人材派遣会社の監査計画が崩れる理由――監査計画の策定2が求める情報収集の勘所
人材派遣会社の監査対応をされている方の中には、「監査は結局、残高確認と証憑突合でしょう」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは監査側でも、「前年踏襲で監査計画を作って、期末に必要な手続を積み増せばよい」と考えたくなる瞬間があるかもしれません。
結論から申し上げると、監査計画の策定 2 は、監査証明の品質を左右する前提作業を、監査計画の中核に置けと言っています。景気の動向、業界の状況、会社の事業内容と組織、経営理念・経営方針、内部統制、情報技術など、企業の経営活動に関わる情報を入手して、企業および企業環境に内在する事業上のリスク等が、財務諸表に重要な虚偽表示をもたらす可能性を踏まえて監査計画を組み立てることが求められます。
監査証明は財務諸表の数字に対する意見ですが、その数字がどういう環境で生まれ、どういう圧力や制約の中で作られているかを知らずに、適切な監査証明に到達することは難しい、という発想です。
本稿では、監査基準第三 実施基準 二 監査計画の策定 2 を、人材派遣会社の現場に引きつけて、何を情報として集め、どうリスク評価に落とし、どう監査計画へ反映するかを段階的に説明します。あわせて、会話例とケーススタディを入れ、実務でありがちな誤解も整理します。
監査計画の策定 2 が要求する情報収集――何を見れば「会社を知った」ことになるのか
監査計画の策定 2 が列挙している情報は、単なる一般論ではありません。監査リスクを見積もる材料の一覧です。専門用語を初出として整理すると、ここで言う事業上のリスクとは、企業の戦略・ビジネスモデル・外部環境・内部の運用が原因で、将来の収益や資金繰り、組織運営に影響が出るリスクです。平たく言えば、事業としてつまずく要因です。
そして重要なのは、その事業上のリスクが、財務諸表に重要な虚偽表示をもたらす可能性を考慮せよ、という点です。つまり、経営上の問題を、会計の誤りや不正の温床として翻訳する作業が求められます。
監査計画の策定 2 が明示する情報を、実務の観点で言い換えると次のようになります。
景気の動向
派遣先の生産・採用計画が縮むか、単価交渉が厳しくなるか、稼働率が落ちるか。結果として売上計上や売掛金回収に歪みが出ないか。
業界の状況
派遣法対応、同一労働同一賃金、需給バランス、競争激化。これが収益認識や見積り(有給、未払、引当)に影響しないか。
事業内容および組織
拠点分散、請負・紹介予定派遣の混在、子会社や関連会社の有無。計上単位や内部取引、権限と承認の流れに不備が出ないか。
経営理念・経営方針
急成長方針か、M&Aで拡大か、赤字でもシェア重視か。目標達成圧力が売上の前倒し計上や架空計上に結びつかないか。
内部統制の整備状況
勤怠承認、請求、入金消込、マスタ変更、アクセス権限、例外処理。統制が弱い領域は監査計画で厚くする必要がある。
情報技術の利用状況
勤怠システム、請求システム、会計システム、RPA、データ連携。システムの変更や運用の穴が虚偽表示の入口にならないか。
このように、監査計画の策定 2 は、会社の環境理解を、監査手続の設計図に変換せよ、という要請です。
人材派遣会社で効いてくる外部環境――景気と業界は売上の形を変える
人材派遣会社は外部環境の影響が強い業種です。だからこそ、景気の動向や業界の状況は、監査計画に直結します。
たとえば景気後退局面では、派遣先が稼働調整を行い、残業が減り、契約更新が短期化します。このときに起こりやすいのは、期末に売上を確保したいという圧力です。具体的には、稼働時間の見積り計上、検収未了のまま請求、期ズレの押し込みなどが増えます。
逆に景気拡大局面では、派遣スタッフの確保がボトルネックになり、採用費が膨らみます。採用費の処理、広告宣伝費の期間配分、紹介料の会計処理など、見積りや期間帰属の論点が増えます。
業界面では、派遣法や労務コンプライアンスの問題が、財務に波及します。たとえば未払賃金の発生や、是正に伴う追加コスト、行政対応コストは、引当や未払の論点になります。監査計画の策定 2 は、この種の外部環境情報を、内部統制や会計処理の歪みとして監査計画に落とせ、という趣旨でもあります。
企業の事業内容・組織・経営方針――リスク評価の材料は「社内の動き」に埋まっています
監査計画の策定 2 が「事業内容及び組織、経営者の経営理念、経営方針」を入れているのは、監査の失敗原因がここに集中するからです。
人材派遣会社で典型的に効くのは、次のような変化です。
新規拠点の開設
現場運用が未成熟になり、勤怠承認や請求が例外だらけになる。
事業ミックスの変化
請負や紹介予定派遣が増えると、収益認識の基準や売上計上タイミングが変わる。
M&Aやグループ化
会計システムが統合されていない、内部取引の消去が不完全、管理指標が混在する。
急成長方針
KPI達成圧力が上がり、売上の前倒し計上や、回収懸念の先送りが増える。
ここで大事なのは、これらが「経営の話」で終わらず、「重要な虚偽表示のリスク」に直結するという点です。監査人は、経営方針の変化を聞いた時点で、監査手続の変更を計画に織り込む必要があります。そうでなければ、監査証明の根拠が薄くなります。
ケーススタディ――人材派遣会社での監査計画の作り直し
登場人物
人材派遣会社R社:年商70億円、拠点15、派遣スタッフ約2,500名
社長:S氏
管理本部長:T氏
監査人:U公認会計士
