「預金通帳に振り込み入金されたら売上計上」—それ、会計的にはアウトです・・・

先日、労働者派遣事業の許可申請に向けた対応でお伺いした会社さん、なかなか興味深い経理処理に出くわしました。

いや、「興味深い」なんて上品な言い方をしましたが、正直に申し上げると「あ、これはちょっと直してもらわないといけないやつだ」と即座に思った案件です。

何が起きていたかというと、売上高の計上タイミングが「お客さんから入金があった瞬間」になっていたんですね。普通預金の通帳を眺めながら、振り込みを確認して、その金額をその日の売上として帳簿に書く——というやり方です。


「入金=売上」の何がいけないの?

これ、会計の世界では「現金主義」と呼ばれる考え方です。

対になる言葉が「発生主義」とか「実現主義」。人材派遣業で言えば、スタッフさんを実際に派遣してサービスを提供し、金銭債権として確定したその瞬間に売上を立てる方法です。「働いてもらった=売上が発生した」という考え方ですね。

現金主義と発生主義——なんとなく「どっちでもよくない?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。八百屋さんがキャベツを売って、その場で100円受け取る。このケースなら、サービスの提供と代金の回収が同時に起きますから、現金主義でも発生主義でも記録される金額も日付もほぼ同じになります。どちらでも実害はない。

ところが人材派遣業は違います。

スタッフさんが先方の会社で働くのは今月。でも請求書を出して、入金が確認できるのは来月、場合によっては再来月——というのが普通の流れですよね。「サービスを提供した日」と「お金が振り込まれた日」の間には、タイムラグがある。


「帳簿に映らない現実」という怖さ

ここで現金主義の本質的な問題が顔を出します。

現金主義で帳簿をつけていると、「もう派遣はした、でもまだ入金はされていない」という状態が、会社の帳簿にまったく記録されないんです。

会社としては、来月以降に確実に受け取れるはずのお金(これが会計では「売掛金」と呼ばれるものです)が、帳簿の上では存在しないことになっている。

これ、何が困るかというと——帳簿を見た人間に、会社の実態が正確に伝わらないんですよ。

たとえば今月、派遣スタッフさんに給与を支払っているにもかかわらず、その月の売上はゼロになっていたりする。費用は出ているのに収益が映っていない。帳簿だけ見ると「えらい赤字の月だな」となるわけですが、実際には来月ちゃんと入金がある。でもそれは帳簿に出てこない。

これ、経営者の方が自社の状況を把握するうえでも困りますが、監査をする側としても非常に困ります。「この会社の財務状況は本当のところどうなんだ」が、帳簿から読み取れないんですから。

発生主義であれば、「派遣を提供した時点で売上を計上し、未回収の代金は売掛金として資産に計上する」——これで、会社が今どれだけ稼いでいて、どれだけ回収待ちのお金があるかが、帳簿にきちんと映ります。会社の経済的な実態と帳簿の記録が、ちゃんと一致する。それが発生主義の強みです。


「そうは言っても入金で管理してたんだよな」という気持ちは分かる

誤解しないでほしいのですが、現金主義でやっていらっしゃる会社さんを責めたいわけでは全然ないんです。

中小企業の経営者の方にとって、「入金があった=売上が立った」というのはむしろ感覚的にはすごく自然なことだと思います。「お金が手元に来て初めて売上だろう」という感覚、リアルですし、キャッシュの管理という観点からは合理的な発想でもある。

ただ、会計の帳簿というのは「キャッシュの動きだけを追うもの」ではなくて、「会社の経済活動の実態を記録するもの」なんですよね。そしてその観点から見ると、「いつ稼いだか」と「いつ受け取ったか」は、別々に記録されなければいけない。

労働者派遣事業の許可申請に月次決算書を用いる場合においては、財務諸表の適正性を公認会計士が確認するわけですが、そこで問われるのはまさに「この帳簿は会社の実態を正しく映しているか」という点です。現金主義では、残念ながらその基準を満たすことが難しい。


おわりに

今回のクライアントさんには、発生主義への移行と、過去の処理の見直しについてご説明差し上げました。最初は少し戸惑われていましたが、「売掛金という概念で考えると分かりやすいですよ」とお話ししたら、「あ、なるほど、確かにそれは記録しておかないとまずいですね」と腑に落ちていただけて、こちらとしてもほっとしました。

会計の話というのは、どうしても「難しそう・めんどくさそう」という印象がつきまといますが、突き詰めると「会社で起きていることを正直に帳簿に書こう」というシンプルな話なんですよね。現金主義から発生主義への切り替えも、そういうシンプルな原則の話だとご理解いただければ幸いです。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。