労働者派遣事業の財産的基礎要件を満たすコツ|有価証券の時価評価で基準資産額が増える?

労働者派遣事業許可に必要な「基準資産額」とは

労働者派遣事業の許可を取得するには、財産的な安定性を証明する必要があります。具体的には、基準資産額が2,000万円以上(他にもありますし、細かい規定がいろいろありますが、ここでは割愛します)という要件を満たさなければなりません。

「基準資産額が少し足りない」とお悩みの事業者様もいらっしゃるかもしれません。実は、有価証券の評価方法を見直すことで、基準資産額を増やせる可能性があることをご存知でしょうか?

今回は、有価証券の評価と財産的基礎要件について、会計の専門知識がない方にもわかりやすく解説します。


有価証券は4つに分類される|会計基準の定め

会社が保有している株式や債券などの有価証券は、会計基準によって保有目的に応じて4つに分類され、それぞれ評価方法が異なります。

① 売買目的有価証券

短期的な値上がり益を狙って保有する株式や債券です。

  • 評価方法: 時価評価
  • 評価損益: 当期の損益として計上

② 満期保有目的債券

満期まで持ち続ける予定の債券です。

  • 評価方法: 償却原価法(取得原価ベース)
  • 評価損益: 原則として計上しない

③ 子会社株式・関連会社株式

グループ会社や関連会社の株式です。

  • 評価方法: 取得原価法
  • 評価損益: 原則として計上しない

④ その他有価証券

上記①②③のどれにも当てはまらない有価証券です。

  • 評価方法: 時価評価
  • 評価差額: 純資産の部に計上(損益計算書には影響しない)

「その他有価証券」の時価評価が鍵になる

多くの中小企業が保有している取引先の株式、長期保有の投資信託、上場株式などは、「その他有価証券」に分類されることがほとんどです。

その他有価証券を時価評価すると何が起きる?

その他有価証券は決算時に時価で評価し直します。もし取得時よりも株価が上がっていれば、評価差額が純資産の部に「その他有価証券評価差額金」として計上されます。

【例】

  • 5年前に購入した株式の取得価額:1,000万円
  • 現在の時価:1,500万円
  • 評価差額:500万円

この500万円が純資産に加算されるため、基準資産額が500万円増加します。(ここでは、税効果会計については説明を省略しています。ほんとうはちゃんと税効果会計も考慮しなくちゃだめですよ)


基準資産額が足りないときの解決策

労働者派遣事業の許可要件である「基準資産額2,000万円以上」に少し届かない場合、その他有価証券を時価評価することで要件をクリアできる可能性があります。

【ケーススタディ】

  • 現在の基準資産額:1,800万円(あと200万円足りない)
  • 保有するその他有価証券(簿価500万円)の時価:800万円
  • 評価差額:300万円を純資産に計上
  • 結果: 基準資産額が2,100万円となり、要件クリア!

【ここが重要】税金は増えません!

「資産が増えたら、税金も増えるのでは?」と心配される方がいらっしゃいます。

ご安心ください。その他有価証券の評価差額には法人税がかかりません。

法人税法上の取り扱い

法人税法では、その他有価証券の評価差額は「益金不算入」とされています。つまり、会計上は純資産が増加しても、税務上の利益には含まれないため、法人税の計算には影響しないのです。

わかりやすく言うと

  • 会計上:純資産が増える → 基準資産額の要件を満たせる
  • 税務上:課税所得は増えない → 法人税の負担は変わらない

いいとこ取りができるというわけです。これは労働者派遣事業の許可取得を目指す事業者にとって、非常にありがたい制度といえます。


公認会計士による監査でチェックされるポイント

労働者派遣事業の許可申請にあたって、本決算で財産的基礎の要件をクリアできなかった場合には、月次決算でこれをクリアした上で、公認会計士または監査法人による監査が必要です。その際、以下の点が確認されます。

1. 有価証券の分類は適切か

保有目的に応じて正しく分類されているかを確認します。

2. 時価の算定方法は正確か

  • 上場株式: 決算日の終値
  • 投資信託: 決算日の基準価額

3. 会計処理は会計基準に準拠しているか

評価差額が貸借対照表の純資産の部に正しく計上されているかを確認します。

4. 基準資産額の計算は正確か

資産から負債を差し引いた純資産額が2,000万円以上あるかを検証します。


有価証券評価の注意点

時価が下がっている場合は?

取得時より時価が下がっている場合、評価差損が純資産から差し引かれるため、基準資産額は減少します。事前に時価を確認しておくことが重要です。

非上場株式の評価は専門家に相談を

非上場株式は市場価格がないため、適切な評価方法による算定が必要です。専門的な判断が求められるため、公認会計士に相談することをおすすめします。


まとめ|専門家のサポートで確実な許可取得を

労働者派遣事業の許可申請における財産的基礎要件では、有価証券の適切な評価が重要なポイントとなります。

この記事のポイント

  • ✓ その他有価証券は時価評価する
  • ✓ 評価差額は純資産に計上され、基準資産額が増える
  • ✓ 法人税の負担は増えない(益金不算入)
  • ✓ 適切な評価には専門的な知識が必要

「基準資産額が足りるか不安」「有価証券の評価方法がわからない」という場合は、労働者派遣事業許可申請に精通した公認会計士にご相談ください。

適切な監査により、スムーズな許可取得をサポートいたします。

それでも基準資産額2,000万円のクリアが難しい場合は?

