みずほ銀行のCMSサービスを利用していてグループ全体で資金効率を図っていたら
労働者派遣事業の許可更新において、財産的基礎要件は必ずクリアしなければならない重要な要件です。しかし、グループ企業全体の資金効率を追求した結果、思わぬ落とし穴にはまってしまうケースがあります。今回は、みずほ銀行のCMSサービスを利用していた会社が直面した、財産的基礎要件の問題についてご紹介します。
CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)とは
CMS(Cash Management System)とは、グループ企業間の資金を一元管理し、資金効率を最大化するための仕組みです。みずほ銀行では企業向けインターネットバンキングサービスとして、企業規模やニーズに応じた2種類のCMSサービスを提供しています。
CMSの基本的な仕組み
グループ企業を構成する複数の会社の中には、資金に余裕がある会社と資金が不足している会社が混在しています。CMSを活用すると、以下のような資金の流れが実現できます。
- 資金に余裕がある子会社から親会社が資金を吸い上げる
- 親会社がその資金を資金が不足している子会社に融通する
- グループ全体として資金効率が向上し、外部借入を削減できる
このような仕組みにより、グループ全体での金利負担の軽減や、資金の有効活用が可能になります。
みずほ銀行が提供する2種類のCMSサービス
みずほ銀行では、企業規模や取引量に応じて2つのCMSサービスを提供しています。
Mizuho Advanced CMS(大企業・中堅企業向け)
位置づけ: 大企業・上場企業向けの高機能版CMSサービス
主な特徴:
- 多機能・高度なサービス: 総合振込、給与振込、口座振替など幅広い取引に対応
- 大量取引対応: 大量のデータ処理が可能で、取引件数が多い企業に最適
- 複雑な承認フロー: 多段階承認、複数承認者設定など柔軟な権限管理が可能
- システム連携: 企業の基幹システム(ERP等)との全銀データ連携に対応
- グループ管理機能: 複数企業・複数口座の一括管理が可能
- 高度なセキュリティ: 電子証明書、ワンタイムパスワードなど多層防御
対象顧客: 取引量が多く、複雑な資金管理が必要な大企業・上場企業など
Mizuho Lite CMS(中小企業向け)
位置づけ: 中小企業向けの簡易版・廉価版CMSサービス
主な特徴:
- 基本機能に特化: 振込、残高照会など必要最低限の機能を提供
- シンプルな操作性: 使いやすさを重視したインターフェース
- 少額取引向け: 取引件数・金額が比較的少ない企業に適合
- 簡易な承認フロー: シンプルな権限設定で運用しやすい
- 導入しやすい価格: 月額利用料がAdvancedより低額
- 基本的なセキュリティ: 必要十分なセキュリティ機能を装備
対象顧客: 取引量が比較的少ない中小企業、個人事業主など
サービス比較表
| 項目 | Mizuho Advanced CMS | Mizuho Lite CMS |
|---|---|---|
| 対象企業規模 | 大企業・中堅企業 | 中小企業 |
| 月間取引件数 | 多い | 少ない |
| 利用料金 | 高い | 低い |
| 機能の豊富さ | 豊富 | 基本的 |
| システム連携 | 必要 | 不要・簡易 |
| 承認フロー | 複雑・多段階 | シンプル |
労働者派遣事業を営む企業に適したCMSサービスの選択
中小規模の派遣会社の場合
Mizuho Lite CMSが適しています。
- 給与振込、社会保険料納付等の基本機能で十分対応可能
- シンプルな操作性で経理担当者の負担を軽減
- 月額利用料が抑えられ、コストパフォーマンスが良い
- 取引件数が比較的少ない場合に最適
大手派遣会社・グループ企業の場合
Mizuho Advanced CMSが適しています。
- 大量の給与振込処理に対応可能
- 複数拠点の資金管理を一元化
- グループ会社間の資金移動を効率的に管理
- 基幹システムとの連携により業務効率が向上
- 複雑な承認フローで内部統制を強化
実際に起きた悲劇のケース
会社の状況
ある労働者派遣事業許可を受けている会社様が、許可更新時に財産的基礎要件をクリアできずに困っていらっしゃいました。その会社様の財務状況は以下の通りでした。
- 純資産: 十分に多く、健全な財務状態
- 負債: ほとんどなく、極めて良好な財務内容
- 資金繰り: 本来であれば資金に余裕がある優良企業
しかし、預金の要件だけが満たせないという問題に直面していました。
