是正勧告は「怒られた」で終わらせると、だいたい二度目が来るという派遣会社の話
派遣事業をやっていると、ときどき会社というものは実に正直だなと思う瞬間があります。売上は盛れる。会議資料も盛れる。社内の空気も、うまくやればそこそこ明るく見せられる。けれど、労働局から是正勧告を受けた瞬間だけは、会社の運営がどれだけ雑だったか、妙に輪郭がはっきりするのです。まるで、暗い部屋で急に蛍光灯をつけたときみたいなものです。見たくなかった棚のホコリまでよく見える。
是正勧告という言葉は、なかなかに重々しい。聞いただけで、総務も人事も営業も、ついでに社長も少しだけ胃が縮みます。しかし、ここで大事なのは、是正勧告はまだ「終わり」ではないということです。いきなり処刑台ではありません。言ってみれば、「このままだとまずいので、ちゃんと直してくださいね」という行政からの冷静な通知です。問題は、そのあとです。
会社という生き物は、怒られた直後だけは妙に反省します。会議も開く。担当者も神妙な顔をする。社長も珍しく早口で「再発防止を徹底しよう」と言う。ここまでは、わりとどこの会社でもできます。問題は、その次です。改善報告をどう書くか。何を直したのか。誰が責任を持つのか。再発防止をどう仕組みに落とすのか。つまり、反省のポーズではなく、運営の修理ができるかどうかが問われます。
派遣会社の是正勧告対応でありがちなのは、「とりあえず期限までに紙を出そう」という発想です。いや、出すのは大事です。期限を守るのは社会人としてかなり基本ですし、そこを落とすと話になりません。ただ、改善報告というのは、作文コンクールではないのです。「今後は十分に注意します」「社内で周知徹底しました」「再発防止に努めます」。このあたりの便利な日本語は、たしかに会議資料にはよくなじみます。でも、労働局が見たいのは、そういう曖昧に誠実そうな文章ではなく、何を、いつ、誰が、どう直したのかです。
たとえば、就業規則が古かったなら、どこを改訂したのか。教育訓練の記録が不足していたなら、どの帳票を整え、いつから運用を変えたのか。契約書の不備があったなら、旧様式を廃止し、新様式をどの案件から適用したのか。責任者の役割が曖昧だったなら、誰に何を持たせ、報告ルートをどう変えたのか。こういう具体性がない改善報告は、だいたい「まだ直ってないですね」と静かに見抜かれます。行政は派手に怒鳴らないかわりに、曖昧さを意外とよく見ています。
是正勧告を受けた会社で本当に危ないのは、指摘事項そのものより、「一回きりの事故」と思い込むことです。人は都合の悪いことがあると、つい偶発的なミスにしたくなります。「担当者の確認漏れでして」「たまたま引き継ぎの時期でして」「現場が忙しくて」。もちろん、事情はあるでしょう。しかし、是正勧告の対象になるような話は、たいてい個人のうっかりだけでは起きません。起きるべくして起きています。確認の仕組みが甘い、責任者が形だけ、記録が残らない、内部監査が機能していない、法改正への追随が遅い。つまり、問題は人ではなく、会社の構造にあることが多いのです。
だから、改善報告で本当に大事なのは、「直しました」と書くことではなく、「同じことがもう起きにくいです」と言える状態を作ることです。マニュアルを直す。様式を直す。責任者を決める。研修をする。点検の頻度を上げる。内部監査で見に行く。こういう地味な手当てを積み上げるしかありません。面白くはないです。誰も拍手しません。でも、会社をまともにする作業というのは、だいたいそういうものです。
特に派遣会社は、制度と現場の間にいつも少し距離があります。雇用しているのは派遣元、指揮命令するのは派遣先、働いているのは派遣労働者。この三者関係のなかで、問題が起きると責任の押し付け合いが始まりやすい。「それは派遣先の運用です」「いや、雇用管理は派遣元ですよね」「本人から申し出がなかったので」。この会話、だいたい誰の得にもなりません。だからこそ、是正勧告を受けた後は、どこで情報が止まり、誰が判断せず、何が記録されなかったのかを丁寧にほどく必要があります。責任の所在を明らかにするのは、誰かを詰めるためではなく、次に同じ空中戦をしないためです。
更新審査で見られるのも、結局そこです。是正勧告を受けたこと自体が即アウト、という単純な話ではありません。もちろん、内容の重さや反復性は見られます。ただ、それ以上に重要なのは、受けたあとどう動いたかです。改善報告を期限内に出したか。内容は具体的か。添付資料はあるか。実際に運用が変わったか。再発防止策は記録されているか。同じ指摘をまた受けていないか。要するに、会社として学習能力があるかを見られているわけです。耳が痛いですね。でも、会社にとって一番怖いのは、ミスをすることではなく、ミスから何も学ばないことです。
よくない会社ほど、「是正勧告は恥だ」と思っています。だから隠したがる。社内でも限定メンバーしか知らない。担当者にだけ処理させる。経営会議にもちゃんと上げない。結果として、少し形を整えた報告書だけ出して、運用はほとんど変わらない。そしてしばらくすると、また同じような話でつまずく。これは非常にもったいない。是正勧告というのは、たしかに面倒で、気分も良くないですが、見方を変えれば会社の弱点を外から教えてもらったようなものです。高くつくコンサルより先に、本質を突いてくることすらある。ありがたいとは言いませんが、無駄にはしたくないイベントです。
改善報告を書くときに重要なのは、きれいに見せることではありません。事実を書くことです。どの指摘に対して、どの資料を改め、誰が確認し、いつ運用開始したのか。できれば、その変更が一度きりではなく、今後どう点検されるかまで書けると強い。つまり、「修正」だけでなく「管理」を入れることです。会社は直した瞬間より、直した後を保つほうが難しい。ここを外すと、再発防止が単なる願望になります。
また、責任者の存在も重要です。是正内容が立派でも、誰がフォローするのか曖昧だと、運用はすぐにぼやけます。派遣元責任者でも、管理部長でも、コンプライアンス担当でもいいのですが、とにかく“見る人”が必要です。会社というのは、誰でも見られる状態にしておくと、だいたい誰も見ません。だから、見る役を決める。報告先も決める。必要なら月次で確認する。地味ですが、こういう仕組みが二度目を防ぎます。
不許可リスクが高い会社には、分かりやすい共通点があります。改善報告が遅い。抽象的。添付資料が薄い。同じ問題を繰り返す。つまり、反省しているようで、実は何も変えていない。これは厳しいようですが、更新審査の目線から見れば当然です。派遣事業の許可というのは、単に書類が出せる会社に与えられるものではなく、適正に運営し続けられる会社に与えられるものだからです。昨日の反省文より、明日の運営のほうが重い。
結局、是正勧告対応とは、会社の姿勢の問題です。怒られた事実をなかったことにしたい会社なのか、きちんと直して次に進める会社なのか。前者は一瞬楽ですが、長く苦しみます。後者はその場では面倒ですが、あとで強い。だいたい会社経営というのは、そういう選択の積み重ねです。
是正勧告は、たしかに気分のいいものではありません。でも、それをきっかけに会社の運営を一段ましにできるなら、まだ救いがあります。問題は、怒られたことではなく、怒られたあとも同じ会社でい続けることです。更新審査で本当に見られているのは、そこなのだと思います。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。



