派遣事業経営者のための競争戦略 マイケル・ポーター『競争の戦略』に学ぶ持続的競争優位の構築

労働者派遣市場は、2020年の同一労働同一賃金施行以降、価格競争の激化と差別化要求の同時進行という困難な局面を迎えています。厚生労働省『労働者派遣事業報告書』(2022年度)によれば、派遣事業所数は43,445事業所(前年度比2.1%増)と増加を続ける一方、派遣労働者数は約157万人(前年度比0.8%減)と微減傾向にあり、事業者間の競争は一層激化しています。

このような環境下で、派遣事業経営者に求められるのは、単なる「価格競争」でも「闇雲な差別化」でもなく、戦略的思考に基づく持続的競争優位の構築です。ハーバード・ビジネススクール教授マイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)が1980年に発表した名著『競争の戦略(Competitive Strategy)』は、出版から40年以上を経た今なお、あらゆる業界の競争戦略の羅針盤として機能しています。

ポーターの主要フレームワーク―「5つの競争要因(ファイブフォース)」「3つの基本戦略」「バリューチェーン分析」―を派遣事業に応用し、実践的な競争優位構築の指針を示します。


第一部:ファイブフォース分析―派遣業界の競争構造を読み解く

1-1. ポーターのファイブフォース:業界収益性を決定する5つの力

ポーターは、業界の収益性(魅力度)を決定する要因を5つの競争要因として体系化しました。

「業界の競争状態は、5つの基本的な競争要因の総合力によって決定される。これらの力の総合的な強さが、業界の最終的な収益性ポテンシャルを決定する」(Porter, 1980, p.3-4)

【5つの競争要因】

  1. 業界内の競争(既存競合間の敵対関係)
  2. 新規参入の脅威
  3. 代替品・代替サービスの脅威
  4. 買い手(顧客)の交渉力
  5. 売り手(供給者)の交渉力

それぞれを派遣業界に当てはめて分析します。


1-2. 派遣業界のファイブフォース分析

【要因①:業界内の競争】極めて高い

現状:

  • 派遣事業所数43,445(2022年度)、うち一般派遣事業が41,012事業所
  • 市場成長率の鈍化(派遣労働者数の微減)により、ゼロサムゲーム化
  • 同質的サービス提供による価格競争の激化
  • 大手総合人材サービス企業(リクルートスタッフィング、パーソルテンプスタッフ、パソナ等)と中小特化型事業者が混在

ポーターの指摘:

「競合企業数が多く、規模や能力がほぼ同等の場合、競争は激化する。市場成長が鈍化すると、シェア拡大を狙った価格戦争が起こりやすい」(Porter, 1980, p.17-18)

戦略的示唆:

  • 同質的競争からの脱却:差別化軸の明確化(後述)
  • 業界再編を見据えたM&A・提携戦略
  • 特定業界・職種への集中によるニッチ市場確保

【要因②:新規参入の脅威】中程度(規制により限定的だが一定の圧力)

参入障壁の分析:

【高い障壁】

  • 許認可制度:労働者派遣事業許可(一般派遣)の取得要件
    • 基準資産額2,000万円×事業所数以上
    • 現預金額1,500万円×事業所数以上
    • 派遣元責任者の選任義務
  • 法規制の複雑性:労働者派遣法、同一労働同一賃金対応等
  • 既存事業者との信頼関係・取引実績

【低い障壁】

  • テクノロジーによる参入:マッチングプラットフォーム型の新興企業
  • 隣接業界からの参入:SES(システムエンジニアリングサービス)、業務請負事業者の派遣事業への展開
  • 資本力のある異業種大手の参入

ポーターの指摘:

「規制によって保護されている業界でも、技術革新や規制緩和によって参入障壁は突如として低下する可能性がある」(Porter, 1980, p.7-13)

戦略的示唆:

  • 既存顧客との関係性深化による「スイッチングコスト」の向上
  • デジタル技術への積極投資(後述のバリューチェーン高度化)
  • 専門性・ノウハウ蓄積による模倣困難性の確保

【要因③:代替品の脅威】高い

代替となる労働力調達手段:

  1. 直接雇用(正社員・契約社員):企業の内製化志向の高まり
  2. 業務請負・BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング):業務単位での外部委託
  3. フリーランス・ギグワーカー直接契約:クラウドソーシング、タレントマーケットプレイス(ランサーズ、クラウドワークス、ココナラ等)
  4. RPA・AI・自動化技術:定型業務の機械化

