ガバナンスという、だいたい後回しにされるのに最後は全部そこへ戻ってくる話
派遣会社の更新審査というものは、経営者の気分としてはだいたい「資産要件さえ満たしていれば、あとは書類を揃えれば何とかなるだろう」と思いたいところがあります。気持ちはよく分かります。人はみな、面倒くさい現実を数字ひとつで片づけたがるものです。しかし、世の中はそこまで親切にはできていません。派遣事業の更新で見られるのは、お金があるかどうかだけではなく、その会社がちゃんと会社として動いているか、つまりガバナンスが効いているかどうかです。
ガバナンスと聞くと、急に会議室の空気が重くなります。横文字ですし、だいたい誰かが「企業統治ですね」と言い始める。途端に、全員が分かったような顔をしながら、心の中では少しだけ逃げたくなる。まあ無理もありません。ガバナンスという言葉は便利すぎて、たいていの問題をふわっと包めてしまうからです。しかし、派遣事業におけるガバナンスは、そんなに抽象的な話ではありません。要するに、経営陣が現場の実態を把握し、問題が起きる前に手を打ち、起きた後は記録を残し、是正して、同じ失敗を繰り返さない仕組みがあるか、という話です。言ってしまえば、「ちゃんと会社をやっているか」の確認です。厳しいようですが、会社なのだから当然です。
派遣業は、物を売る商売ではなく、人の労働と生活に直結する商売です。ここで経営が雑だと、だいたい雑な結果になります。現場に丸投げ、営業任せ、責任者の名前だけ立派、会議はやっているけれど議事録がない、課題はあるが誰も追いかけていない。こういう会社は、日常では案外回ってしまうのです。回ってしまうから厄介です。問題が表面化しないうちは、みんな「うちは少数精鋭なので」とか「現場判断で柔軟に」とか、耳ざわりのいいことを言います。しかし、更新審査とか行政対応とか、外から静かに見られる場面になると、その“柔軟さ”がだいたい“無秩序”として発見されます。会社の地力は、忙しいときより、見られたときに露呈するものです。
経営管理でまず大事なのは、経営陣が本当に会社の状況を知っていることです。これが意外と難しい。社長の耳に入る情報というのは、現場を何層か通るうちに、ちょうどよく丸くなります。営業は悪い話を少し小さく言い、管理部門は面倒な話を少し遅らせ、現場は「まあ何とかやってます」と言う。そうして組織は、一見すると平和を保ちます。だがその平和、だいたい帳簿の外側か、現場の胃痛の上に成り立っています。だからこそ、経営会議や取締役会で、何を議論し、何を決めたかを残しておくことが大切です。議事録というのは、書くと面倒ですが、残しておくと会社を救います。逆に、何も残っていない会社は、後になって「ちゃんと検討していたはずです」と言うしかなくなります。この「はずです」が強いのは居酒屋の思い出話だけで、審査の現場ではあまり役に立ちません。
それから、経営方針と現場運営が一致しているかも重要です。会社というのは不思議なもので、社長が「コンプライアンス重視」と言えば言うほど、現場では「今月の数字が先です」となりがちです。上では理想、下ではノルマ。中間管理職だけが静かに削れていく。これもよくある話です。しかし派遣事業では、そのズレがそのまま事故になります。契約条件の確認漏れ、教育訓練の形骸化、苦情対応の遅れ、情報管理の甘さ。経営が掲げた方針が現場まで届いていないと、書類の上だけ立派な会社ができあがります。そして行政は、そういう会社を意外とちゃんと見抜きます。すごいですね。普段はそんなに敏捷そうに見えないのに、こういうときだけ妙に本質を見ています。
内部統制というのも、これまた日本企業が好きなわりに、だいたい面倒くさがる分野です。けれど、派遣事業の更新においては、ここがかなり大事です。誰が何を担当するのか。契約は誰が確認するのか。雇用関連の手続は誰が承認するのか。支払いにダブルチェックはあるのか。責任者が休んだらどうするのか。これらが曖昧な会社は、たいてい「うちは阿吽の呼吸で回ってます」と言います。阿吽の呼吸というのは、うまくいっている間は美しいのですが、人が辞めた瞬間にただの属人化になります。会社が個人芸に依存し始めると、ガバナンスは一気に弱くなります。優秀な担当者が一人で何でも分かっている、という状態は、経営者から見ると頼もしいのかもしれませんが、更新審査や監査の観点からは、かなり怖い。会社の仕組みは、英雄の存在ではなく、英雄が休んでも回ることのほうが大切です。
