労務管理は「総務の人がなんとかするやつ」ではなく、派遣会社の寿命を決める地味で重たい現実である
派遣会社をやっていると、どうしても経営者の関心は売上や稼働率や取引先の拡大に向かいます。まあ、それはそうです。会社というものは、数字が立たないとお話になりませんから。しかし、派遣事業の更新審査という、なんとも現実を見せつけてくる場面になると、華やかな営業トークより先に問われるものがあります。労務管理です。
この言葉を聞いた瞬間に、社内の空気が少しだけ重くなる会社は多いと思います。売上会議では元気な人ほど、労務管理の話になると急に目の焦点が遠くなる。だいたい「そのあたりは管理部でやってますので」と言い始める。しかし、残念ながら、労務管理というのは管理部の机の上だけで完結する話ではありません。派遣会社にとっては、事業そのものの骨組みです。ここが曲がっている会社は、どれだけ営業が元気でも、どこかで必ず軋みます。
派遣という仕事は、雇用しているのは派遣元、現場で指揮命令するのは派遣先、実際に働くのは派遣労働者、という、いかにも日本の制度設計が好きそうな三者関係で成り立っています。つまり、責任が分かれているようで、実は分かれきっていない。そのぶん、労務管理が雑だと、問題が起きたときに「それはどっちの責任ですか」という、不毛で乾いた会話が始まります。そして、だいたいその会話のあいだに一番困るのは、現場で働いている人です。
だから、更新審査で見られるのです。勤怠はきちんと管理されているか。労働時間は把握できているか。有休は付与されているか。休ませるべき人をちゃんと休ませているか。制度があるだけではなく、実際に回っているか。会社というのは、困ったことに、ルールを作るのは得意でも、回し続けるのはあまり得意ではありません。就業規則を立派に整えても、現場で「まあ今回は特例で」で崩れていく。そういう光景は珍しくないわけです。
勤怠管理など、その典型です。「うちはタイムカードありますから」と胸を張る会社もありますが、タイムカードがあることと、勤怠管理ができていることは別の話です。押し忘れ、まとめ打刻、なぜか毎日ぴったり同じ時刻、テレワークなのに異様に美しい出退勤記録。こういうものは、見ている人が見ればだいたい分かります。人間は機械ほど正確に生きていませんから、きれいすぎる勤怠は逆に少し怪しい。
しかも今どきは、昔のように全員が同じ場所で朝礼して、同じタイムレコーダーを押して働く世界でもありません。在宅勤務もあれば、シフト勤務もある。派遣先ごとに運用が違うことも珍しくない。だから、勤怠管理は「出勤簿あります」で終わらず、実際の働き方に合わせて設計しなければいけません。テレワークならテレワークで、どうやって始業終業を確認するのか。シフト勤務なら、予定と実績をどう突き合わせるのか。自己申告を使うなら、どうやって客観性を担保するのか。ここを曖昧にすると、後で全部が曖昧になります。勤怠が曖昧だと、残業代も曖昧になるし、有休管理も曖昧になる。会社経営において、曖昧はだいたい高くつきます。
労働時間管理もまた、経営者が「まあ大丈夫でしょう」と言いがちな分野です。しかし、この「まあ大丈夫でしょう」が危ない。36協定を結んでいるから安心、というのも、半分だけ正しい。協定は魔法の護符ではなく、守って初めて意味があるものです。上限を超えそうな働き方を見て見ぬふりして、あとで帳尻を合わせようとする。こういうのは、昔から日本企業が得意としてきた悪い器用さですが、行政も労働者も、もうそのへんには以前ほど寛容ではありません。
長時間労働というのは、会社によってはなぜか美談っぽく語られることがあります。「彼は頑張ってくれてまして」「この案件は踏ん張りどころなので」。聞こえは悪くないのですが、労務管理の文脈では、だいたい単なる管理不全です。もちろん、繁忙期はあります。急な対応もあります。世の中は教科書通りにはいきません。ただ、それを前提にしても、上限管理をし、偏りを見て、休ませるべきときに休ませる。そこを仕組みとして持っている会社と、担当者の根性に依存している会社では、数年後に体力差がはっきり出ます。人は消耗品ではありません。そう思っていない会社ほど、採用と離職の無限ループに入ります。
