MRFは現金じゃない?派遣許可更新で起きた「うっかり」の悲劇
「うちは大丈夫。銀行残高も十分だし、資産要件は問題なくクリアできるはず」
労働者派遣事業の許可更新を控えた経営者の多くは、このように考えていらっしゃいます。しかし、その「十分な残高」は、本当に「現金預金」として認められるでしょうか?
今回は、私たちが実際に目の当たりにした、ある人材派遣会社様が許可更新で陥ってしまった「うっかり」についてお話しします。これは、資金管理を証券会社で行っている企業様にとって、決して他人事ではありません。
派遣許可の生命線「現金預金1,500万円」要件
まず、労働者派遣事業の許可を維持するためにクリアすべき財産的基礎の要件を再確認しましょう。
- 基準資産額(資産-負債)が2,000万円以上
- 基準資産額が負債総額の7分の1以上
- 自己名義の現金・預金の額が1,500万円以上(自己名義の現金・預金の額が1,500万円と表現されています)
特に重要なのが3番目の「現金・預金1,500万円」の要件です。これは、万が一の事態に備え、すぐに支払いに充てられる流動性の高い資金を確保しておくことを目的としています。
ある派遣会社の悲劇 - 証券口座の残高が認められなかった話
A社は、長年労働者派遣事業を営んできた優良企業。数年に一度の許可更新の時期が近づいていました。経営者のB社長は、財務状況に自信を持っていました。
「会社のメインバンクの残高は1,000万円ほどだが、取引のある証券会社の口座に2,000万円以上ある。合計で3,000万円以上だ。財産的基礎の要件は余裕でクリアできる。」
B社長は、顧問税理士に決算作業を依頼し、決算の承認と税務申告を終えました。しかし、顧問税理士が更新申請の直前になって貸借対照表(B/S)をあらためて確認したところ、ある重大な問題点に気づきました。
貸借対照表(B/S)の勘定科目
- 現金及び預金:1,000万円
- 有価証券:2,000万円
B社長が「現金と同じ」だと考えていた証券口座の2,000万円は、貸借対照表上「有価証券」として計上されていたのです。
このままでは、現金預金要件である1,500万円に500万円も足りず、許可更新の申請ができません。
「えっ、どうして!?証券口座のお金は、いつでも引き出せる現金そのものじゃないか!」
B社長は驚きを隠せません。実は、B社長が利用していた証券口座では、預け入れた資金が自動的にMRF(マネー・リザーブ・ファンド)という金融商品で運用される設定になっていたのです。
なぜ? MRFが現金預金と認められない理由
MRFとは、主に安全性の高い公社債などで運用される投資信託の一種です。証券口座内で使途のない資金(待機資金)を、1円単位で自動的に買い付け、わずかですが利息を生んでくれる便利な仕組みです。解約手数料やペナルティもなく、いつでも現金化できるため、多くの人が現金とほぼ同じものという感覚で利用しています。
しかし、顧問税理士の先生がおっしゃるには、会計上、MRFは「現金及び預金」ではありません、とのこと。
- 感覚的な理解:いつでも引き出せる=現金と同じ
- 会計上の表示:投資信託の一種=有価証券
顧問税理士の先生がおっしゃるには、許可要件の判定を貸借対照表の勘定科目に基づいて行うならば、いくら実質的に現金同等物であっても、勘定科目が「現金及び預金」でなければ、要件を満たしているとはいえない、と。
悲劇の結末と、高くついたリカバリーコスト
この「うっかり」は、A社に大きな負担を強いることになりました。
決算日時点で要件を満たしていなかったと自社で判断なさったため、通常の決算書を添付しての更新申請はなさらないことに。もし決算日前にMRFを解約し、銀行の普通預金口座に2,000万円を振り替えていれば、何の問題もなく更新申請なさったはずでした。
許可の有効期限が迫る中、A社は急いで以下の対応を取らざるを得ませんでした。
- 証券会社に連絡し、MRFを解約して銀行口座へ資金を移動。
- 資金移動後の月次決算書を作成。
- その月次決算書が適正であることを証明するために、公認会計士事務所が合意された手続を実施。
- その手続実施結果報告書を添付して、なんとか更新申請にこぎつける。
結果として、A社は許可を失効する最悪の事態は免れましたが、本来であれば不要だった余計な手間、時間、そして追加の費用という、非常に高くついた「授業料」を支払うことになってしまったのです。
あなたの会社は大丈夫? 今すぐ確認すべきこと
このA社の悲劇は、決して他人事ではありません。もしあなたの会社が資金の一部を証券口座で管理しているなら、今すぐ確認してください。
- その資金は、MRFやMMF(マネー・マネージメント・ファンド)などで運用されていませんか?
- 決算書上で「有価証券」として計上されていませんか?
労働者派遣事業の許可申請や更新が近い場合は、必ず決算日を迎える前に、現金及び預金の残高がいくらになるかを推計しましょう。そして、もし、A社のようにMRF等を解約するのであれば、決算日前に解約し、「現金及び預金」の勘定に1,500万円以上の残高が計上されるように、銀行の普通預金口座などへ資金を移動させておきましょう。
たったこれだけのことで、A社のような事務の混乱は防げます。
「うちの財務状況で更新できるか見てほしい」、「資金管理の方法について相談したい」など、少しでも不安な点がございましたら、手遅れになる前に、ぜひ一度私たち専門家にご相談ください。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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