減資をすると財産的基礎の要件にどのような影響を与えるか? ~労働者派遣事業許可申請の観点から~
労働者派遣事業許可申請のための監査証明を提供する公認会計士事務所として、数多くの企業様に意見表明してまいりました。許可申請の際、財産的基礎の要件は重要なポイントの一つです。特に、資本金の額を減少させる減資を検討されている企業様から、「減資をすると基準資産額が減ってしまい、許可要件を満たせなくなるのではないか?」というご相談をいただくことがあります。
この記事では、そんな疑問を解消するために、減資の概要と財産的基礎の要件への影響について、わかりやすく解説します。結論から申し上げると、減資自体は、剰余金の配当を伴わない限り、基準資産額の減少にはつながりません。つまり、労働者派遣事業の許可申請における財産的基礎の要件に直接的な悪影響を与えるものではないのです。以下で詳しく見ていきましょう。
労働者派遣事業の財産的基礎の要件とは?
まず、労働者派遣事業の許可申請における財産的基礎の要件を簡単に振り返っておきましょう。厚生労働省の基準では、派遣事業を営む企業は、事業の安定性を確保するために、基準資産額が2,000万円以上(直近の決算期における純資産額から一定の調整を加えた額)という要件を満たす必要があります。
負債比率などの財務健全性も考慮されますが、主眼は会社の財産的基盤の強固さですので、特にこの基準資産額が2,000万円以上という要件が重要です。
この基準資産額は、貸借対照表上の純資産(資本金 + 準備金 + 剰余金など)を基に計算されます。資本金を減らす減資をすると、「会社の資産が減ってしまうのではないか?」という印象を抱きやすいですが、実際はそう単純ではありません。次に、減資の仕組みを説明します。
減資とは? 基本的な概要
減資とは、株式会社が資本金の額を減少させる手続きをいいます。主な目的としては、欠損の填補(利益剰余金のマイナスを解消)、税務上のメリット(資本金を1億円以下に抑えるなど)、または大会社への移行回避などが挙げられます。資本金の額は0円まで減少可能ですが、マイナスにはできません。
減資の手続きは、主に以下のステップで行われます
取締役会決議: 減少額、効力発生日などを決定。
株主総会決議: 原則として特別決議(一部の場合、普通決議や取締役会決議で可)。
債権者保護手続き: 官報公告や知れている債権者への催告を行い、異議申述期間(1ヶ月以上)を設ける。公告方法によってはダブル公告で催告を省略可能。
登記申請: 効力発生日から2週間以内に法務局へ申請。登録免許税は3万円(増資と同時の場合を除く)。
会計上、減資は資本金の減少として処理されますが、重要な点は減少した資本金がどこに行くかです。通常、減少額は「その他資本剰余金」に振り替えられます。つまり、会社の総資産や純資産額自体は変わりません。ただ、株主資本内の項目が移動するだけなのです。
例: 資本金3,000万円の会社が1,000万円の減資をした場合。
会計仕訳: 資本金 1,000万円 / その他資本剰余金 1,000万円
結果:、資本金は2,000万円に減るが、その他資本剰余金が1,000万円増え、純資産総額は変わらず。
税務上も、無償減資(株主への払戻しを伴わない場合)は、資本金等の額や利益積立金額に変動を生じさせず、何もなかったものとして扱われます。
減資が財産的基礎の要件に与える影響
ここが本題です。減資をすると資本金が減るため、「基準資産額が減少するのではないか?」という懸念が生じますが、これは誤解です。なぜなら、基準資産額の計算は純資産ベースで計られます。 労働者派遣事業の許可では、基準資産額は貸借対照表の純資産額(資本金 + 剰余金 + 準備金など)を基に算出されます。減資により資本金が減っても、その分がその他資本剰余金(剰余金の一種)に移るだけなので、純資産総額は維持されます。
剰余金の配当を伴わない限り、影響なし: 減資の目的が欠損填補や単なる資本金の調整であれば、会社の財産は外部に流出せず、基準資産額は変わりません。会計上も税務上も、内部振替に過ぎないため、許可申請時の監査証明に悪影響を及ぼしません。
ただし、注意点があります。剰余金の配当を伴う場合(有償減資)です。 減資で生じた剰余金を株主に配当すると、会社の資産が減少します。これにより純資産が減少し、基準資産額が低下する可能性があります。この場合、許可要件を満たせなくなるリスクが生じるので、事前の計画が重要です。
つまり、減資は直接的に財産的基礎の要件を害するものではなく、むしろ、節税など戦略的に活用できるツールなのです。
減資は、資本金の額を減少させる手続きですが、剰余金の配当を伴わなければ基準資産額の減少にはつながりません。労働者派遣事業の許可申請では、こうした財務調整が許可の成否を左右しないよう、正確な理解が不可欠です。ただし、手続きは複雑で、債権者保護や登記、会計・税務の処理を誤るとトラブルの元になります。
減資の手続きの流れ
では、実際に減資を行うにはどのような手続きが必要なのでしょうか。減資は会社の根幹に関わる重要な手続きであり、法律で定められたステップを正確に踏む必要があります。ここでは、その大まかな流れとポイントを概観してみましょう。
ステップ1:株主総会での決議
減資を行うには、まず会社の最高意思決定機関である株主総会で承認を得る必要があります。
- ポイント①【原則「特別決議」が必要】 議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる、ハードルの高い決議です。それだけ減資が会社にとって重要な決定であることを示しています。
- ポイント②【決議事項】 株主総会では、「いつから(効力発生日)」「いくら資本金を減らすのか」といった内容を具体的に決定します。
ステップ2:債権者保護手続き
減資は、会社の信用の基礎である資本金が減少することを意味します。そのため、会社の債権者(金融機関や取引先など)に対して、その旨を知らせ、異議を申し立てる機会を与える手続きが義務付けられています。
- ポイント①【公告と催告が必須】 「官報」という国の広報誌に減資する旨を掲載(公告)するとともに、会社が把握している個々の債権者へ通知(催告)するのが原則です。
- ポイント②【時間がかかる】 債権者が異議を申し立てる期間として1ヶ月以上を設けなければなりません。このため、減資の計画から実行までには、少なくとも1〜2ヶ月の期間を見ておく必要があります。
ステップ3:効力発生と登記申請
上記の手続きが完了し、株主総会で定めた「効力発生日」を迎えると、減資の効力が生じます。その後、法務局で登記内容を書き換える手続きを行います。
- ポイント①【手続き完了が前提】 債権者保護手続きが終わっていなければ、効力発生日が来ても減資の効力は生じません。スケジューリングが非常に重要です。
- ポイント②【登記は2週間以内に】 効力発生日から2週間以内に、資本金の額の変更登記を法務局に申請する必要があります。
このように、減資は単に会計上の処理をするだけでなく、株主総会での決議や、最低でも1ヶ月以上を要する債権者保護手続きなど、法的に定められた複数のステップを踏む必要があります。労働者派遣事業の許可更新や新規申請のタイミングと合わせて減資を検討する場合は、これらの手続きにかかる時間も十分に考慮して計画を立てることが不可欠です。
弊所では、労働者派遣事業許可申請のための監査証明をはじめ、減資に関する相談・手続き支援も行っています。減資を検討中の方、許可申請でお悩みの方は、ぜひお気軽にご連絡ください。専門の公認会計士が、貴社の状況に合わせたアドバイスをいたします。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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