人材派遣のビジネスは気合いでは回らず、契約と資金繰りで回る商売です
人材派遣を「人を右から左に動かして差額を抜く商売」と雑に説明する人がいます。だいたいそういう説明をする人は、労働者派遣法も、資産要件も、派遣元責任者も、ついでに月末の資金繰りも見ていません。現場を知らない評論家の“ふわっと解説おじさん”は放っておくとして、経営者に必要なのは印象論ではなく、制度と数字です。
労働者派遣は、派遣元事業主が労働者を雇用し、派遣先企業の指揮命令の下で働いてもらう仕組みです。賃金の支払、社会保険や労働保険、年次有給休暇の管理などは派遣元の責任です。一方で、現場で仕事の指示を出すのは派遣先です。つまり、雇用と使用が分かれている。ここが請負や業務委託と決定的に違うところです。
しかもこの業態、始める前から帳簿に現実味を求められます。厚生労働省の許可基準では、基準資産額は1事業所あたり2,000万円以上、かつその基準資産額は負債総額の7分の1以上、さらに自己名義の現金・預金は1事業所あたり1,500万円以上が必要です。派遣業は「営業力があれば何とかなる」で始める商売ではなく、「まず貸借対照表を見せてください」で始まる商売です。公認会計士や会計事務所が登場する理由は、だいたいここにあります。
人材派遣の基本構造
定義: 労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させることです。
この定義だけ読むと、いかにも教科書的です。しかし実務では、ここに三者が登場します。派遣元、派遣先、派遣労働者です。派遣元は雇用主として賃金、保険、教育訓練、キャリア形成支援、就業条件明示を担います。派遣先は現場での指揮命令、安全衛生、苦情処理、受入期間管理などを担います。派遣労働者は派遣元と雇用契約を結びつつ、派遣先で就業します。
この三角形が崩れると、すぐに問題になります。派遣なのに実態は請負だった、請負と言いながら指揮命令していた、現場任せで期間制限を超えていた。いわゆる“なんちゃって合法運用”は、たいてい監督調査で痛い目を見ます。制度は思った以上に細かく、そして役所は思った以上に書類を見ています。
派遣会社の売上はどう生まれるのか
派遣会社の売上は、ざっくり言えば「派遣料金 × 稼働時間」で決まります。厚生労働省の令和5年度の労働者派遣事業報告書の集計結果では、8時間換算の派遣料金平均額は25,337円、派遣労働者の8時間換算の賃金平均額は16,190円でした。差額は9,147円です。
ここで、素人解説界の人気者である“差額ぜんぶ利益マン”が登場しますが、もちろん違います。厚生労働省が公表しているマージン率情報の説明では、この差額には社会保険料や労働保険料、福利厚生費、教育訓練費、募集費、営業費、管理部門コストなどが含まれます。2018年ベースの説明資料では、派遣料金に占める内訳の例として、社会保険・労働保険料が約11.4パーセント、営業利益が約5.9パーセント、福利厚生費が約3.4パーセント、教育訓練費が約2.4パーセントとされています。要するに、見かけの差額はそのまま利益ではありません。
この点を誤解すると、派遣会社の値付けを見誤ります。派遣先から「そのマージン、高くないですか」と言われ、派遣元が「いや、ほぼ残りません」と返す光景は珍しくありません。しかも双方とも半分ずつ正しい。派遣先から見れば賃金との差額は確かに大きく見え、派遣元から見れば固定費と法定費用でかなり薄まる。数字の見え方が違うだけです。
代表的な3つの派遣類型
登録型派遣
もっとも一般に知られている形です。仕事が発生した時点で雇用契約を結び、その案件に就業します。案件の終了とともに契約が終了することが多く、需要変動に対応しやすいのが特徴です。派遣先にとっては繁閑対応がしやすく、派遣元にとっては案件獲得力と登録者集客力が収益の肝になります。
