業績が悪いと監査報酬は安くなる?実は逆なんです

先日、監査のお見積もりの依頼をくださった会社様とお電話でお話をしていたときのことです。

「今回、監査をお願いしないといけなくなった理由は、直近の本決算であまり業績が良くなくて、決算日の預金残高が少なかったからこうなっちゃったんです」

そう、業績の悪化している状況をお話しくださいました。

そして、続けてこうおっしゃったんです。

「だから監査報酬は安くしてください。安くなりますよね?」

お気持ち、とてもよく分かります。

業績が悪くて困っているときだからこそ、少しでもコストを抑えたい。当然のご要望ですよね。

ごめんなさい、実は逆なんです

でも、ごめんなさい。

結論から申し上げると、業績が悪化すると監査報酬は反対に高くなってしまいます。

「えっ、なんで?」

そう思われるのも無理はありません。

でも、これにはちゃんとした理由があるんです。

その理由を、少し説明させてください。

監査リスクアプローチという方法

監査にあたって、公認会計士は「監査リスクアプローチ」という方法で、監査証明を発行するまでの一連の業務を行います。

この監査リスクアプローチは、次のような考え方に基づいています。

監査リスク = 固有リスク × 統制リスク × 発見リスク

少し専門的な用語が並びましたね。一つずつ説明していきましょう。

まず「監査リスク」とは、監査人が財務諸表の重要な虚偽の表示を見逃して、誤った意見を形成してしまう可能性のことです。

監査人は、この監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められています。

そして、この監査リスクは、三つの要素で構成されています。

固有リスク

固有リスクとは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性のことです。

経営環境により影響を受ける種々のリスクや、特定の取引、記録及び財務諸表項目が本来有するリスクから成ります。

統制リスク

統制リスクとは、重要な虚偽表示が、企業の内部統制によって防止されない可能性のことです。

企業が適切な内部統制を整備・運用していれば、統制リスクは低く抑えられます。

逆に、内部統制が不十分だったり、うまく機能していなかったりすると、統制リスクは高くなります。

発見リスク

発見リスクとは、企業の内部統制によって防止されなかった重要な虚偽表示が、監査人が監査を実施しても発見されないリスクのことです。

監査人は、固有リスクと統制リスクを評価した結果に応じて、発見リスクの程度を決定し、監査手続を実施します。

業績悪化で固有リスクが高くなる

さて、ここからが本題です。

なぜ業績が悪化すると監査報酬が高くなるのか。

それは、業績が悪化すると「固有リスク」が高くなるからなんです。

一般的に、景気が悪くなったり、人材派遣業界が構造的に不況に陥ったり、あるいはその監査証明を欲しいとおっしゃる会社様が何らかの理由で業績が悪化すると、このリスクが高いということになります。

なぜでしょうか。

業績が悪化すると、経営者には様々なプレッシャーがかかります。

「なんとか良い数字を出したい」 「取引先や金融機関に心配をかけたくない」 「派遣業の許可を維持しなければならない」

こうしたプレッシャーが、意図的かどうかは別として、不適切な会計処理につながるリスクを高めてしまうのです。

これらの理由から、業績が悪化している会社では、財務諸表に虚偽の表示がなされるリスク、つまり固有リスクが高くなると評価されるのです。

リスクが高いと監査手続が増える

では、固有リスクが高いと評価されると、どうなるのでしょうか。

監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に保つため、発見リスクを十分に低く抑える必要があります。

そのためには、より多くの監査手続を実施しなければなりません。

具体的には、

  • 適切な能力のある人員を配置する
  • 監査時間を多めに確保する
  • さまざまな手続きを組み合わせて監査を実施する
  • より多くのサンプルをチェックする
  • より深く、詳細に検証する

といった対応が必要になります。

つまり、われわれ公認会計士は監査人として、一層たくさんの注意を払いながら監査することが必要になるんです。

だから監査報酬は上がる

監査手続が増えるということは、それだけ多くの時間と人的資源が必要になるということです。

結果として、監査報酬は上がるという関係になってしまうんです。

これは、決して監査法人や会計士が儲けようとしているわけではありません。

業績が悪化している会社の財務諸表に対して、適正な監査意見を表明するために、どうしても必要な手続なんです。

ご理解いただきたいこと

業績が厳しいときだからこそ、コストを抑えたい。

そのお気持ちは、本当によく分かります。

でも、だからこそ、しっかりとした監査が必要なんです。

監査報酬は、会社の信頼性を守るための、必要な投資だとお考えいただければと思います。

私たちができること

もちろん、私たちも無駄なコストをかけていただきたくはありません。

だからこそ、

  • 効率的な監査手続の実施
  • 会社様の状況に応じた柔軟な対応
  • 必要な監査手続の丁寧な説明

を心がけています。

また、監査を受ける前に、統制リスクを下げることができれば、監査手続を簡略化できる可能性もあります。

お見積もりの段階から、どうすればコストを抑えられるか、一緒に考えさせていただきます。

まとめ

業績が悪化すると、残念ながら監査報酬は高くなってしまいます。

でも、それは適正な監査を実施するために必要なことなんです。

監査に関するご質問やご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

お客様の状況に応じて、最適なご提案をさせていただきます。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。