ポーターの指摘:

「代替品は、業界全体の価格上限を設定する。代替品の価格パフォーマンスが向上するほど、業界の収益性は圧迫される」(Porter, 1980, p.23-24)

戦略的示唆:

  • 派遣労働の付加価値明確化:単なる人員供給から「人材ソリューション」へ
  • 代替困難な高度専門人材の育成・供給
  • 代替技術との共存:RPAオペレーター派遣等の新領域開拓

【要因④:買い手(派遣先企業)の交渉力】高い

買い手が強い交渉力を持つ理由:

  • 派遣事業者の選択肢が豊富(43,445事業所)
  • スイッチングコストの低さ(契約期間満了での切り替えが容易)
  • 発注量の大きさ(大手企業は複数社に分散発注し、価格競争を促進)
  • 価格・品質の比較が容易(情報の非対称性が低い)

ポーターの指摘:

「買い手が大量購入を行う場合、あるいは購入する製品・サービスが標準化されている場合、買い手の交渉力は強まる」(Porter, 1980, p.24-27)

戦略的示唆:

  • 派遣先との「パートナーシップ型」関係構築
  • 単価交渉ではなく「価値提案」へのシフト
  • 長期契約・包括契約による安定性確保
  • 特定派遣先への過度な依存回避(売上分散)

【要因⑤:売り手(派遣労働者)の交渉力】中〜高(人材不足で上昇傾向)

売り手が強い交渉力を持つ理由:

  • 労働力人口の減少:生産年齢人口(15-64歳)は2022年7,421万人→2040年推計5,978万人(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 特定職種での人材逼迫:IT技術者、看護師、介護職等
  • 転職市場の流動化:キャリア自律意識の高まり
  • 法規制による保護強化:同一労働同一賃金、教育訓練義務等

ポーターの指摘:

「労働組合や専門職集団のように、労働力供給者が組織化されている場合、あるいは希少な技能を有する場合、その交渉力は著しく高まる」(Porter, 1980, p.27-29)

戦略的示唆:

  • 派遣労働者の「リテンション(定着)」を最優先課題化
  • 労働条件・処遇の継続的改善
  • キャリア開発支援の充実(守島理論との統合)
  • 雇用ブランディングによる採用競争力強化

1-3. ファイブフォース分析の統合的解釈

派遣業界のファイブフォース分析から導かれる結論:

派遣業界は構造的に収益性が低く、競争が激しい「レッドオーシャン」である

  • 業界内競争:高
  • 新規参入の脅威:中
  • 代替品の脅威:高
  • 買い手の交渉力:高
  • 売り手の交渉力:中〜高

しかし、ポーターはこう続けます:

「業界の構造的魅力度が低くても、適切な戦略を選択すれば、企業は高収益を実現できる。重要なのは、5つの力に対して自社を優位に位置づける『ポジショニング』である」(Porter, 1980, p.4-5)

次章では、このポジショニングを実現する「3つの基本戦略」を派遣事業に応用します。


第二部:3つの基本戦略―派遣事業における競争優位の選択

2-1. ポーターの3つの基本戦略(ジェネリック戦略)

ポーターは、競争優位を築くための基本戦略を3つに類型化しました。

「企業が競争優位を獲得するためには、2つの基本的な競争優位のタイプ―『コスト優位』か『差別化優位』―のいずれかを選択し、さらに競争範囲―『広範囲』か『特定セグメント』―を決定しなければならない」(Porter, 1980, p.35)

【3つの基本戦略】

競争優位のタイプ競争範囲:広範囲競争範囲:特定セグメント
コスト優位①コスト・リーダーシップ戦略③集中戦略(コスト集中)
差別化優位②差別化戦略③集中戦略(差別化集中)

ポーターはさらに警告します:

「3つの戦略のいずれも選択せず、中途半端な立場(Stuck in the Middle)に陥った企業は、低収益に甘んじることになる。コストでも差別化でも優位性を持てず、市場シェアも限定的になるからだ」(Porter, 1980, p.41-42)