ただし、軽やかに見えて、運営は軽くありません。募集、面談、契約、就業条件明示、勤怠、請求、更新管理が連続で発生します。短期案件が多いほど事務負荷は増えます。営業が強いだけでは回らず、バックオフィスが貧弱だと、すぐに“受注はあるのに利益が消える会社”になります。
常用型派遣
派遣元が派遣労働者を無期雇用し、派遣先に送り出す形です。令和5年6月1日時点の速報では、派遣労働者1,924,455人のうち無期雇用派遣は791,293人でした。前年比では6.0パーセント増で、有期雇用派遣の伸び率を上回っています。
無期雇用は、専門性の高い職種や継続配置が見込まれる分野で相性が良い一方、待機コストを派遣元が抱えます。つまり、受注が切れた瞬間に経営の実力が露出します。景気の良い時は“安定雇用の優等生”に見えますが、仕事が細ると“固定費の王様”に早変わりします。経営者としては、営業力、配置転換力、教育体制、この三つを同時に持たないと持続しません。
紹介予定派遣
紹介予定派遣は、派遣期間の後に派遣先が直接雇用することを予定して行う派遣です。派遣開始前または派遣期間中に、派遣先と派遣労働者に対して職業紹介を行う、または行う予定があることが前提です。派遣期間は同一労働者について6か月を超えることができません。
通常の派遣と違い、紹介予定派遣では、派遣就業開始前の面接や履歴書の送付など、採用を前提とした行為が一定範囲で認められます。その代わり、職業紹介の許可や、契約書・台帳への記載、雇用しなかった場合の理由明示など、追加のルールが付きます。令和5年度の報告では、紹介予定派遣で派遣された労働者は26,012人、そこから直接雇用につながった人数は13,619人でした。半分強が採用に結びついた計算です。
人材紹介との違い
人材派遣と人材紹介は、似ているようで収益構造がかなり違います。派遣は、就業時間に応じて売上が立つストック寄りのモデルです。稼働が続く限り売上が積み上がります。人材紹介は、採用が成立した時点で成功報酬が発生するフロー寄りのモデルです。売上のタイミングが点で来ます。
厚生労働省の令和5年度職業紹介事業報告書によると、有料職業紹介事業所のうち実績があったのは13,460事業所、常用就職件数は843,950件、手数料収入は約8,362億円、常用就職1件あたりの平均手数料は約93万円でした。派遣に比べると、1件あたりの売上インパクトは大きい。ただし、毎月の稼働売上として積み上がるわけではありません。
ここでよくあるのが、“紹介のほうが利益率が高いらしいから、派遣より紹介が上”という雑な比較です。気持ちはわかりますが、少し乱暴です。派遣には安定稼働の強みがあり、紹介には成功報酬の大きさがある。案件特性も資金繰りも人材プールも違う。ラーメン屋と居酒屋を「一杯あたり粗利」で比較して勝敗を決めるくらい雑です。
なお、派遣と紹介の営業利益率を最新の公的統計で単純比較した、使いやすい公式数字は確認が難しい状況です。したがって、「派遣は営業利益率1パーセント台、紹介は20パーセント台」などの断定は、出所が曖昧なものをそのまま使わないほうが安全です。経営判断に必要なのは、耳ざわりのいい通説ではなく、自社の案件単価、稼働率、採用コスト、解約率です。
利ざやは全部もうけではない
派遣会社のマージン率は法律上の開示項目です。開示対象には、派遣労働者数、派遣先件数、8時間あたりの派遣料金平均額、8時間あたりの賃金平均額、マージン率、労使協定の有無、キャリア形成支援制度の内容などがあります。計算式は、平均派遣料金から平均賃金を引き、その差額を平均派遣料金で割るというものです。
この数字を見て「お、儲かってますな」と言う人は多いのですが、だいたい帳簿を最後まで見ていません。派遣業では、社会保険、労働保険、有給休暇、健康診断、教育訓練、採用広告、コーディネーター人件費、営業管理費、未請求・未回収リスクが乗ります。派遣先1社あたりの粗い収支だけで判断すると、月末に泣きます。これは比喩ではなく、本当に泣く経営者を見てきたので、念のため書いておきます。
法律でできること、できないこと