有価証券の時価評価を行っても、まだ基準資産額が2,000万円に届かない・・・。そのような場合でも、諦める必要はありません。

実は、財産的基礎の要件をすでにクリアしている会社を安価に買収し、その会社で労働者派遣事業や有料職業紹介事業の許可を取得するという方法があります。これは、コンプライアンス面でも経済合理性の面でも、非常に有効な選択肢となります。


M&Aによる「会社の取得」という戦略

ここでご提案するのは、すでに派遣事業の許可を持っている会社を買うのではなく、財産的基礎要件(基準資産額2,000万円以上等)を満たしている会社を買収し、その会社が新たに許可申請を行う方法です。

なぜ「会社の取得」が有効なのか?

労働者派遣事業や有料職業紹介事業の許可申請で最大のハードルとなるのが「基準資産額2,000万円以上等」という財産的基礎要件です。

しかし、すでにこの要件を満たしている会社を買収すれば、自社で2,000万円の純資産を用意する必要がなくなります。


M&Aによる会社取得のメリット

メリット① 圧倒的に低コストで要件クリアできる

【コスト比較】

パターンA:自社で新規許可取得

  • 基準資産額2,000万円を自己資金または増資で用意
  • 初期投資:2,000万円以上

パターンB:財産的基礎要件を満たす会社を買収

  • 基準資産額2,000万円以上の会社を買収
  • 初期投資:1,000万円以下で可能

最大1,500万円程度のコスト削減が可能になります。

なぜこんなに安く買えるのか?

以下のような会社は、比較的安価に取得できる可能性があります:

  • 後継者不在で廃業を検討している会社
    事業は行っていないが、資産だけは持っている休眠会社
  • 事業整理を進めている企業
    本業とは関係ない子会社や関連会社を整理したい企業
  • 資産管理会社として運営されていた会社
    不動産や有価証券を保有しているだけで、事業活動はほとんどない会社
  • オーナー経営者の高齢化
    事業承継先が見つからず、会社を売却したいと考えている経営者

このような会社は、実質的な事業価値はないが、資産だけは保有しているため、資産価値に比べて格安で譲渡されるケースが多いのです。

メリット② 自分のペースで事業構築できる

既存の派遣会社を買収する場合、以下のような引き継ぎ事項があります

  • 既存従業員の処遇
  • 既存取引先との契約関係
  • 派遣スタッフの雇用管理
  • 過去の労務リスクの引き継ぎ

しかし、財産的基礎の要件だけを満たす会社を買収する場合、これらの引き継ぎ負担はありません。

ゼロベースで自分の理想とする派遣事業・職業紹介事業を構築できるのです。

メリット③ コンプライアンスリスクの心配が少ない

事業実績のない会社、または事業を休止している会社を買収する場合

  • 過去の労働トラブルを引き継ぐリスクがない
  • 隠れた債務(簿外債務)のリスクが低い
  • 労働局からの過去の指導・処分歴がない

クリーンな状態からスタートできるため、コンプライアンス面でも安心です。

メリット④ 許可取得後の運営も自由

買収した会社で許可を取得すれば、

  • 事業内容を自由に設計できる
  • 自社グループの人材を派遣元責任者として配置できる
  • 自社のブランド・事業方針で運営できる

既存事業者のしきたりに縛られることなく、自由に事業展開できます。

メリット⑤ 派遣事業と職業紹介事業の両方を取得可能

労働者派遣事業と有料職業紹介事業は、どちらも財産的基礎要件として基準資産額2,000万円以上等を求められます。

財産的基礎要件を満たす会社を手に入れれば、両方の許可を同時に申請することも可能です。

人材ビジネスの幅が大きく広がります。


具体的な実行ステップ

ステップ① 財産的基礎の要件を満たす会社を探す

M&A仲介業者や事業承継マッチングサービスを活用し、以下の条件を満たす会社を探します:

探すべき会社の条件

  • ✓ 基準資産額が2,000万円以上
  • ✓ 負債が少ない(できれば無借金)
  • ✓ 過去に重大な法令違反や訴訟がない
  • ✓ 税務申告が適正に行われている

ステップ② デューデリジェンス(買収前調査)

買収前に、公認会計士による財務デューデリジェンスを実施します。

確認すべきポイント

  • 資産の実在性(特に有価証券、不動産など)
  • 隠れた債務の有無
  • 税務リスク(未払税金、過去の税務調査結果など)
  • 法的リスク(係争中の訴訟、未解決の労働問題など)
  • 基準資産額の正確な計算

