テクノプロ・ホールディングスの有報に見る、「育てて残す」ための環境整備

人材派遣業では、つい「採れた人をどう回すか」に意識が寄りがちです。現場は忙しいですし、稼働率も請求額も待ってくれません。とはいえ、テクノプロ・ホールディングスの有価証券報告書を読むと、同社が本気で見ているのは、採った後にどう育てるか、そしてどう残ってもらうかです。報告書では、技術者のキャリア形成を支援しつつ顧客へ配属することで、顧客のニーズに安定的に応え、高稼働率を維持しているとしています。派遣会社の経営を「人員供給の回転数」だけで説明しないあたり、さすが大手というより、そこを外すと人材会社はだいたいしんどくなる、というだけの話でもあります。派遣は配属して終わりではなく、配属を通じてキャリアをつくる商売だと腹をくくっていることが、記載の端々から見えてきます。

教育研修の面でも、同社は「やっています感」ではなく、ある程度の規模と指標で語っています。報告書では、技術系教育研修について、ピーシーアシスト株式会社が運営する国内43ヶ所のWinスクール等において、グループ内外向けにIT・CAD等の技術教育研修サービスを提供していると記載しています。さらに、人的資本KPIとして、2025年6月期の研修受講者数は30.1万人、受講時間は88万時間と開示しています。ここで重要なのは、研修を福利厚生の飾り棚に置かず、事業の基盤として置いている点です。教育は大事ですと言う会社は多いのですが、本当に大事だと思っている会社は、だいたい受講者数と時間を追っています。愛は言葉より工数、という身もふたもない現実があるわけです。

しかもこの教育投資は、単なる親切ではありません。報告書では、人材育成への積極投資により、技術者の技術力を磨き、有能な技術者を創出することで、技術者の市場価値向上を実現し、技術者の働きがいと満足度向上を追求すると明記しています。さらに、技術スキルを可視化し、ギャップ分析を行い、リスキリングを進めて効果測定するタレントマネジメントの仕組みを、同社グループのコアコンピタンスの一つと位置づけています。ここが肝です。育成とは、いい話をして終わることではなく、どのスキルが足りず、どこを伸ばし、結果としてどの案件に行けるようになったかまで管理することです。派遣会社にとって研修がコストで終わるか、単価と定着につながる投資になるかは、この「見える化」と「配属との接続」があるかどうかでだいぶ変わります。

そして、育てるだけでは人は残りません。報告書で面白いのは、定着をかなり正面から扱っている点です。従業員エンゲージメントを高めるための取組みとして、デジタル接点とリアル接点を通じて、パーパス、価値観、行動指針の浸透を進めていること、また従業員満足度アンケートを実施し、各種施策へフィードバックしていることが記載されています。人的資本KPIでも、「働きがいと従業員満足度の追求」を掲げ、従業員満足度指数の目標を90.0%以上、2025年6月期実績を技術系84.9%、管理系86.5%と示しています。人が辞める理由を、根性論でも世代論でもなく、測って改善する対象として扱っているわけです。昭和の気合い一本打法に慣れた人からすると、少し眩しいかもしれませんが、眩しいくらいでちょうどいいのかもしれません。

離職防止策についても、報告書の記載はかなり具体的です。退職率悪化の抑制策として、AIエンジン搭載の退職予測システムによる退職リスクの高い技術者の早期特定、新たに配置した面談専任者による技術者の希望や不満の早期ヒアリングを実施しているとしています。また、毎年従業員満足度調査を実施し、その結果をもとに処遇改善施策を進め、退職率の低減に努めているとの記載もあります。ここまで来ると、定着は「辞めないよう祈る」ものではなく、「辞めそうな兆候を拾い、対話し、処遇に反映する」実務だということがよく分かります。人が辞めるのは仕方ない、で済ませる会社と、人が辞める前に兆候を拾う会社では、数年後の採用単価も営業利益も、まあそれなりに差がつくよね、という身も蓋もない話です。

採用についても、同社は育成と一体で考えています。報告書では、高い採用基準を維持しながら、育成前提の未経験者採用を本格化しているほか、従業員のリファーラルによる高スキル技術者の採用、対象国を拡げたグローバル外国籍採用を積極的に推進していると記載されています。つまり、最初から完成品だけを市場で奪い合うのではなく、未経験者を含めた供給源を広げつつ、入社後の育成で戦力化する設計です。採用難の時代に、経験者だけを追い続けると、採れない、単価が上がる、定着しないの三重苦になりやすい。そこで、採用基準を守りながらも育成前提の採用に舵を切る。この発想は、中小の派遣会社にとってもかなり実務的です。最初から全部できる人を待っているうちに、会社のほうが先に疲れてしまいますからね。

なお、従業員数については、2025年6月30日現在の連結合計が30,649人で、R&Dアウトソーシング事業24,508人、施工管理アウトソーシング事業2,973人、国内その他事業318人、海外事業2,131人、全社共通719人と開示されています。一方、平均勤続年数と平均年間給与について有価証券報告書で確認できるのは提出会社単体の数値であり、従業員数186人、平均年齢45.0歳、平均勤続年数15.3年、平均年間給与6,385千円です。したがって、「3万人規模で平均勤続年数6.6年、平均年間給与約515万円」といった表現は、この有価証券報告書からは確認できません。ここはブログ記事でも、連結の人数と提出会社単体の給与・勤続年数を混ぜないようにしたほうが安全です。会計の世界では、この手の混線が静かに信用を削ります。派手ではないけれど、あとで効くやつです。

では、中小零細の人材派遣会社は何を参考にすべきか。大規模な研修網やAIシステムをそのまま真似する必要はありませんし、正直、そこを真似しようとするとだいたい予算会議で空気が重くなります。参考にすべきなのは、育成と定着を「根性」ではなく「仕組み」で扱っている点です。報告書で確認できる範囲だけでも、キャリア形成支援、スキルの可視化とギャップ分析、リスキリング、満足度調査、面談専任者による早期ヒアリングという、いずれも再現可能な考え方が並んでいます。小さな会社なら、対象職種を絞って研修内容を標準化する、月次で面談する、満足度を簡易アンケートで把握する、配属後のキャリア見通しを言語化する、といった形で十分落とし込めます。大事なのは、「この会社に入れば成長できる」と求職者に言えることより先に、「入社後にどの順番で何を学び、誰が面倒を見て、どの案件に行けるようになるのか」を社内で説明できることです。そこが曖昧な会社は、採用広告だけが立派な採用カタログ会社になりがちです。言葉は強いですが、業界には案外多いんですよね。とはいえ、責めるだけでは前に進まないので、まずは一職種、一制度、一指標から始めるのが現実的です。

要するに、テクノプロの有価証券報告書から読み取れる人材戦略の核心は、教育を福利厚生ではなく事業基盤として扱い、定着を精神論ではなく計測と対話の仕組みで支えることにあります。人材派遣業において「人」が最重要資源であることは、いまさら言うまでもありません。ただ、言うだけの会社と、測って、育てて、残す会社の差は、だんだん採用競争力とサービス品質の差になって表れます。派遣会社の経営は、売上表の右肩上がりより先に、現場で働く人が伸びているか、残っているかを見たほうが、結局は強い。そんな、派手さはないけれど非常にまっとうなことを、この有価証券報告書はかなり丁寧に教えてくれます。

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jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。