体制不備(ここは会社ごとの実態確認が必要)
これらは単独では「結論」になりませんが、複数が重なると継続企業の前提の検討が重要になり得ます。監査計画の策定7は、この重なりを期初・期中で確かめることに意味があります。
4. 監査計画に落とし込む:確かめる対象を「資料」と「面談」で具体化する
策定7を実務にするには、「何となく不安」を、確かめる対象へ変換します。人材派遣会社で現実的に効くのは次のセットです。
- 資金繰り表(少なくとも12か月、前提条件と感応度も確認できる形)
- 借入契約の条件(返済期限、財務制限条項、更新条件)
- 主要派遣先別の売上・粗利・回収状況(滞留の理由も含む)
- 受注・稼働見込み(稼働率の見通し、採用計画の実現可能性)
- 取締役会等の議論の痕跡(資金繰り、追加資金調達、コスト削減)
- 期中のイベント(大口解約、訴訟・行政対応、システム障害など)の監視方法
これを、いつ入手し、どのタイミングで更新し、状況が変わったらどう計画修正するかまで決めると、監査証明を支える検討が「手戻り」しにくくなります。
5. ケース:人材派遣会社Q社(派遣先依存+支払サイト長期化)での策定7の使い方
前提:Q社は売上の45%を大口派遣先A社に依存。A社の支払サイトが60日から90日に延び、さらに検収が遅れがち。Q社は月末の給与・社会保険の支払いが先に出ていく構造で、資金繰りに歪みが出始めている。
このケースでは、監査計画の策定7として、次を「確かめるべき兆し」として扱います。
- 売掛金滞留の増加と回収遅延の恒常化
- 短期借入の増加、更新条件の厳格化
- 資金繰り表の前提(回収条件、稼働率、採用計画)の妥当性
ここで重要なのは、期末にだけ見るのではなく、期中レビューの位置づけを強めて「資金繰りの変化」を追う計画にすることです。監査証明は、期末の数字だけでなく、合理的な期間の見通しを支える根拠の強さで説明力が変わります。
6. こんな事例:計画段階で「兆し」を認識し、手続に変える
監査人:今年の監査計画では、監査計画の策定7として、継続企業の前提に重要な疑義につながり得る兆しがないかを最初に確かめたいです。監査証明の説明力に関わるので、資金繰りを中心に見ます。
経理部長:資金は今すぐショートするわけではありません。そこまで大げさな話ではないと思います。
監査人:結論を決めたいのではなく、兆しがあるかを確かめたいのです。例えば大口派遣先の支払サイトが延びると、売上が立っても現金が入らず、資金繰りに影響します。
経理部長:確かにA社の検収が遅れがちで、入金も後ろにずれています。
監査人:では、売掛金年齢表と入金実績、A社との契約条件、資金繰り表を早い段階で入手し、前提も確認します。必要があれば期中にもう一度更新します。監査証明の根拠を期末に詰め込まないためです。
経理部長:資金繰り表はありますが、採用計画は楽観的かもしれません。
監査人:採用計画が未達なら稼働率と粗利が下がります。そこは感応度も含めて見ます。状況が変われば監査計画も修正します。
7. 監査計画の策定7で起きがちな誤解と、実務の落とし穴
誤解1:疑義が「確定」してから考えればよい
実務では逆です。確定してからでは、根拠収集や経営者評価の検討が間に合わず、監査証明の説明が弱くなります。
誤解2:資金繰り表があれば足りる
資金繰り表は出発点で、前提の合理性が肝です。人材派遣会社では「回収条件」「稼働率」「採用」「単価改定」「社会保険等の支払」をどう置いているかが勝負です。
誤解3:派遣先が大手だから安全
大手でも支払サイトの変更、検収厳格化、急な発注調整は起きます。依存度が高いほど、兆しとして扱う価値があります。
まとめ:策定7は「継続企業の前提の論点を、監査計画の早い段階で可視化する」ための工程
監査計画の策定7は、継続企業の前提に重要な疑義につながり得る兆しがないかを、監査計画段階で確かめるための工程です。人材派遣会社では、売掛金回収、派遣先依存、稼働率、社会保険等の支払、借入条件が連動するため、兆しの拾い方を具体化しておくと、監査証明の根拠が強くなります。
基本原則1のリスクアプローチの一部として、期末に追い込まれない監査計画を作ることが、結果として監査証明の品質を守ります。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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