派遣元責任者講習という、だいたい「後でやります」で後回しにされるが、更新審査ではしっかり見られる話
派遣会社の経営には、不思議な優先順位があります。売上は急ぐ。採用も急ぐ。取引先対応はもっと急ぐ。ところが、責任者講習だけはなぜか「来月でいいでしょう」となりがちです。たぶん、今日すぐ請求書になるわけでもなければ、目の前のトラブルが減る感じもしないからでしょう。気持ちは分かります。人は、目の前で燃えているものから消したくなる生き物です。しかし、派遣元責任者講習というのは、静かに効いてくるタイプの重要事項です。野球で言えば派手なホームランではなく、気づくと試合を決めている送りバントみたいなものです。誰もヒーローインタビューでは語らないけれど、ないと困る。
派遣事業の更新審査では、資産要件や帳簿や契約書の整備と並んで、派遣元責任者がちゃんと講習を受けているかが見られます。ここで「いや、うちの責任者はベテランなんで」という話をする会社があります。いや、ベテランなのは結構なのですが、制度はしばしばベテランの自尊心とは別のところで動きます。昔から知っている、長くやっている、現場に詳しい。もちろんそれは大事です。でも、法改正や運用変更は、経験年数が長い人の顔色をうかがって待ってくれたりはしません。むしろ長くやっている人ほど、「昔はこうだった」が邪魔になることすらあります。
派遣元責任者というのは、名前だけ立派な飾り役ではありません。派遣事業の運営を見て、法令に沿っているかを確認し、問題が起きたときには交通整理をし、現場と管理と経営のあいだに立つ、なかなか損な役回りです。会社によっては、この責任者ポストが「とりあえず一番詳しそうな人」に押しつけられていることがあります。あるいは、昔からその人だからなんとなく続いている。日本の組織にはよくあることです。ですが、更新審査は“なんとなく”に冷たい。責任者であるなら、必要な講習を受けていることが前提になります。
ここで面白いのは、多くの会社が講習そのものを軽く見ているわりに、更新申請の時期になると急に大騒ぎすることです。「え、3年以内でしたっけ」「修了証どこでしたっけ」「本人じゃなくて補佐が受けてたらだめですか」など、だいたい会社の知性が試される会話が始まります。残念ながら、だめなものはだめです。責任者本人が受けていないと意味がないし、修了証が出せないと、受けたことになりません。このへん、学校の夏休みの宿題みたいですね。「やったんですけど家に忘れました」は、大人の行政手続ではほぼ通用しません。
講習受講の話でいちばん怖いのは、未受講そのものより、「たぶん大丈夫だろう」という社内の空気です。会社というものは、一回も問題になっていないことほど軽視しがちです。去年も何とかなった。今年も忙しい。来月でいい。そのうち、更新申請の時期がやってきて、担当者の顔色だけが悪くなる。こういう光景は、派遣業界に限らずいろんな業界で見られますが、派遣事業ではとくに笑えません。なぜなら、責任者講習の受講証明は、かなり分かりやすく確認されるからです。曖昧さでごまかしにくい。つまり、準備不足がそのまま露出します。
そもそも、なぜ講習が必要なのか。答えは簡単で、派遣事業が意外と複雑だからです。雇用しているのは派遣元、働く場所と指揮命令は派遣先、保護すべき相手は派遣労働者、しかも法改正も多い。こんなもの、放っておくと現場の勘と前例で運用したくなります。そして前例というのは、たいてい時代に一周遅れています。だから講習で最新ルールを入れ直す必要がある。これは責任者本人のためでもあります。知らないまま責任を持たされるのは、本人だって不幸です。
また、講習を受けることの価値は、単に修了証がもらえることだけではありません。責任者が制度をちゃんと理解していると、社内のズレに早く気づけます。契約書の古さ、教育訓練の記録不足、情報公開の漏れ、派遣先との役割分担の曖昧さ。こういうものは、詳しい人がひとりいるだけでかなり防げます。逆に、責任者が名前だけで実務を追えていない会社は、問題が起きてから「聞いてませんでした」が始まる。聞いていない側が責任者、というのは、なかなか味わい深い話です。
受講記録の管理もまた、会社の性格がよく出るところです。ちゃんとしている会社は、修了証を紙でも電子でも保管し、誰がいつ受けたか、次回はいつまでに受けるべきか、一覧で分かるようになっています。だめな会社は、だいたいファイル名が「講習関係_最終_本当の最終.pdf」みたいになっていて、誰も所在を把握していません。人は忘れますし、担当者は異動しますし、PCは壊れます。だから記録管理が要る。講習そのものより、その後の保管のほうが会社の実力が出るかもしれません。
さらに厄介なのは、責任者が交代したときです。これもまた、多くの会社が弱い。前任者は受講済みだった。だから何となく安心していた。ところが新任者はまだ受けていない。しかも社内では「前の人が受けてたから大丈夫じゃないですか」という、非常に日本的で根拠の薄い optimism が発生する。だめです。責任は個人にひもづくので、新しい責任者には新しい講習対応が要る。このあたりを“人事異動のついで”で処理すると、後で痛い目を見ます。人事異動のついでに済ませていいのは席替えくらいです。
更新審査で本当に見られているのは、講習を受けたかどうかだけではありません。それを会社として管理しているかどうかです。責任者が複数いるなら全員分を把握しているか。期限切れが起きないようにしているか。更新直前に慌てない仕組みがあるか。つまり、“個人任せ”にしていないかどうかです。個人任せの会社は、優秀な人がいるあいだは回ります。でも、辞めた瞬間に崩れます。会社というのは、そういうものです。
未受講のリスクは分かりやすい。更新申請で気まずい。修了証が出せない。最悪の場合、不許可リスクが高まる。ですが、もっと本質的な問題は、責任者講習を軽く見る会社は、だいたい他の法令対応も軽く見ていることです。講習は象徴なんですね。更新管理、帳簿整備、教育訓練、情報公開、内部監査。これらをちゃんと回せる会社は、講習もちゃんと管理しています。逆に、講習すら危うい会社は、他もだいたい危うい。会社の管理水準というのは、意外とこういう小さな項目に表れます。
だから、実務としてはたいへん地味ですが、やるべきことは明確です。3年ごとの受講スケジュールを作る。修了証を紙とデータで保存する。責任者交代時には即座に受講計画を立てる。更新前に一度まとめて棚卸しする。たったこれだけです。たったこれだけなのに、できる会社とできない会社がきれいに分かれる。不思議ですが、経営というのはだいたいそういうものです。派手な戦略より、地味な管理の差が最後に効いてきます。
派遣元責任者講習というのは、会社にとっては「受けさせて終わり」の行事ではありません。責任者が制度を理解し、その証拠を管理し、会社として継続的に適正運営をするための土台です。つまらないと言えばつまらない。華はない。ですが、こういうところを笑わずにちゃんとやる会社ほど、更新の場面で慌てません。慌てない会社は強い。派遣事業の更新審査というのは、案外そういう地味な基礎体力を見ているのだと思います。
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- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。



