内部監査は「やったことにする儀式」ではない、という派遣会社の少し耳の痛い話
派遣事業の更新審査というものは、会社に対してなかなか容赦がありません。資産要件を満たしているか、責任者がいるか、必要書類があるか。そういう分かりやすい項目ももちろん見られます。けれど、本当に会社の地力が出るのは、もっと地味で、もっと逃げづらいところです。内部監査です。
内部監査と聞くと、だいたい二種類の反応があります。ひとつは「うちは毎年やってます」という、少し誇らしげな返事。もうひとつは「いや、そこまで大げさな会社じゃないので」という、妙に控えめな逃げです。ですが、どちらも少し危ない。前者は“やったこと”で満足している可能性があり、後者は“やらない理由”を丁寧に言い換えているだけかもしれないからです。
派遣会社にとって内部監査は、立派な言葉で飾るものではなく、自分の会社が本当に法令どおり回っているかを確認する、たいへん現実的な作業です。もっと雑に言えば、「うちはちゃんとしている」と思い込んでいる部分を、一回冷たい目で見直す作業です。会社というのは不思議なもので、毎日回っていると、それだけで正しい気がしてきます。毎月請求書が出て、スタッフが働いて、派遣先からクレームが少なければ、「まあ大丈夫だろう」と思う。しかし、その“まあ大丈夫”がいちばん危ない。更新審査は、その気分のよさを剥がしてきます。
内部監査の役割は単純です。問題を見つけること。しかも、外から怒られる前に、自分で見つけることです。契約書の文言が古い。労働条件通知書に抜けがある。賃金台帳はあるが、勤怠との突合が甘い。就業規則を改定したつもりが、現場では古い運用のまま。派遣元責任者は選任しているが、講習受講歴の確認が雑。教育訓練はやっているが、記録が足りない。こういう話は、派手さはありませんが、積み重なるときっちり会社を傷めます。会社が壊れるのは、大事件のせいばかりではありません。小さな見落としを、長年“だいたい大丈夫”で済ませた結果でも壊れます。
ところが、内部監査というと、なぜか「悪いところ探し」と受け取る人がいます。現場も嫌がるし、管理部門も面倒がるし、経営者もできれば景気のいい話をしていたい。気持ちはよく分かります。でも、内部監査は犯人探しではありません。むしろ逆で、会社を個人の責任論から救うための仕組みです。誰かひとりが悪い、で終わらせると、同じことがまた起きます。大事なのは、どの工程が甘かったのか、どの記録が抜けやすいのか、どの承認フローが形だけなのかを見つけることです。人を責めるより、仕組みを直す。そのほうが会社は長生きします。
派遣事業の内部監査で見ておくべきものは、だいたい決まっています。雇用契約書や労働条件通知書が現行ルールに合っているか。賃金台帳や労働者名簿は整っているか。勤怠と給与計算のつながりは自然か。年次有給休暇の管理に無理がないか。派遣元管理台帳はきちんと作られ、保存されているか。教育訓練やキャリア形成支援は、計画だけでなく実施記録まで揃っているか。責任者体制は機能しているか。資産要件は今も安定しているか。つまり、「書類があるか」だけでなく、「運用として成立しているか」を見なければ意味がありません。
ここでよくある悲しい話が、チェックリストに全部丸をつけて終わる、というやつです。人は丸をつけると安心しますからね。小学生のラジオ体操カード以来の伝統です。しかし、内部監査で必要なのは達成感ではなく、違和感です。本当に適合しているのか、記録は残っているのか、運用は現場まで降りているのか。同じ項目に毎年同じ指摘が出ていないか。ここを見ない監査は、健康診断を受けて、結果を見ずに帰るのとあまり変わりません。受けたことより、異常値にどう向き合うかのほうが大事です。
また、内部監査はタイミングも重要です。更新直前に慌てて点検する会社がありますが、だいたい遅い。もちろん、直前確認も必要です。ただ、本当に意味があるのは、日常の運営の中で定期的に点検し、修正し、また見直すことです。年に一回でもいいから、計画を立てて、重点項目を決めて、更新の半年前には少し厳しめに洗う。そうして問題を潰していく。更新申請の一か月前になってから「この様式、去年のままでしたね」と言い出すのは、試験前日に教科書を開くようなもので、ゼロよりはマシですが、根本的には準備の負けです。
記録管理も、内部監査では避けて通れません。会社というのは、「やりました」と言うのは簡単ですが、「やった証拠を見せてください」と言われた途端に静かになることがあります。内部監査の記録も同じです。いつ、誰が、何を点検し、何が適合で、何が不適合で、どんな改善策を、誰が、いつまでにやるのか。ここまで残して初めて意味があります。抽象的に「今後注意する」では、何もしていないのとほぼ同じです。会社の改善で大事なのは、“気をつけます”ではなく“誰が直すか”です。
そしてさらに大事なのは、改善結果の確認です。指摘しただけで満足する監査は、だいたい趣味です。実務ではありません。不備が見つかったら、直したかどうかを見る。直したつもりで終わっていないかを見る。似た問題が別の部署に広がっていないかも見る。ここまでやって初めて、再発防止になります。再発防止という言葉は便利で、会議資料にはよく出てきますが、本当に再発を防いでいる会社は、意外と少ない。なぜなら、再発防止は気合いではなく、手順変更と記録保存と周知徹底の三点セットだからです。どれも地味で、拍手が起きません。
内部監査が形骸化している会社には、共通の空気があります。監査する側もされる側も、本気で何かを見つけるつもりがない。問題が出ると面倒なので、ほどほどに済ませたい。指摘が出ても、来年また同じことを書く。これはもう、会社の中で“見ない技術”が完成している状態です。恐ろしいですね。見ない技術は短期的には平和をもたらしますが、長期的にはだいたい高くつきます。行政指導でも、更新審査でも、取引先の信頼でも、最後にまとめて請求が来るからです。
派遣事業において内部監査が重要なのは、単に更新審査のためではありません。自社がいまどの程度まともに動いているのかを、経営が把握するためです。営業は売上を見ます。現場は日々の運用を見ます。管理部は書類を見ます。でも、内部監査は、その全部のズレを見ることができる。つまり、会社の“都合のいい自己評価”を少し壊してくれる貴重な仕組みなのです。こういう役割は、嫌われがちですが、本当はありがたい。耳の痛いことを社内で言ってくれる仕組みがある会社は、外で大きく叱られる前に立ち直れます。
結局、内部監査というのは、会社の性格が一番よく出る仕事です。見つけた不備を隠したくなる会社なのか、直す材料にできる会社なのか。書類を揃えて安心する会社なのか、運用まで見にいく会社なのか。更新審査で問われているのも、実はそこです。完璧な会社である必要はありません。でも、問題を自分で発見し、記録し、直し、再発を防ぐ会社であることは求められる。
内部監査は、派手な成長戦略ではありません。売上もすぐには増えません。社内で人気も出ません。けれど、こういう地味な仕組みを真面目に回している会社ほど、結果として強い。更新審査に通るだけでなく、日常の事故にも強い。つまり、内部監査とは、会社が自分に対してまだ正直でいられるかを試す、かなり本質的な作業なのだと思います。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。