監査チーム:マネージャーV氏、スタッフW氏
R社は今期、「物流領域への集中」と「拠点拡大」を経営方針に掲げ、拠点を3つ増やし、勤怠システムもクラウド型に切り替えました。期首の計画会議で、監査側は前年踏襲ベースの計画案を持参しました。
U公認会計士
「今年も前年と同様の監査計画で、期中と期末を進める前提で考えています。」
T管理本部長
「実は今年、勤怠システムを入れ替えました。新拠点も増えています。」
Vマネージャー
「システム入替は、売上計上の起点データが変わる可能性があります。アクセス権限の設定や、例外処理の運用はどうなっていますか。」
T管理本部長
「現場の責任者に権限を広めに渡しています。立ち上げ優先なので、細かい統制はこれからです。」
U公認会計士
「それなら、監査計画を作り直します。収益認識と勤怠データの統制評価を重点領域に上げ、IT面の確認も入れます。監査証明の根拠として、勤怠データの信頼性が欠けると致命的です。」
S社長
「監査って、そこまでシステムも見るんですか。数字を見れば足りるのでは。」
U公認会計士
「数字はシステムと運用から生まれます。会社の環境理解を抜きに数字だけ見ると、重要な虚偽表示の見落としにつながります。監査計画の策定 2 は、その点を明確に要求しています。」
このように、監査計画の策定 2 は、会社の変化を聞き流さず、監査計画の重点を動かせ、と要求しています。人材派遣会社は特に、勤怠データと売上が直結するため、情報技術の変更は計画の前提を崩します。
内部統制と情報技術――監査計画の策定 2 が現場で最も効くところ
内部統制とは、会社が業務を適正に行い、財務報告の信頼性を確保するための仕組みです。平易に言えば、ミスや不正を防ぐ社内のルールと運用です。
情報技術の利用状況は、この内部統制の実体を大きく左右します。人材派遣会社では、特に次の点が監査計画に直結します。
勤怠データの入力・修正権限
誰が修正できるか、修正履歴は残るか、承認が必要か。
単価マスタの変更統制
単価の変更が売上に直結するため、承認とログが重要。
請求と入金消込の連動
消込の例外処理が多いと、売掛金の網羅性と評価に影響する。
拠点ごとの例外運用
同じシステムでも運用がばらつくと、統制リスクが上がる。
監査計画の策定 2 の要求は、これらを情報として集め、重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、その結果を監査計画に反映する、という流れです。
監査計画の策定 2 と基本原則1の関係――計画はリスクアプローチの実装です
ご指定に合わせて整理します。監査計画の策定 2 は、基本原則1のリスクアプローチを、会社理解という入力情報で支える位置づけです。基本原則1で言うリスク評価や発見リスクの水準設定は、企業および企業環境の理解がなければ成立しません。
言い換えると、監査計画の策定 2 は、基本原則1を形式で終わらせないための実務装置です。ここが薄い監査計画は、監査証拠の集め方がズレやすく、監査証明の根拠が弱くなります。
当事務所のスタンス――人材派遣会社の監査計画で最初に集める情報
当事務所では、監査計画の策定 2 を踏まえ、人材派遣会社の監査計画で特に次の情報を早期に集めます。
景気・派遣先の状況:主要派遣先の稼働計画、契約縮小、入金遅延の兆候
業界要因:法改正対応、同一労働同一賃金の運用、行政指導の有無
事業と組織:拠点増減、請負や紹介予定派遣の比率、グループ会社の取引
経営方針:成長目標、KPI、採用計画、単価戦略
内部統制:勤怠承認、単価変更、請求・入金、例外処理、監査役等との連携
情報技術:システム変更、権限設計、ログ、インターフェース、データ品質
この情報を基に、重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、監査計画の重点、監査手続の性質・時期・範囲を決めていきます。監査証明の品質は、この時点でかなり決まります。
まとめ――監査計画の策定 2 は、会社の現実を監査計画に写し取る規律です
監査基準第三 実施基準 二 監査計画の策定 2 は、監査計画を机上の前年踏襲にせず、景気・業界・会社の事業と組織・経営方針・内部統制・情報技術といった情報を入手し、企業および企業環境に内在する事業上のリスク等が財務諸表に重要な虚偽表示をもたらす可能性を踏まえて、監査計画を作れと求めています。
人材派遣会社では、勤怠データと売上、拠点分散、システム依存、労務コストと見積りが絡み合うため、会社理解が浅い監査計画は高い確率で破綻します。逆に、会社理解を丁寧に行い、リスクを適切に暫定評価して計画に反映できれば、監査は効果的かつ効率的になり、監査証明の信頼性も高まります。
お問い合わせ
預金不足の解決策、純資産不足の解決策、合意された手続、監査のお問い合わせなどお気軽にお問い合わせください。
投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
最新の投稿
お知らせ2026年1月21日労働者派遣事業許可申請:財産的基礎の要件クリアへの道筋 – 3つの選択肢と最適解
お知らせ2026年1月5日労働者派遣事業許可申請における「監査」と「合意された手続」の違いを徹底解説
お知らせ2026年1月5日労働者派遣事業を始めるには? 許可取得の三大ハードルと成功への道
お知らせ2025年12月23日合意された手続の報酬が気になる前に、まず顧問税理士に確認すべきこと