この調査により、買収後に思わぬリスクが発覚する事態を防ぎます

ステップ③ 株式譲渡契約の締結

デューデリジェンスで問題がなければ、売主と株式譲渡契約を締結します。

契約時には

  • 表明保証条項(売主が会社の状況について保証する条項)
  • 補償条項(買収後に隠れた債務が発覚した場合の補償)

などを盛り込むことで、買収後のリスクをさらに軽減できます。

ステップ④ 会社の体制整備

買収後、労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可申請に向けて体制を整備します

  • 派遣元責任者の選任(派遣事業の場合)
  • 職業紹介責任者の選任(職業紹介事業の場合)
  • 事業所の確保(20㎡以上の独立したスペース)
  • 個人情報保護体制の整備
  • 就業規則・各種規程の整備

ステップ⑤ 許可申請

管轄の労働局に許可申請を行います。

申請から許可までの期間

  • 労働者派遣事業:約2~3ヶ月
  • 有料職業紹介事業:約2~3ヶ月

財産的基礎要件はすでにクリアしているため、他の要件さえ満たせば許可取得の可能性は高いといえます。

ステップ⑥ 事業開始

許可取得後、いよいよ事業を開始します。

買収した会社の商号(会社名)を変更することも可能ですので、自社ブランドで派遣事業・職業紹介事業を展開できます。


M&A実行時の注意点

① 買収価格の妥当性を慎重に検討

「基準資産額2,000万円の会社」といっても、必ずしも2,000万円の価値があるわけではありません。

  • 資産の内容(現金、有価証券、不動産など)
  • 負債の有無と金額
  • 税務上の繰越欠損金の有無

これらを総合的に評価し、適正な買収価格を算定することが重要です。

② 税務上のリスクも確認

過去の税務申告に誤りがあった場合、買収後に税務調査が入り、追徴課税を受ける可能性があります。

税理士による税務デューデリジェンスも併せて実施することをお勧めします。

③ 許可申請時の審査は通常どおり

財産的基礎要件はクリアしていても、その他の許可要件(事業所要件、責任者要件、適正な事業運営体制など)は通常どおり審査されます。

買収しただけで自動的に許可が取れるわけではありませんので、ご注意ください。


どちらを選ぶべき?パターン別の選択肢

あなたの状況おすすめの方法
自社に2,000万円以上の純資産がある自社で新規許可申請
資金はあるが、できるだけコストを抑えたい財産的基礎要件を満たす会社を買収
資金調達が難しい財産的基礎要件を満たす会社を買収
すぐに事業を始めたい既存の許可事業者を買収(別の選択肢)
自分のスタイルで事業を構築したい財産的基礎要件を満たす会社を買収

M&Aによる会社取得から許可申請までワンストップでサポート

当事務所では、労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可取得を目指す事業者様に対し、M&Aによる会社取得から許可申請まで、一貫してサポートいたします。

当事務所のサービス内容

1. 現状診断

  • 自社の財産的基礎要件の充足状況を診断
  • M&Aによる取得が有効かどうかを判断

2. M&A案件のご紹介

  • 信頼できるM&A仲介業者との連携
  • 財産的基礎要件を満たす買収候補企業のご紹介

3. デューデリジェンス(買収前調査)

  • 公認会計士による財務デューデリジェンス
  • 基準資産額の正確な算定
  • 隠れた債務・リスクの発見

4. 買収契約のサポート

  • 株主としての課税関係のアドバイス
  • 会計・税務の観点からのアドバイス

5. 許可申請の支援

  • 労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可申請精通社会保険労務士法人の紹介
  • 申請後のフォローアップ


まとめ|賢い経営者は「箱の取得」を選ぶ

労働者派遣事業や有料職業紹介事業への参入において、財産的基礎要件は大きなハードルです。しかし、財産的基礎要件を満たす会社を安価に買収するという戦略を活用すれば、大幅にコストを削減しながら、確実に要件をクリアできます。

この方法のメリットまとめ

  • ✓ 初期投資を大幅に削減(最大1,500万円以上の削減も)
  • ✓ コンプライアンスリスクを最小化
  • ✓ 自分のスタイルで事業を自由に構築できる
  • ✓ 派遣事業と職業紹介事業の両方に対応可能
  • ✓ 経済合理性が高い

「2,000万円の純資産を用意するのが難しい」 「できるだけ低コストで許可を取得したい」 「リスクを抑えて確実に事業を立ち上げたい」

そのようなお悩みをお持ちの事業者様は、ぜひM&Aによる会社取得をご検討ください。

当事務所では、会社探しから買収、許可申請、取得後のサポートまで、すべてをワンストップでご支援いたします。

まずはお気軽にご相談ください。貴社に最適な派遣事業・職業紹介事業参入の方法をご提案させていただきます。


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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。