問題の原因
この会社様は、みずほ銀行のCMSサービスを利用して、グループ全体の資金効率を図っていました。資金に余裕があったため、親会社に対して資金を貸し付けていたのです。
決算日における貸借対照表の状況は以下のようになっていました。
- 親会社への貸付金が資産として計上
- 自己名義の預金残高が1,500万円に満たない状態
労働者派遣事業の財産的基礎要件
労働者派遣事業許可の財産的基礎要件では、以下の条件を満たす必要があります。
- 基準資産額が2,000万円以上であること
- 基準資産額が負債総額の7分の1以上であること
- 自己名義の現金・預金額が1,500万円以上であること
この3つの要件をすべて同時に満たす必要があります。
なぜ要件を満たせなかったのか
貸借対照表上、親会社に貸し付けていた資金は「貸付金」として計上されます。この貸付金は、財産的基礎要件における「自己名義の現金・預金」には該当しません。
つまり、実質的には資金に余裕があったにもかかわらず、決算日時点での預金残高が1,500万円を下回っていたため、要件を満たすことができなかったのです。
CMSを利用する企業への注意点
決算日を意識した資金管理
CMSは資金効率の観点からは非常に有効なサービスですが、労働者派遣事業許可の更新を控えている企業にとっては、慎重な対応が必要です。
更新前の決算においては、以下の点に注意してください。
- 決算日時点で自己名義の預金が最低1,500万円以上残るようにする
- CMSによる貸付を決算日前に一時的に回収する、または貸付額を調整する
- 決算日のタイミングを考慮した資金移動を計画する
Advanced CMS利用企業の特別な注意点
Mizuho Advanced CMSを利用している大手派遣会社やグループ企業では、複数企業・複数口座を一括管理しているため、以下の点にも留意が必要です。
- グループ全体の資金移動が活発なため、決算日の預金残高の把握が複雑
- 複数の子会社がある場合、各社の財産的基礎要件を個別に確認する必要
- システム連携により自動的に資金移動が行われる場合、決算日前の手動調整が必要
Lite CMS利用企業の注意点
Mizuho Lite CMSを利用している中小規模の派遣会社でも、基本的な注意点は同じです。
- シンプルな機能ゆえに見落としがちだが、預金要件は同様に適用される
- 取引件数が少ないため、決算日前の調整は比較的容易
- 月次での預金残高モニタリングを習慣化することが重要
事前の確認と計画
労働者派遣事業の許可更新は、許可有効期間満了日の3ヶ月前から2ヶ月前までに申請する必要があります。更新申請に使用する決算書は、通常、直近の事業年度のものです。
したがって、決算期を迎える前に以下の確認を行うことをお勧めします。
- 現在のCMS利用状況の把握(AdvancedかLiteか、利用機能の確認)
- 決算日における預金残高の予測
- 必要に応じて、決算日時点での資金配置の調整
- グループ管理機能を利用している場合は、各社の個別状況も確認
まとめ
みずほ銀行のCMSサービス(Mizuho Advanced CMSおよびMizuho Lite CMS)は、企業規模やニーズに応じて選択できる優れた資金管理ツールです。グループ企業の資金効率を高めることができる反面、労働者派遣事業許可を保有する企業にとっては、決算日時点での預金残高が許可要件に直結する重要な要素となります。
実質的に資金に余裕があっても、決算日における貸借対照表の表示方法によっては要件を満たせないという、本当に気の毒なケースが実際に発生しています。しかし、ルール上は仕方がありません。
CMSを利用されている企業様は、利用しているサービスがAdvancedかLiteかにかかわらず、労働者派遣事業許可の更新前の決算において、預金の要件をクリアできる程度にCMSの利用を調整していただくことを強くお勧めいたします。
特に、Mizuho Advanced CMSでグループ管理機能を活用している企業様は、複数企業の資金を一括管理しているため、各社の個別の財産的基礎要件にも注意を払う必要があります。
当事務所では、労働者派遣事業許可更新のための合意された手続(AUP)を通じて、このような問題の早期発見と対策のご支援をさせていただいております。お気軽にご相談ください。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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