労働者派遣事業許可で見落とされやすいソフトウェア開発外注費の落とし穴

今回は、税務上の繰延資産でも、会計上は繰延資産とは限らない、というお話です。

そのズレが財産的基礎を誤認させる

労働者派遣事業許可の財産的基礎では、繰延資産と営業権は基準資産額の計算から除かれます。ところが、ソフトウェア開発関連の外部委託費を税務上の感覚で繰延資産に計上してしまうと、本来は満たしている要件を満たしていないと誤認することがあります。会計基準、法人税法、派遣許可実務を踏まえて、公認会計士が実務上の注意点を解説します。


「うち、派遣許可はやっぱり無理ですよね」

この言葉、経営者の方から出てくるときの空気は、だいたい重いです。決算書を開いて、繰延資産の金額が目に入り、基準資産額の試算をすると数字が足りない。しかも、その原因が赤字でも資金繰りでもなく、貸借対照表の表示区分にあるとなると、なおさらやるせない。現場感のある言い方をすれば、資金不足ではなく科目の置き場所で転ぶわけです。会計の言葉で言い換えるなら、これは資産認識と表示区分の誤謬が、許可審査上の財産的基礎の判定に直接波及する事案です。 

労働者派遣事業の許可では、財産的基礎に関する要件として、資産から負債を差し引いた基準資産額が一定額以上であること、基準資産額が負債総額の七分の一以上であること、さらに自己名義の現金預金が一定額以上であることが求められます。ここで重要なのは、基準資産額の計算に入れる資産総額から、繰延資産と営業権を除くと明示されている点です。つまり、繰延資産に入ってしまった金額は、派遣許可の審査上、資産として数えてもらえません。数字のインパクトが大きいのはこのためです。

厚生労働省の資料では、基準資産額とは、資産の総額から負債の総額を控除した額であり、その資産総額からは繰延資産及び営業権を除くとされています。この繰延資産は、会社計算規則第七十四条第三項第五号に規定する繰延資産をいうと整理されています。ここが最初の分岐点です。派遣許可実務で問題になる繰延資産は、税法用語としての広い意味の繰延資産ではなく、会社計算規則を踏まえた会計上の繰延資産です。雑に言うと、税務の辞書ではなく、会計の辞書で読む必要があるということです。

ところが実務では、ここに小さく見えて大きい混線が起きます。税務上の繰延資産は、会計上の繰延資産よりも範囲が広いのです。法人税法施行令第十四条では、繰延資産の範囲として、開業費や開発費のほか、公共的施設の負担金など多様な費用が列挙されています。その中で開発費は、新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、資源の開発又は市場の開拓のために特別に支出する費用とされています。税務実務ではこの定義が広く、開発関連の支出を税務上の繰延資産として把握する場面があり得ます。

他方で、会計上の繰延資産はそんなに何でも入る便利箱ではありません。企業会計基準委員会の実務対応報告第十九号は、会計上取り扱う繰延資産として、株式交付費、社債発行費等、創立費、開業費、開発費の五項目を対象とし、結果として限定列挙になると明示しています。ここでいう限定列挙とは、簡単にいえば、原則としてその五つ以外を勝手に繰延資産へ増やしていかないという考え方です。会計上の繰延資産は、税務の世界よりかなり狭い。まずこの距離感を押さえないと、決算書の表示がじわじわと危うくなります。

さらに大事なのは、会社法上の計算書類は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って作成されるべきだという点です。会社法第四百三十一条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとすると定めています。また会社計算規則第三条は、その用語の解釈及び規定の適用に関して、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならないとしています。いわば、貸借対照表は税務申告書の付録ではなく、会計のルールで組み立てるべき書類なのです。そこを逆走すると、あとで許可審査が待っています。しかも待っているのは優しさではなく、計算式です。

では、ソフトウェア開発関連の外部委託費はどう考えるべきでしょうか。ここでいう外部委託費とは、システム会社やエンジニア会社に委託して、自社利用システムや販売用ソフトウェアを制作するために支出した費用などを念頭に置いています。これを一律に税務上の感覚で「開発費だから繰延資産」と処理してしまうと、話が雑すぎます。雑な処理は一瞬ラクです。ですが、会計ではその一瞬のラクが後日の説明不能という形で請求書を持って帰ってきます。これを私はひそかに、経理のブーメラン現象と呼んでいます。もちろん、私が勝手に呼んでいるだけです。

会計基準上、自社利用のソフトウェアについては、将来の収益獲得又は費用削減が確実である場合、その取得に要した費用を資産として計上し、利用期間にわたり償却するとされています。市場販売目的のソフトウェアについても、研究開発に該当する部分を除いた製品マスターなどは無形固定資産として計上されます。制作途中のソフトウェアは、ソフトウェア仮勘定などの科目で、やはり無形固定資産として計上する整理が示されています。つまり、要件を満たすソフトウェア関連支出は、会計上は無形固定資産として処理されるのであって、繰延資産の部に置くことが予定されているわけではありません。

