監査では領収証を全件チェックするのですか?
先日、労働者派遣事業許可申請のための監査証明の発行についてお問い合わせをくださった会社様の経理担当者の方から、こんなご質問をいただきました。
「公認会計士の監査を受ける場合は、全ての領収書をチェックしてもらわないといけないんですか?」
その会社様は、今までに監査をお受けになったことがないそうなんです。
きっと、「監査」って聞くと、何か厳しい検査官が会社にやってきて、領収書の束を1枚1枚めくりながら、細かーくチェックするようなイメージをお持ちだったのかもしれません。
お気持ち、よく分かります。
お答えは「ノー」です
結論から申し上げますと、公認会計士が実施する監査においては、すべての証憑をチェックすることはせずに、サンプリングによってチェックをします。
つまり、抜き取り検査ですね。
「えっ、全部チェックしないの?それで大丈夫なの?」
そう思われるかもしれません。
でも、これにはちゃんとした理由があるんです。
監査基準に「試査」が規定されている
実は、監査基準という専門的なルールの中に、「監査は試査による」ということが規定されているんです。
試査というのは、抜き取り検査のこと。
これに対する概念として「精査」というものがあります。精査は全部を検査するわけです。
でも、通常の監査では精査ではなく、試査を行います。
具体的には、監査基準の「第三 実施基準 一 基本原則」の4において、次のように定められています。
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するに当たっては、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、リスクに対応した監査手続を、原則として試査に基づき実施しなければならない。
ここに「原則として試査に基づき実施しなければならない」と、明確に書かれているんですね。
つまり、監査は試査によって行うことが、ルールとして確立されているわけです。
なぜ全部チェックしないのか?
理由は明確です。
会社がものすごく取引量も少ない小さな会社様であるというような例外を除けば、通常の会社さんの監査の場合、全てをチェックすると時間と監査報酬が大きくかかりすぎます。
これでしたら、企業としては到底受け入れられないですよね。
また、公認会計士事務所も実施できないと思います。人的資源に限りがあるからです。
例えば、年間の取引件数が何千件、何万件とある会社で、そのすべての領収書や請求書を1枚1枚チェックしていたら、いったい何ヶ月かかるでしょうか。そして、その間の監査報酬はいくらになるでしょうか。
現実的ではありませんよね。
重要性の原則
監査では「重要性」という考え方がとても大切です。
つまり、財務諸表に大きな影響を与える可能性のある項目については、より注意深く、より多くのサンプルをチェックします。
一方で、重要性の低いところまですべてチェックするということはしないんです。
限られた時間とリソースの中で、効率的かつ効果的に監査を実施するためには、この「重要性」の判断が欠かせません。
先ほど引用した監査基準にも「財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し」と書かれていますよね。
つまり、監査人はまず「どこにリスクがあるのか」「どの項目が重要なのか」を評価した上で、それに応じた監査手続を実施するわけです。
サンプリングは科学的に行われています
「抜き取りって言っても、なんとなく適当に選んでるんじゃないの?」
いえいえ、そんなことはありません。
抜き取りも、単純になんとなく選ぶわけではなくて、統計理論に基づいて行われています。
標本抽出検定の理論というのが、科学的裏付けのあるものとして発達していますので、私たちはそういった考えに基づいてサンプリングをしています。
例えば、母集団(全体の取引)の性質や金額の規模、リスクの程度などを考慮して、統計的に意味のあるサンプル数を決定します。
そして、そのサンプルをチェックした結果から、全体についての結論を導き出すわけです。
具体的にはどうやってサンプリングするの?
サンプリングの方法にもいくつかの種類があります。
例えば、
- 無作為抽出 ランダムにサンプルを選ぶ方法
- 金額基準抽出 金額の大きい取引を優先的に選ぶ方法
- 特性抽出 特定の特徴を持つ取引(例えば、特定の取引先との取引など)を選ぶ方法
監査人は、監査の目的やリスクの評価に応じて、適切なサンプリング方法を選択します。
試査でも十分な監査証拠が得られます
「全部チェックしないで、本当に問題を発見できるの?」
というご心配もあるかと思います。
でも、ご安心ください。
監査基準では「十分かつ適切な監査証拠を入手する」ことが求められています。
適切にサンプリングされたサンプルに対して、適切な監査手続を実施すれば、財務諸表全体に対する結論を導き出すのに十分な監査証拠を得ることができます。
これは、長年の監査実務の中で確立された、実証済みのアプローチなんです。
もちろん、状況によっては精査することも
ただし、すべてのケースで試査だけで済むわけではありません。
例えば、
- 会社の規模が非常に小さく、取引件数が限られている場合
- 特定の項目について不正のリスクが高いと判断された場合
- 取引が特殊で、サンプリングでは十分な証拠が得られないと判断された場合
こういった状況では、精査に近い形で、より詳細なチェックを行うこともあります。
まとめ
監査では、すべての領収書をチェックするわけではありません。
統計理論に基づいたサンプリングによって、効率的かつ効果的に監査を実施します。
これは、監査基準に基づいた、科学的な裏付けのある方法です。
そして、この方法によって、財務諸表全体の適正性について、十分な心証を得ることができます。
「監査」について、少しイメージが変わったでしょうか。
監査に関するご質問やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。丁寧にご説明させていただきます。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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