2-2. 戦略①:コスト・リーダーシップ戦略

【戦略の定義】

業界内で最低コストの実現により、標準的な品質・サービスを最も低価格で提供する戦略。

【派遣事業における実現手段】

1. 規模の経済の追求

  • 大量採用・大量配置による単位当たりコストの低減
  • 採用広告費・教育訓練費の分散効果
  • 本社機能(管理部門)の効率化

2. オペレーショナル・エクセレンス

  • 業務プロセスの標準化・マニュアル化
  • デジタル技術による効率化
    • ATS(採用管理システム)導入
    • 勤怠管理・給与計算の自動化
    • AI面接・スキルマッチング
  • 拠点統廃合による固定費削減

3. 調達コストの最適化

  • 採用媒体の費用対効果分析と最適ポートフォリオ
  • リファラル採用・SNS採用の強化
  • 外部委託(アウトソース)の活用

4. 学習曲線効果の活用

  • 経験蓄積による業務効率向上
  • ベストプラクティスの組織的共有

【成功条件】

  • 一定規模以上の事業規模(市場シェア)
  • 継続的なコスト管理体制
  • 品質低下を招かないオペレーション設計

【リスクと留意点】

  • 価格競争の激化による収益性悪化
  • 同一労働同一賃金規制下では、コスト削減余地が限定的
  • 差別化要素の欠如による競合との「コモディティ化」

【適合企業タイプ】 大手総合人材サービス企業、特定地域での圧倒的シェアを持つ企業


2-3. 戦略②:差別化戦略

【戦略の定義】

業界内で独自性が高く評価される製品・サービスを創造し、プレミアム価格を実現する戦略。

【派遣事業における差別化軸】

1. 人材の質的差別化

  • 高度専門人材の供給
    • IT技術者(クラウドエンジニア、AI/ML技術者、セキュリティ専門家)
    • 医療専門職(看護師、薬剤師、臨床検査技師)
    • 士業・専門職(経理財務、法務、知財、翻訳・通訳)
  • 独自の教育訓練プログラム
    • 社内研修センター設立
    • 外部資格取得支援(簿記、TOEIC、IT資格等)
    • OJTコーチング体制の整備

2. サービス品質の差別化

  • 人材提案力の高度化
    • 派遣先ニーズの深掘りヒアリング
    • 職場環境・チーム特性を考慮したマッチング
    • トライアル期間の設定
  • フォローアップ体制の充実
    • 専任営業担当による定期訪問(月1回以上)
    • 派遣労働者の定期面談(月1回のキャリアカウンセリング)
    • トラブル発生時の即時対応(24時間ホットライン)
  • コンサルティング機能の付加
    • 派遣先の組織課題・業務改善提案
    • 労務コンプライアンス支援
    • 人材要件定義の共同策定

3. 業界・職種特化による専門性

  • 特定業界への深い理解
    • 製造業特化(自動車、半導体、食品、化学等)
    • サービス業特化(小売、飲食、ホテル、コールセンター等)
    • IT・通信業特化
  • 業界特有のノウハウ・ネットワーク
    • 業界団体との連携
    • 業界専門メディアへの寄稿・露出
    • 業界特化型採用チャネルの開拓

4. 雇用ブランドの確立

  • 働きやすさの追求
    • 正社員登用制度(無期雇用転換)
    • 手厚い福利厚生(健康保険、厚生年金、有給休暇完全消化推奨)
    • ワークライフバランス支援
  • キャリア開発支援
    • CDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)の提供
    • 社内公募制度
    • メンター制度
  • 企業理念・ミッションの発信
    • 社会的意義の訴求(働き方改革、女性活躍、地方創生への貢献)

5. デジタル技術による差別化

  • 独自マッチングアルゴリズムの開発
  • 派遣労働者向けスキル可視化ツール
  • 派遣先向けダッシュボード(稼働状況、満足度の可視化)

【成功条件】

  • 差別化要素が顧客に明確に認識され、価値が評価される
  • 差別化に要するコスト増を価格転嫁できる
  • 模倣困難性(容易に真似されない)

【リスクと留意点】

  • 差別化コストの増大による収益性低下
  • 顧客ニーズの変化による差別化要素の陳腐化
  • 過剰差別化(顧客が求めない付加価値の追求)

【適合企業タイプ】 中堅・中小の専門特化型派遣事業者、高付加価値サービスを志向する企業


2-4. 戦略③:集中戦略(フォーカス戦略)

