派遣業の更新で本当に怖いのは、資産要件よりも「法改正をなめること」です

人材派遣業の許可更新という話になると、経営者の頭に最初に浮かぶのはだいたい二つです。ひとつは資産要件。もうひとつは書類の山。どちらも間違ってはいません。間違ってはいないのですが、そこだけ見ていると、だいたい足元をすくわれます。派遣業の更新審査で本当に効いてくるのは、法改正をきちんと追いかけ、それを現場の運用にまで落としているかどうかです。

世の中には「とりあえず規程をPDFで差し替えました」「サイトに何か書いてあります」「研修もやったことになっています」と胸を張る、書類芸に長けた人たちがいます。私は心の中でそういう方々を“証拠なき改善王”と呼んでいますが、役所は残念ながら拍手してくれません。更新審査で見られるのは、改正を知っていたかではなく、改正に合わせて会社が動いたかです。そこが派遣業の面倒なところであり、同時に、きちんとやっている会社がちゃんと報われるところでもあります。

法改正は「ニュース」ではなく、更新審査の出題範囲です

派遣業の経営者と話していると、「法改正は顧問社労士が見ているはず」「総務が何とかしていると思う」「うちは昔からやっているから大丈夫」という声をよく聞きます。この“誰かが見ているはず同盟”が、だいたい一番危ない。法改正は、新聞の片隅で読んで終わる話ではなく、更新審査で静かに回収される宿題です。

たとえば派遣事業の許可は、新規なら3年、初回更新後は5年です。つまり、最初の3年はあっという間です。景気対応、採用難、値上げ交渉、スタッフフォローで毎日が終わっていくうちに、法改正対応は「また今度」に追いやられがちです。しかし更新時に問われるのは、忙しかった事情ではなく、現時点で適法に運用されているかどうかです。役所は経営者の苦労話には同情しても、旧様式のままの書類を合法にはしてくれません。実に当たり前で、実に厳しい話です。

いちばん大きかった地殻変動は、同一労働同一賃金でした

派遣業界で近年もっとも存在感が大きかった法改正のひとつは、2020年施行の同一労働同一賃金対応です。派遣元は、派遣先均等・均衡方式か、労使協定方式かのいずれかで派遣労働者の待遇を確保しなければならなくなりました。要するに、「昔からこの水準だから」で押し切る世界は終わり、待遇の根拠を説明できる世界に変わったということです。

ここで面白いのは、制度そのものより、「説明しなければいけない」という点に多くの会社が地味に苦しんだことです。給与テーブルや協定書を作るだけでは足りず、雇入れ時、派遣時、そして求めがあったときに、待遇差の内容やその理由、賃金の決め方を説明しなければならない。つまり、法改正は単なる書式変更ではなく、会社の言語能力まで問うてきたわけです。言い換えると、「うちはちゃんとやっています」を、ちゃんと日本語で説明しなさいということです。これが苦手な会社は意外と多い。というより、苦手でない会社のほうが少ない。

ただ、派遣元を弁護しておくと、これは嫌がらせでも何でもなく、制度としては筋が通っています。派遣は三者関係です。雇う会社、使う会社、働く人が分かれている以上、処遇の根拠が見えにくくなる。そのため、説明義務を強めるのは自然な帰結です。制度は面倒になりましたが、論理はかなりまっとうです。ここを単なる負担増として嫌うだけでは、少し損をします。説明できる会社は、結局、採用でも定着でも強くなるからです。

教育訓練は「やったことにする」時代が終わりました

派遣業の更新で、地味に、しかし確実に効いてくるのが教育訓練です。派遣業界には昔から「研修資料はある」「eラーニングのURLは配ってある」「受講したことになっている」という、たいへん日本的な“空気で完了する教育”が存在しました。もちろん、空気では更新できません。

厚生労働省の令和5年度労働者派遣事業報告書の集計結果では、キャリアアップに資する教育訓練を受講した派遣労働者は1,071,585人でした。しかも、有給での訓練実施や費用負担なしの運用がほぼ標準になっています。つまり教育訓練は、あったら立派な加点項目というより、やっていて当然のインフラです。更新審査でも、計画、実施、対象者、記録の整合が取れているかが問われます。資料棚に研修タイトルだけ並んでいても、それは本棚が賢そうに見えるだけで、運用の証拠にはなりません。

ここも現場には言い分があります。派遣先ごとに業務が違い、スタッフの就業時間もばらつき、対面研修は組みにくい。分かります。分かるのですが、それでも記録は必要です。なぜなら更新審査では、「大変でした」は事情説明であって、「実施しました」の証明にはならないからです。会社を守るのは善意ではなく、記録です。この身もふたもない現実に、派遣業はかなり強く支配されています。

情報公開は「載せた」ではなく「今も正しい」が大事です

派遣業界でよくある誤解に、「会社案内のページに何か書いてあれば公開義務はだいたい満たしている」というものがあります。これもまた、希望としては理解できますが、制度としてはかなり危うい。

