派遣労働者の個人単位の期間制限を徹底解説【3年ルール】
多くの派遣事業者様が「個人単位の期間制限」について悩んでいらっしゃるご様子を目にします。この制度は派遣労働者のキャリア形成と雇用安定を守るための重要なルールです。ここでは、初めて派遣事業に携わる方でも理解できるよう、具体例を交えながら分かりやすく解説します。
個人単位の期間制限とは? 基本的な考え方
派遣労働は本来、臨時的・一時的な働き方として位置づけられています。しかし、派遣労働者本人が望んでいないにもかかわらず、同じ派遣先で長期間働き続けることで「派遣就業への固定化」が起きてしまうケースがありました。
このような状況を防ぎ、派遣労働者のキャリアアップを促進するため、特に雇用が不安定になりがちな有期雇用の派遣労働者については、同一の組織単位における派遣期間を3年までと制限しています。
なぜ3年なのか?
この3年という期間は、派遣労働者が節目節目でキャリアを見つめ直し、次のステップに進む機会とするために設定されています。正社員への転換、新しいスキルの習得、別の職場での経験など、派遣労働への固定化を防止することが最大の目的です。
「組織単位」とは具体的に何を指すのか?
個人単位の期間制限を理解する上で、最も重要なキーワードが**「組織単位」**です。
組織単位の定義
組織単位とは、派遣先企業における課やグループなど、以下の条件を満たす組織を指します:
- 業務としての類似性や関連性がある組織である
- その組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有する
- 実態に即して判断される
具体例で理解する組織単位
例1:大手メーカーのケース
- 本社営業部の営業1課に派遣労働者Aさんを配置
- 組織単位:「営業1課」
- 課長が業務配分と労務管理の権限を持つ
- この場合、営業1課での就業期間が3年まで
例2:IT企業のケース
- 開発本部のシステム開発グループに派遣労働者Bさんを配置
- 組織単位:「システム開発グループ」
- グループリーダーが指揮監督権限を持つ
- システム開発グループ内での業務が変わっても、期間は通算される
3年を超えて同じ派遣先で働く方法
組織単位を変更すれば、同一の事業所に引き続き派遣することが可能です。ただし、いくつかの条件があります。
条件1:事業所単位の期間制限のクリア
事業所単位の派遣可能期間が延長されていることが前提となります。事業所単位の期間制限とは別の制度ですが、これもクリアしていなければなりません。
条件2:特定目的行為の禁止
組織単位を変更する際、派遣先は同一の派遣労働者を名指しで求めるなどの特定目的行為を行ってはいけません。これは労働者派遣法で禁止されている行為です。
実務での注意点
具体例:組織異動のケース
- Cさんが営業1課で3年間勤務
- その後、営業2課に異動して引き続き勤務可能
- ただし、営業2課の課長が「Cさんを指名したい」と要求するのはNG
- あくまで派遣元の判断で、適切な人材としてCさんが選ばれる形にする
業務が変わっても期間は通算される
重要なポイントとして、同一の組織単位内であれば、派遣労働者の従事する業務が変わっても派遣期間は通算されます。
具体例:業務変更のケース
例:総務部総務課での業務変更
- 1年目:文書管理業務を担当
- 2年目:受付業務に変更
- 3年目:備品管理業務に変更
この場合、すべて「総務課」という同一組織単位内の業務変更なので、合計3年間で期間制限に達します。業務内容が異なっても、期間はリセットされません。
クーリング期間を活用した再派遣
同一の派遣労働者について、労働者派遣の終了後3ヶ月を超える期間(クーリング期間)が空いていれば、再び同一の組織単位に派遣することができます。
クーリング期間の計算方法
具体例:クーリング期間の適用
- Dさんが人事部人事課で3年間勤務(2022年4月〜2025年3月)
- 2025年3月31日で派遣終了