【戦略の定義】

特定の顧客セグメント、地理的市場、製品ラインに経営資源を集中し、その限定領域で競争優位を確立する戦略。コスト集中と差別化集中の2つのパターンがある。

【派遣事業における集中戦略の実践例】

1. 地理的集中

  • 特定都道府県・市区町村への集中展開
  • 地域密着型営業による信頼関係構築
  • 地元企業・自治体とのネットワーク形成
  • 地方での採用競争優位(大手が進出しにくいニッチ市場)

2. 業界集中

  • 単一業界への特化(例:建設業専門、医療介護専門、IT業界専門)
  • 業界特有の法規制・商慣習への深い理解
  • 業界内での口コミ・紹介による新規開拓

3. 職種集中

  • 特定職種への特化(例:経理派遣専門、コールセンター専門、軽作業専門)
  • 職種別の専門的教育訓練プログラム
  • 職種特化型の採用チャネル開拓

4. 顧客セグメント集中

  • 中小企業専門
  • スタートアップ・ベンチャー企業専門
  • 上場企業専門
  • 各セグメント特有のニーズへの最適化

【成功条件】

  • 限定されたセグメント内でNo.1のポジション確立
  • セグメント固有のニーズと自社能力の適合
  • セグメント規模が採算ラインを上回る

【リスクと留意点】

  • セグメント市場の縮小リスク
  • 大手企業のニッチ市場参入
  • 過度な顧客集中による事業リスク

【適合企業タイプ】 中小規模の派遣事業者、創業期・成長初期の企業、地域密着型企業


2-5. 「戦略なき中途半端」の罠

ポーターが最も警告するのは、3つの戦略のいずれも明確に選択しない「Stuck in the Middle(中途半端な立場)」です。

「コストでも差別化でも中途半端な企業は、最悪の戦略的ポジションにある。コスト・リーダーはより効率的に運営し、差別化企業はより高い価格を実現できる。中途半端な企業は、両方で劣位に立ち、低収益に甘んじる」(Porter, 1980, p.41-42)

【派遣業界における「中途半端」の典型例】

  • 「それなりの価格で、それなりのサービス」を提供
  • 明確なターゲット顧客が不在
  • 競合との差別化ポイントが説明できない
  • 価格競争に巻き込まれやすく、収益性が低い
  • 派遣労働者からも派遣先からも「可もなく不可もなく」と認識される

【脱却の方向性】

  1. 自社の現状ポジションを客観的に分析
  2. 3つの戦略のいずれかを明確に選択
  3. 選択した戦略を徹底的に実行
  4. 戦略と整合しない活動を削ぎ落とす

第三部:バリューチェーン分析―付加価値創出プロセスの最適化

3-1. バリューチェーンとは

ポーターは1985年の著書『競争優位の戦略(Competitive Advantage)』で、バリューチェーン(価値連鎖)の概念を提示しました。

「競争優位は、企業が買い手のために行う多数の個別活動から生まれる。これらの活動を体系的に分析するためのツールがバリューチェーンである」(Porter, 1985, p.33)

バリューチェーンは、企業活動を「主活動(Primary Activities)」と「支援活動(Support Activities)」に分類し、各活動がどのように付加価値を生み出しているかを可視化します。


3-2. 派遣事業のバリューチェーン分解

【主活動】

1. インバウンド・ロジスティクス(調達物流) 派遣事業における「調達」=人材の採用・登録

  • 求人広告の出稿(媒体選定、原稿制作)
  • 応募者管理(ATS活用)
  • 面接・選考
  • 登録者データベース構築
  • スキルチェック・適性検査

付加価値向上策:

  • AI面接・書類選考による効率化
  • リファラル採用の強化(紹介インセンティブ制度)
  • SNS・オウンドメディアによる採用ブランディング
  • 登録者データの精緻化(スキル、志向性、実績の詳細記録)

2. オペレーション(製造・サービス提供) 派遣事業における「製造」=マッチング・配置

  • 派遣先ニーズのヒアリング
  • 登録者とのマッチング
  • 職場見学・面談のアレンジ
  • 労働条件の提示・契約締結
  • 就業開始準備(オリエンテーション、派遣先情報提供)

付加価値向上策:

  • マッチング精度の向上(AIアルゴリズム、職場文化適合性分析)
  • 面談同席による不安解消
  • 就業前研修の充実
  • 初日付き添い・導入サポート

3. アウトバウンド・ロジスティクス(出荷物流) 派遣事業における「出荷」=派遣労働者の就業継続支援

  • 就業開始後のフォローアップ訪問
  • 勤怠管理
  • 給与計算・支払
  • 契約更新手続き

付加価値向上策:

  • 定期的な三者面談(派遣先・派遣労働者・派遣元)
  • モバイルアプリによる勤怠報告・給与明細閲覧
  • 即日払い・週払いオプション
  • 契約更新時の労働条件見直し提案

4. マーケティング&セールス

  • 派遣先企業の新規開拓
  • 既存顧客への提案営業
  • 価格設定・見積作成
  • 契約交渉
  • ブランディング活動

付加価値向上策:

  • ターゲット企業の絞り込み(集中戦略との連動)
  • ソリューション営業(単なる人員供給から業務改善提案へ)
  • 事例集・ホワイトペーパーの制作
  • セミナー・ウェビナー開催
  • 顧客満足度調査の実施とフィードバック

5. サービス(アフターサービス)

  • トラブル対応(欠勤、遅刻、職場トラブル等)
  • 苦情処理
  • 代替要員の手配
  • キャリアカウンセリング
  • 教育訓練の提供

付加価値向上策:

  • 24時間対応窓口の設置
  • トラブル発生時の迅速な代替要員確保体制
  • 定期的なキャリア面談(年2回以上)
  • eラーニング・外部研修の無償提供
  • 資格取得支援制度

【支援活動】

1. 企業インフラ(全般管理)

  • 経営企画、財務・経理、法務、総務
  • IT基盤整備
  • 内部統制・コンプライアンス

2. 人事・労務管理

  • 正社員の採用・育成・評価
  • 組織文化の醸成
  • 労働法規対応

3. 技術開発

  • マッチングアルゴリズムの開発
  • 業務システムの構築・改善
  • データ分析による業務改善

4. 調達

  • オフィス賃貸、設備投資
  • 外部サービスの調達(求人媒体、システムベンダー等)

3-3. バリューチェーン分析による競争優位の発見

【分析の視点】

  1. コスト分析
    • 各活動の原価を詳細に把握
    • コスト・ドライバー(コスト発生要因)の特定
    • 無駄な活動の削減・効率化
  2. 差別化分析
    • 顧客価値に最も貢献している活動の特定
    • 競合との差を生む活動の強化
    • 模倣困難な活動への投資
  3. 連鎖の最適化
    • 活動間の連携強化(例:採用とマッチングの連動)
    • ボトルネック工程の解消
    • デジタル技術による統合

【実践例:差別化集中戦略×バリューチェーン最適化】

ケース:IT技術者派遣専門事業者A社

  • 選択戦略:差別化集中(IT業界×高度技術者)
  • 主活動の最適化
    • 調達:技術系イベント・勉強会でのスカウト、エンジニア向けSNS活用
    • オペレーション:技術スタックの詳細マッチング、技術面接への同席
    • サービス:最新技術トレンド研修の提供、技術書購入補助
  • 支援活動の最適化
    • 技術開発:スキルマッチングAIの独自開発
    • 人事:営業担当者全員にIT基礎知識研修を義務化
  • 結果:高単価案件の獲得、派遣労働者の定着率向上、顧客満足度90%超

第四部:持続的競争優位の構築に向けて

4-1. ポーターの警告:模倣可能性との戦い

ポーターは、競争優位は常に模倣の脅威にさらされていると指摘します。

「競争優位を持続させるためには、競合による模倣を困難にする『参入障壁』を築かなければならない。単なる一時的優位ではなく、長期にわたって防御可能な地位を確立することが重要だ」(Porter, 1980, p.49-50)

【派遣事業における模倣困難性の源泉】

  1. 規模の経済:大規模登録者データベース、全国ネットワーク
  2. 学習曲線:業界特有のノウハウ蓄積、長年の実績
  3. ブランド:知名度、信頼性、口コミ評価
  4. スイッチングコスト:派遣先・派遣労働者との関係性
  5. 独自技術・システム:独自開発のマッチングアルゴリズム
  6. ネットワーク効果:派遣先と派遣労働者の両面ネットワーク

4-2. 戦略の一貫性(Strategic Consistency)

ポーターは、戦略の成功には「活動の整合性」が不可欠だと強調します。

「競争優位は、個別の活動ではなく、活動システム全体から生まれる。各活動が戦略と整合し、相互に強化し合うとき、模倣は極めて困難になる」(Porter, 1996, HBR "What is Strategy?")