派遣元事業主には、派遣労働者数、派遣先数、派遣料金の平均額、派遣労働者の賃金の平均額、マージン率、労使協定の有無、キャリア形成支援制度に関する事項などを公開する義務があります。マージン率も、ただ数字を出せばよいのではなく、派遣料金平均額から賃金平均額を差し引き、それを派遣料金平均額で割るという定義があります。しかも、その差額は全部利益ではありません。厚労省の資料では、社会保険料・労働保険料11.4パーセント、営業利益5.9パーセント、福利厚生費3.4パーセント、教育訓練費2.4パーセントなどの内訳が示されています。つまり、公開とは、派遣会社の値付けを社会に説明する行為でもあるわけです。

このテーマになると、たまに「そんなことまで見せたら商売にならない」と憤る方がいます。気持ちは分かります。分かりますが、派遣業はそもそも許可事業です。自由市場の競争だけでなく、公共的な説明責任も負っている。ここでむくれるのは、免許制の世界で“なんで交通ルールがあるんだ”と怒るようなもので、少々分が悪い。むしろ情報公開をきちんと整えている会社ほど、派遣先からの信頼が取りやすいという面もあります。制度は時に面倒ですが、全部が全部、経営者いじめでできているわけでもありません。

更新審査は「会社の現在地」を見に来る

ここで大事なのは、更新審査は過去に一度許可を取った会社へのご褒美ではない、ということです。更新は継続審査です。つまり「昔ちゃんとしていたか」より、「今ちゃんとしているか」が見られます。

たとえば財産要件でも、基準資産額が1事業所あたり2,000万円以上、基準資産額が負債総額の7分の1以上、自己名義の現金・預金が1事業所あたり1,500万円以上という基準があります。ここは派遣業の世界では有名な数字ですが、怖いのは、法改正対応の遅れが、最終的に財務にも跳ねることです。待遇改善や教育訓練のコスト、情報管理体制の整備、人件費の見直し。法改正をなめると、コンプライアンスだけでなく資金繰りにも後から効いてくる。派遣業は人の商売ですが、最後に残るのはいつも数字です。

だから更新前になると、会社の中で奇妙な光景が起きます。営業は「案件は伸びています」と言い、現場は「人は足りません」と言い、管理部は「規程が古いです」と言い、経理は「現預金を見てください」と言う。全員正しい。そして、全部つながっています。法改正対応は法務だけの話ではなく、財務、人事、教育、情報管理、営業資料までを巻き込む総力戦です。ここを“総務に丸投げできる雑務”だと思った会社から、順番に苦しくなっていきます。

では、何をすればいいのか

結論は意外と地味です。派手な裏ワザはありません。必要なのは、改正情報を拾う、影響を判断する、規程と書式を直す、社内に周知する、研修する、記録を残す、内部で点検する。この流れを、年に一度ではなく、継続運用の型として持つことです。

ここでよくいるのが“前年コピペ伯爵”です。昨年出した書類を今年も少しだけ直して出せば何とかなると思っている。しかし法改正対応は、前年踏襲との相性が最悪です。もうひとり多いのが“様式差し替え侯爵”で、雛形だけ新しくして運用は昔のまま。これも危うい。役所が見ているのは、紙の美しさではなく、会社の実態です。更新で必要なのは、様式の最新化ではなく、運用の現在化です。

その意味で、外部専門家を入れる価値は、書類作成の代行よりも「社内で見えていないズレを見つけること」にあります。契約書と労使協定の整合、教育記録と説明義務の接続、公開情報と実数値の一致、財務と更新要件の距離感。こうした点は、社内にいると案外見えません。毎日その会社で働いている人ほど、「まあこのくらいは大丈夫だろう」に慣れてしまうからです。人は環境に順応する生き物ですが、残念ながら不備にも順応します。そこに外の目が必要になります。

まとめ

派遣業の更新で本当に怖いのは、法改正そのものではありません。法改正を「そのうちやるもの」と軽く見て、会社の運用が古いまま固まっていくことです。更新審査は、そのズレをかなり正直に映します。規程が古い、説明が弱い、教育記録が薄い、公開情報が眠っている。こういうものは、日々の業務では見過ごされても、更新の場ではちゃんと“見える化”されます。

ただ、あまり悲観する必要もありません。法改正対応は、きちんとやれば会社を強くします。待遇の説明ができる会社は採用で強くなる。教育訓練が回る会社は定着で強くなる。情報公開が整う会社は派遣先から信用される。更新審査に耐える体制は、そのまま経営の基礎体力でもあります。要するに、更新対応は面倒な通関手続ではあるけれど、同時に会社をちゃんとした会社にする訓練でもあるのです。そこまで含めて考えると、この制度も案外よくできています。腹は立つけれど、理屈は通っている。派遣業らしい、なかなか味わい深い世界です。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。