- 2025年7月1日以降であれば、再び人事課への派遣が可能(3ヶ月超経過)
クーリング期間利用の注意点
法律上は可能ですが、本人が希望しないにもかかわらずクーリング期間を設けて再び同じ組織単位に派遣することは、派遣労働者のキャリアアップの観点から望ましくありません。
派遣労働者のキャリア形成を真剣に考えるなら、クーリング期間後も以下のような選択肢を検討すべきです:
- 派遣先での直接雇用(正社員化)
- より高度な業務への配置転換
- 新しいスキルが身につく別の派遣先の紹介
- 無期雇用派遣への転換
個人単位の期間制限が適用されない派遣労働者
すべての派遣労働者に個人単位の期間制限が適用されるわけではありません。以下の派遣労働者は対象外です:
- 無期雇用派遣労働者:派遣元と期間の定めのない雇用契約を結んでいる
- 60歳以上の派遣労働者
- 終期が明確な有期プロジェクト業務に従事する派遣労働者
- 日数限定業務(月10日以下など)に従事する派遣労働者
- 産前産後休業・育児休業・介護休業等の代替要員
派遣事業者が守るべき実務上のポイント
1. 期間管理の徹底
派遣労働者ごとに、組織単位での就業開始日と期間を正確に管理する台帳を整備しましょう。
管理項目の例:
- 派遣労働者氏名
- 派遣先企業名・事業所名
- 組織単位名(部署名・課名等)
- 派遣開始日
- 派遣終了予定日
- 通算派遣期間
2. 派遣先への事前説明
派遣開始前に、派遣先担当者へ個人単位の期間制限について説明し、理解を得ておくことが重要です。
3. 期間満了前のキャリアコンサルティング
3年の期間満了が近づいたら、派遣労働者と面談を行い、今後のキャリアについて相談しましょう。
相談内容の例:
- 派遣先での直接雇用の可能性
- 無期雇用派遣への転換希望
- 他の派遣先での就業希望
- スキルアップ研修の受講希望
4. 派遣先への雇用依頼(努力義務)
派遣元事業者は、3年間継続して同一の組織単位に派遣した労働者について、派遣終了後に派遣先に対して直接雇用を依頼する努力義務があります。
違反した場合のリスク
個人単位の期間制限に違反すると、以下のリスクがあります:
- 行政指導・勧告:労働局からの是正指導
- 許可取消しのリスク:重大・悪質な違反の場合
- 派遣先での直接雇用申込みみなし制度:違反を知りながら派遣を受け入れた派遣先は、派遣労働者に直接雇用を申し込んだものとみなされる可能性
- 企業イメージの低下:コンプライアンス違反として社会的信用を失う
内部監査のポイント
労働者派遣事業を行う会社が内部監査を行う際、個人単位の期間制限に関して以下の点をチェックします。
内部監査での確認事項
- 派遣労働者ごとの期間管理台帳の整備状況
- 組織単位の把握方法と記録
- 3年到達前の対応フロー
- 派遣契約書における組織単位の明記
- クーリング期間の管理方法
- 派遣先への説明記録
適切な管理体制が整っていないと、許可申請時に指摘を受ける可能性があります。
まとめ:派遣労働者のキャリアを守る制度として
個人単位の期間制限(3年ルール)は、派遣労働者を守り、そのキャリア形成を支援するための重要な制度です。
押さえておくべき重要ポイント:
✓ 有期雇用の派遣労働者は同一組織単位で最長3年まで
✓ 組織単位とは課やグループなど、実態に即して判断される
✓ 業務が変わっても同一組織単位なら期間は通算される
✓ 組織単位を変更すれば継続派遣可能(事業所単位の制限クリアが前提)
✓ 3ヶ月超のクーリング期間で再派遣可能(ただし望ましくない)
✓ 期間満了前にキャリアコンサルティングを実施することが重要
派遣事業者の皆様には、単なる法令順守だけでなく、派遣労働者一人ひとりのキャリア形成を真剣に考えた運営をお願いしたいと思います。そのような誠実な対応が、優秀な派遣労働者の確保にもつながり、結果として事業の発展にも貢献するはずです。
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