休暇管理になると、また少し別の意味で日本企業の本音が出ます。有休は制度としてはある、でも取りにくい。これは派遣会社に限らず、広く日本社会の古典芸能みたいなものです。しかし、更新審査の場面では、その古典芸能はまったく評価されません。有休を正しく付与しているか、取得状況を管理しているか、年5日の取得義務を守っているか。要は、会社が「休ませる責任」まで引き受けているかを見られます。
ここでよくあるのが、「本人が希望しなかったので」というやつです。便利な言葉ですね。すべてを本人のせいにできる。しかし、労務管理の世界では、その言い訳はあまり強くありません。会社には管理義務があります。与えるべき休暇を把握し、取得状況を見て、必要なら促す。人手不足だから、忙しいから、現場が嫌がるから。気持ちは分かりますが、気持ちでルールは消えません。会社というのは、自分の都合で法律を少し薄めて読めると思った瞬間から、だいたい危なくなります。
育児休業や介護休業の扱いもそうです。制度だけ置いてあっても、誰も使えないなら、それは社内報の飾りに近い。実際に申請できるのか、誰に相談すればいいのか、代替要員はどう考えるのか、復帰後の扱いはどうするのか。こうしたことを現実の運用として持っている会社は強いです。逆に、制度の説明をされるだけで相談者が申し訳なくなるような空気の会社は、たいてい別のところにも雑さが出ています。労務管理はつながっているので、ひとつの雑さは別の雑さを呼びます。
そして、派遣会社の労務管理で厄介なのは、派遣先との関係です。派遣先の現場で働いている以上、残業や休憩の実態はそちらの運用に左右されます。だからといって、「派遣先がそう言うので」で終わらせていいわけではない。雇用しているのは派遣元ですから、最終的に管理責任を問われるのはこちらです。この微妙な立場が、派遣事業の難しさでもあります。現場は見えにくい、でも責任は消えない。だからこそ、勤怠データの確認、派遣先との情報共有、異常値のチェック、苦情の吸い上げが必要になる。面倒ですが、面倒だからこそやる価値がある。面倒なことを後回しにした結果が、だいたいトラブルです。
更新審査で見られるのも、そういう基本動作です。出勤簿やタイムカードがあるか。残業時間は把握できているか。36協定の範囲で運用されているか。有休管理簿は整っているか。育児や介護の制度がきちんと周知されているか。つまり、「うちはちゃんとしています」という自己評価ではなく、「ちゃんとしていると分かる記録」があるかどうかです。会社の世界では、やったつもりはやっていないのとほぼ同じです。証拠がなければ、善意はだいたい空気になります。
不許可リスクのある会社にも、分かりやすい特徴があります。勤怠記録がない、あるいは信用できない。36協定を超える残業が当たり前。有休の付与や取得が曖昧。管理簿がない。制度はあるが周知されていない。つまり、日々の運営が「だいたいこんな感じ」で回っている会社です。勢いのある営業会社ほど、この罠にはまりやすい。売上が立っているうちは見えないのですが、更新や監査のように静かに照らされる場では、その“勢い”の陰にある雑さがよく見えます。
では、どうすればいいのか。答えは、案外つまらないほど基本的です。勤怠を客観的に記録する。労働時間の異常値を定期的に確認する。有休を個人ごとに管理する。制度変更があれば規程を直し、現場に周知する。内部監査で形骸化を防ぐ。問題が出たら、その場しのぎで終わらせず、仕組みに戻して直す。こういうことを地道に続けるしかありません。派遣会社にとって労務管理は、劇的な成長戦略ではないですが、倒れないための足腰です。足腰が弱い会社は、派手な上半身だけ鍛えても、だいたい転びます。
結局のところ、労務管理は「従業員を守るため」だけの話ではありません。もちろんそれが第一ですが、同時に、会社が会社として信用されるための最低限の作法でもあります。働いた時間を把握する。休む権利を守る。長時間労働を放置しない。制度をつくるだけでなく、使えるようにする。書くと当たり前すぎて眠くなりそうですが、その当たり前を回せる会社は、実はかなり強いのです。
派遣事業の更新審査が見ているのも、そこです。立派な理念や元気な営業資料ではなく、日々の労務管理がどれだけ地味に、真面目に回っているか。会社の本当の実力は、だいたいそういう、誰も拍手しない部分に出ます。労務管理とは、目立たないくせに最後に全部を決める、そういう種類の仕事なのだと思います。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。