派遣は万能ではありません。港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院や診療所等における医療関連業務は、原則として派遣禁止です。医療関連は紹介予定派遣や代替要員など一定の例外がありますが、原則禁止を原則禁止として理解していないと事故ります。
日雇派遣も、30日以内の雇用契約による派遣は原則禁止です。例外として、ソフトウェア開発、機械設計、通訳、秘書、事務用機器操作などの専門業務や、60歳以上、昼間学生、一定以上の副収入・世帯収入がある人など、法令上の例外があります。つまり、短期で回したいから全部日雇い派遣で、という発想は、制度の前であっさり止まります。
受入期間にも上限があります。一般に、同一の派遣労働者を同一の組織単位で受け入れられるのは3年までです。事業所単位の期間制限もあります。無期雇用派遣や60歳以上の労働者、終期が明確なプロジェクト業務などには例外がありますが、例外は“便利な抜け道”ではなく、あくまで法定の例外です。現場の都合で適当に解釈すると、あとで説明がつきません。
経営者が見落としやすい論点
派遣会社の経営で重要なのは、営業より管理です。もちろん営業は大事です。大事なのですが、契約、期間制限、労使協定、教育訓練、台帳、就業条件明示、マージン情報公開、財務体質のどこかが崩れると、売上が立っていても事業は不安定になります。
とくに新規参入で多いのが、「案件は取れそうです」「登録者も集まりそうです」という前向きな話だけで進むケースです。派遣業は、案件が取れそうかどうかより、許可を取れるかどうか、取った後に維持できるかどうかのほうが先に問われます。ここを飛ばしてアクセルだけ踏むと、だいたい途中でエンジン警告灯が点きます。
許可申請と監査証明が重要になる場面
労働者派遣事業の許可では、財産的基礎が厳格に見られます。基準資産額、現金預金、負債とのバランスを満たしているかどうかは、感想ではなく決算書で判断されます。しかも、新規許可だけでなく、更新、事業所新設、組織再編、資本政策の見直しでも、数字の整合性が問われます。
ここで会計の専門家が必要になります。監査証明や財務書類の確認は、単なる“申請のお化粧”ではありません。貸借対照表のどこが基準資産額に算入され、どこが除かれるのか。現預金は自己名義で足りているか。負債との関係で要件を割り込んでいないか。これを曖昧なまま進めると、あとで申請書類が止まる。あるいは、もっと面倒な止まり方をします。
経営者からすると、「営業資料は作れるのに、なぜ許可資料はこんなに詰められるのか」と思うかもしれません。しかし、派遣業は労働者への賃金支払いを継続できるだけの財産的基礎があることを前提に許可される業態です。つまり、制度が経営者に言っているのはこういうことです。夢を語る前に、まず残高を見せてください。
まとめ
人材派遣のビジネスモデルは、単なる人の仲介ではありません。派遣元が雇用責任を持ち、派遣先が指揮命令を行い、その間を法令、契約、資金繰り、教育訓練、情報公開で支える事業です。売上は派遣料金と稼働で生まれますが、差額がそのまま利益になるわけではありません。紹介予定派遣や常用型派遣のように、類型ごとに必要な管理も違います。
そして何より、派遣業は「始めやすそうに見えて、数字にうるさい業種」です。許可要件、期間制限、禁止業務、マージン開示、財産的基礎を理解せずに参入すると、営業以前のところでつまずきます。逆に言えば、制度を理解し、財務を整え、書類を詰め、管理体制を作れる会社には十分な勝ち筋があります。
派遣業は根性論では回りません。契約で回り、数字で回り、最後は管理で回ります。そこを押さえたうえで許可申請や更新に臨むなら、公認会計士による監査証明や財務面の確認は、コストではなく保険です。派遣ビジネスは人で動く商売ですが、許可は人情で下りません。実に、よくできた制度です。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。