そして内部監査。これもまた、実施している会社と、実施したことにしている会社で大きな差が出ます。年に一回、チェックリストに丸をつけて終わり、というのは、もはや監査というより年中行事です。大事なのは、問題点が見つかったあとです。改善したのか。誰がいつまでに直すのか。再発しないよう仕組みに落としたのか。報告書を作るだけで満足してしまう会社は多いのですが、報告書は反省文ではなく、改善の出発点です。監査で見つけた穴をそのまま放置して、「でも一応点検はしました」と胸を張るのは、健康診断で異常値が出たのに「検査は受けたので健康です」と言っているのと同じです。少し落ち着いたほうがいい。
派遣事業のガバナンスでさらに面倒なのは、リスク管理が人と法令と金の全部にまたがっていることです。資産要件が足りなくなるかもしれない。責任者が急に辞めるかもしれない。法改正に社内ルールが追いつかないかもしれない。行政指導を受けるかもしれない。ハラスメント案件が起きるかもしれない。情報漏えいが起きるかもしれない。つまり、だいたい全部起こりうる。経営者はたまに「そんなに全部考えていたら仕事にならない」と言いますが、逆です。考えていないから、いざ起きたときに仕事にならないのです。リスク管理とは、不安症になることではなく、起きたときの被害を減らす設計です。問題を想像するのが暗いのではなく、想像しないまま突っ込むほうがよほどロマンチックで危険です。
コンプライアンスも、ガバナンスの中では避けて通れません。これもまた「うちは真面目にやってます」で済ませたいテーマですが、世の中はだいたい真面目な顔をして雑な運用をするものです。派遣先との契約内容が古い、就業条件の説明が不十分、教育訓練の記録が曖昧、個人情報の扱いがルーズ、苦情対応が担当者の人格に依存している。こういうことが積み重なると、会社は静かに傷んでいきます。コンプライアンスは、悪いことをしないという精神論ではなく、悪いことが起きにくい仕組みを作ることです。善意だけで会社を運営しようとすると、善意のある人が疲弊したところで終わります。仕組みが必要です。人は忘れるし、焦るし、言い訳もするからです。
更新審査で求められる資料というのも、実に正直です。経営会議の記録、内部監査の報告、リスク管理のルール、是正対応の履歴、コンプライアンス規程。華やかさはゼロです。でも、こういうものほど会社の本性が出ます。立派な理念ポスターより、古びた議事録のほうがよほど信用できることはあります。なぜなら、議事録には「誰が何を言って、何を決めたか」が残るからです。理念は壁に貼れますが、責任は貼れません。責任は、記録にしないと逃げます。
不許可リスクのある会社にも、だいたい共通点があります。責任の所在が曖昧。判断の記録がない。内部監査が形だけ。違反が起きても、その場しのぎで終わる。つまり、会社の意思決定が“空気”で回っているのです。空気は大事ですが、空気で許認可は取れません。必要なのは、誰が見ても分かる形で、管理され、記録され、改善されていること。ここを地道にやっている会社ほど、更新の場面で慌てません。慌てる会社というのは、普段から「何とかなる」で回してきた会社です。そして、更新審査というのは、その「何とかなる」が本当に何とかなるのかを試す場でもあります。だいたい、なりません。
結局、ガバナンスとは、大きな会社だけが語る立派な概念ではありません。派遣会社のように、人の雇用と現場運営が日々動く事業にとっては、かなり実務的で、かなり生活感のあるテーマです。会議を開いたら残す。役割を決めたら明文化する。問題が出たら直す。直したら再発防止まで追う。言ってみれば、ものすごく当たり前のことです。ただし、その当たり前を面倒くさがらずに続けられる会社は、意外と少ない。
だからこそ、更新審査で見られるのです。資産の額よりも、会社の筋力。派遣事業を続ける資格があるかどうかは、案外こういう地味なところで決まります。ガバナンスという横文字にびびる必要はありません。要するに、会社を会社らしく動かすことです。そして、その一番地味な努力が、最後にはいちばん効いてくる。世の中、そういうものです。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。




