派遣業の更新で問われるハラスメント防止体制とは、つまり「うちは相談できます」で済ませる会社から落ちていくという話
派遣会社の更新審査というと、どうしても資産要件とか帳簿とか、いかにも“数字が揃っていれば人類は救われる”みたいな話に意識が向きがちです。もちろん大事です。大事なんですが、そこで安心している会社ほど、別のところで見事に足をすくわれます。何かというと、ハラスメント防止体制です。
この手の話になると、経営側はだいたい二つの反応を示します。「うちはそんな変な会社じゃないです」と言う人と、「一応、窓口はあります」と言う人です。前者は願望、後者は書類の話であって、どちらも審査する側からするとあまり心が動きません。労働局が見ているのは、“起きないと信じているか”ではなく、“起きたときに本当に対処できるか”だからです。
派遣という仕組みは、ただでさえ立場が繊細です。雇用しているのは派遣元、日々の指揮命令は派遣先、そして実際に困るのは現場にいる派遣労働者です。責任の線引きが曖昧なままトラブルが起きると、驚くほどきれいに「それはどっちが対応するんでしたっけ」という不毛な会話が始まります。そのあいだに当事者は消耗し、会社の信用は削れ、最後に“適正な運営ができていない”という、たいへん痛い評価だけが残るわけです。実に効率が悪い。
だからこそ、更新審査で問われるのは、ハラスメントを防ぐ仕組みが本当に機能しているかです。相談窓口があるか。しかも、ただ電話番号を書いて壁に貼ってあるだけではなく、誰が担当し、どう連絡でき、どこまで匿名で受けられ、緊急時には誰につながるのかが明確か。社内窓口だけでなく、必要に応じて外部の専門家とも連携できるか。相談した人が不利益を受けないルールが定められているか。記録が残り、再発防止にまでつながっているか。そこまで見られます。
ここでよくあるのが、「相談窓口、ありますよ。総務です」というやつです。総務の誰なのかは不明、受付時間も不明、メールしたら誰が読むのかも不明、しかも相談した結果が上司に筒抜けになるのかどうかも不明。これでは相談窓口ではなく、ただの心理的ハードルの高い入口です。窓口というのは、存在することより、使えることのほうが大事です。当たり前の話ですが、当たり前はたいてい放置されます。
本来、ハラスメント防止体制で必要なのは、まず受付ルートを複線化することです。電話、メール、面談など複数の方法を用意し、担当者名、連絡方法、受付時間、緊急時の対応先を明示する。匿名相談の可否もはっきりさせる。そして相談が入ったら、感情で「そんなつもりじゃなかったと思いますよ」などと火に油を注ぐのではなく、日時、内容、関係者、発生場所、緊急度を記録し、初動対応に入る。被害者保護が必要ならすぐ動く。派遣先との連絡が必要なら、誰がどのルートで知らせるかを決めておく。必要に応じて労働局、顧問、保険会社などへの連絡も遅らせない。このへんを曖昧にしている会社ほど、後で“対応が遅れたこと”そのものが問題になります。
さらに厄介なのは、ハラスメントというのは“窓口設置で終わる施策”ではないことです。むしろ窓口はスタート地点です。相談が来たあと、事実確認をどう進めるか、当事者双方への聞き取りをどう分けるか、派遣先とどう連携するか、配置転換や就業上の配慮をどう判断するか、結論が出たあとに再発防止策をどう共有するか。ここまで運用が設計されていて、ようやく「体制がある」と言えます。
そして、記録です。記録は地味ですが、会社の品格はだいたいここに出ます。相談記録がない、あってもメモが雑、対応経緯が追えない、結論だけが口頭で処理されている。こうなると、会社の中では「対応したこと」になっていても、外から見れば「何も証明できない会社」です。更新審査で苦しくなるのは当然です。やったつもりは、行政にはあまり通用しません。世の中、気持ちより記録です。
また、ハラスメント防止は教育訓練とセットでなければ機能しません。管理職向けには、何がパワハラ・セクハラ・マタハラに当たりうるのか、指導との違いはどこか、問題が起きたときに自分の判断で握りつぶさず、どこへつなぐべきかを教える必要があります。現場の派遣労働者にも、相談できること、相談して不利益を受けないこと、困ったときの窓口がどこかを周知しなければなりません。「研修はやりました」と言いながら、受講者も内容も記録も曖昧な会社がありますが、それは研修というより、雰囲気です。雰囲気では人は守れません。
派遣先との連携も重要です。派遣労働者に対するハラスメントは、派遣元だけで完結しないことが多い。だからこそ、派遣先との間で、誰が一次連絡窓口か、誰が事実確認を担当するか、回答期限はどうするか、再発防止策をどちらがどう実施するかを決めておく必要があります。合同の安全衛生委員会や定期協議の場があるなら、そこで相談しやすい環境づくりや再発防止の確認まで回していけると強い。要するに、“何かあったら相談しましょう”ではなく、“何かあったらこう動きます”にしておくことです。
更新審査で見られるポイントも、実にまっとうです。相談窓口が設置されているか。周知されているか。担当者や手順が明確か。相談記録があるか。研修記録があるか。問題発生後に是正と再発防止が行われているか。同じ問題を繰り返していないか。つまり、「制度があります」ではなく、「制度が動いています」を示せるかどうかです。
不許可リスクが高い会社には共通点があります。窓口はあるが誰も知らない。相談は受けたが記録がない。派遣先への連絡が遅い。対応が担当者の善意任せ。研修は年に一回やったことになっているが内容不明。問題が再発しても“本人同士で話し合いました”で済ませる。これを防止体制と呼ぶのは、さすがに言葉がかわいそうです。
ではどう整えるべきか。答えは意外と地味です。まず、相談窓口を明確にする。担当者、連絡方法、受付時間、匿名相談の可否、緊急連絡先を定める。次に、相談受付から調査、被害者保護、派遣先連携、結論、再発防止までの手順をマニュアル化する。相談者への不利益取扱い禁止を社内に明言する。相談内容は必要最小限の範囲で共有し、個人情報は厳格に管理する。相談記録、対応記録、研修記録を残す。定期的に見直し、年に一度は運用をレビューする。必要なら規程や契約も改訂する。やることは多いですが、どれも“会社として当たり前に人を守る”ための話です。
結局のところ、ハラスメント防止体制は、会社の良心を測るための飾りではありません。現場で働く人が、困ったときに声を上げられ、その声が雑に扱われず、会社が責任を持って動けるかを問う仕組みです。派遣業の更新審査でこれが重く見られるのは、嫌がらせ対策が流行だからではなく、そこに会社の運営の本質が出るからです。
帳簿は整っている、資産も足りている、更新書類も揃っている。なのに、相談窓口は形だけ、対応は場当たり、記録はなし。これでは、立派な建物に非常口がないようなものです。平時は問題なく見える。でも、いざというときに人が逃げられない。そういう会社を、更新審査が歓迎しないのは、むしろ当然でしょう。
派遣会社に必要なのは、“うちは大丈夫”という根拠のない自信ではなく、“問題が起きてもこう守る”という仕組みです。ハラスメント防止体制とは、会社の優しさの話ではありません。運営能力の話です。そして更新審査は、その能力を案外よく見ています。世の中、見られていないようで、ちゃんと見られている。嫌ですね。でも、そのくらいでちょうどいいのかもしれません。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。