【派遣事業における活動システムの整合性例】

差別化戦略を選択した企業の活動システム:

  • 採用:高品質人材の厳選採用(合格率を意図的に低く設定)
  • 教育訓練:業界トップクラスの研修時間・予算
  • マッチング:丁寧なヒアリングと職場見学の徹底
  • 価格:プレミアム価格設定
  • 営業:提案型営業、長期パートナーシップ志向
  • フォロー:手厚いアフターフォロー体制

これらの活動が全て「高品質」という戦略軸で統一され、相互に強化し合っています。


4-3. 戦略の見直しサイクル

業界構造は常に変化します。ポーターは定期的な戦略見直しを推奨しています。

【見直しのトリガー】

  • 法規制の変更(派遣法改正等)
  • テクノロジーの進化(AI、RPA等)
  • 顧客ニーズの変化
  • 競合の戦略転換
  • 経済環境の変動

【見直しプロセス】

  1. ファイブフォース分析の再実施(年1回)
  2. 自社の競争ポジションの客観評価
  3. 戦略の有効性検証
  4. 必要に応じた戦略修正

結論:ポーターに学ぶ派遣事業経営の本質

マイケル・ポーター『競争の戦略』から派遣事業経営者が学ぶべき核心は、以下の3点に集約されます。

1. 業界構造を冷静に分析せよ

  • ファイブフォース分析により、自社を取り巻く競争環境を正確に把握する
  • 感覚や希望的観測ではなく、客観的データに基づく戦略立案

2. 明確な戦略を選択せよ

  • コスト・リーダーシップ、差別化、集中戦略のいずれかを明確に選ぶ
  • 「中途半端」を徹底的に排除する
  • 選択した戦略と整合しない活動を削ぎ落とす勇気

3. 活動システム全体で競争優位を構築せよ

  • バリューチェーンの各活動を戦略に整合させる
  • 個別最適ではなく全体最適を追求
  • 模倣困難な活動システムの構築

派遣業界は確かに競争が激しく、構造的には厳しい環境です。しかし、ポーターの理論が示すように、適切な戦略的ポジショニングと一貫した実行により、中小企業でも持続的な競争優位を築くことは可能です。

守島基博教授の「構造的ミスマッチ解消」「人材ポートフォリオ管理」(前稿)と、ポーターの「競争戦略」を統合することで、派遣事業経営者は以下の統合的戦略フレームワークを獲得できます:

  • 外部環境分析:ファイブフォース(ポーター)
  • 戦略選択:3つの基本戦略(ポーター)
  • 内部プロセス最適化:バリューチェーン(ポーター)
  • 人材マネジメント:相互補完性・納得性・人的資本経営(守島)

この統合的アプローチこそが、2025年以降の派遣事業経営における羅針盤となるでしょう。


主要参考文献

  • Porter, Michael E. (1980) Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors, Free Press(邦訳:『競争の戦略』土岐坤・中辻萬治・服部照夫訳、ダイヤモンド社、1982年/新訳版:『競争の戦略(新訂)』土岐坤訳、ダイヤモンド社、1995年)
  • Porter, Michael E. (1985) Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance, Free Press(邦訳:『競争優位の戦略』土岐坤・中辻萬治・小野寺武夫訳、ダイヤモンド社、1985年)
  • Porter, Michael E. (2008) "The Five Competitive Forces That Shape Strategy," Harvard Business Review, January 2008 https://hbr.org/2008/01/the-five-competitive-forces-that-shape-strategy
  • 厚生労働省(2023)『令和4年度労働者派遣事業報告書の集計結果』
  • 国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(令和5年推計)』
  • グロービス経営大学院『ポーターの3つの基本戦略』https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11996.html
  • Harvard Business School, Institute for Strategy and Competitiveness "The Five Forces" https://www.isc.hbs.edu/strategy/business-strategy/Pages/the-five-forces.aspx

以上、マイケル・ポーター『競争の戦略』の主要フレームワークを派遣事業に応用した実践的な検討結果をお届けしました。ポーターの理論は業種を問わず応用可能な普遍性を持ちますが、派遣業界特有の「二重構造(派遣先と派遣元)」「人材という特殊な商材」「法規制の影響」を考慮した解釈が重要です。本稿が、派遣事業経営者の皆様の戦略立案の一助となれば幸いです。取り組んでみてはいかがでしょうか。その一歩が、あなたの事業の進展と人生の豊かさを大きく変えるはずです。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。