ここでいう「将来の収益獲得又は費用削減が確実」とは、ふわっとした期待ではなく、完成して使えたらたぶん便利そうだ、くらいの願望を超えている必要があるという意味です。会計は夢に優しくありません。自社利用ソフトウェアであれば、利用者が要求する機能を発揮することや、その利用により収益獲得又は費用削減が確実であることが前提になります。逆にいえば、その要件を満たさない段階では、無形固定資産ではなく費用処理が相当となる場面もあります。したがって、ソフトウェア開発関連の外部委託費は、何でも資産になるわけでも、何でも繰延資産になるわけでもありません。正しくは、事実関係に応じて、費用か無形固定資産かを判定し、少なくとも会計上の繰延資産に自動で滑り込むものではない、という整理です。

この点が、派遣許可の財産的基礎で特に効いてきます。もし本来は無形固定資産のソフトウェア、あるいはソフトウェア仮勘定として表示すべき金額が、誤って繰延資産の部に計上されていたら、派遣許可の基準資産額を計算する際、その金額は丸ごと資産から除かれてしまいます。本来なら基準資産額に入っていたはずの金額が、表示区分を誤っただけで消える。経営者から見ると、手元資金も事業実態も変わっていないのに、審査用の数字だけが痩せるわけです。気分としてはダイエットしていないのに健康診断の数値だけ落ちる感じですが、会計の言葉でいえば、表示の誤りが規制上の資本判定を歪めている状態です。

この種の誤りが厄介なのは、誰かが悪意でやっているとは限らないところです。むしろ逆で、税務実務に慣れた担当者ほど、税法上の用語を自然体で持ち込んでしまうことがあります。税法上はたしかに繰延資産として把握し得る。だから会計上も繰延資産欄に置いてしまう。そういう「わかる人ほど迷い込む」タイプのミスがあるのです。批判だけなら簡単です。しかし、会計と税務は用語が同じでも射程が違うことがあり、しかも日々の記帳現場では処理のスピードも求められます。担当者だけを悪者にしても、実務は改善しません。必要なのは人格批判ではなく、概念の交通整理です。

ここでいう交通整理とは、税務上の繰延資産と会計上の表示区分を切り分けることです。税務上の申告調整や償却可能性の議論と、貸借対照表の表示は同じではありません。法人税法で繰延資産に該当し得ることと、会社計算規則ベースの貸借対照表で繰延資産の部へ載せることは、イコールではないのです。この「イコールではない」を徹底できるかどうかが、派遣許可の実務では決定的です。口語でいえば、似ている言葉に引っ張られないこと。概念でいえば、制度間の同音異義を見抜くことです。

実務上、まず確認すべきは三つです。第一に、その外部委託費が何のための支出かです。自社利用システムなのか、市場販売用ソフトウェアなのか、単なる保守改修なのかで評価が変わります。第二に、資産計上要件を満たしているかです。将来の収益獲得又は費用削減が確実といえるか、研究段階なのか、制作段階なのかを見ます。第三に、貸借対照表上の表示が適切かです。資産計上が妥当なら無形固定資産のソフトウェア又はソフトウェア仮勘定、費用処理が妥当なら損益計算書側、いずれにしても安易に繰延資産欄へ押し込まない。この順番を飛ばして「とりあえず繰延資産」は、静かな事故の始まりです。

派遣許可の申請や更新のタイミングでは、この表示誤りが単なる会計修正で終わらないことがあります。厚生労働省の運用では、基準資産額又は自己名義の現金預金額が増加する旨の申立てがある場合、法人については、公認会計士又は監査法人による監査証明を受けた中間決算又は月次決算で確認するとされています。つまり、直近決算書のままでは要件を満たさないように見えても、適切な会計処理に基づく中間又は月次決算で状況を正しく示せるなら、そこに専門家の関与が必要になる場面があるのです。

日本公認会計士協会の実務指針でも、中間又は月次決算書については年度決算書のような税務申告手続を経ていないため、第三者による信頼性の担保が求められるという整理が示されています。要するに、「うちではこう計算しました」だけでは足りず、「その計算書類に第三者の検証可能性がありますか」が問われるわけです。経営者からすると、いきなりハードモードです。ただ、公平に言えば、派遣労働者への賃金支払能力を見る許可制度なのですから、審査側が数字の信頼性を重視するのは当然でもあります。ここは制度が厳しいのではなく、制度が本気なのだと理解した方が早いです。

では、経営者は何をすればよいのでしょうか。答えは意外に地味です。まず、派遣許可の資産要件を試算する前に、繰延資産の中身を明細で確認することです。科目名が繰延資産でも、中身が本当に会計上の繰延資産に当たるのかを見なければなりません。次に、ソフトウェア開発関連の外注費について、契約書、仕様書、検収資料、利用目的、開発段階を確認し、費用処理か無形固定資産かを判定します。そのうえで、貸借対照表の表示区分を是正し、必要なら中間又は月次決算を組み直す。派手さはありませんが、許可実務ではこの地味さがいちばん強い。筋トレと同じで、結局はフォームです。私は運動が苦手なので説得力が薄いかもしれませんが、会計はフォームを裏切りません。

ここで一つ、誤解を避けるために線を引いておきます。ソフトウェア開発関連の外部委託費であれば、常に無形固定資産になる、とまでは言えません。会計基準が示しているのは、要件を満たす場合には無形固定資産として計上するということです。したがって、研究段階の支出や、将来の収益獲得又は費用削減の確実性が認められない支出、単なる保守改修費などは、費用処理が相当な場合があります。この点は実務で非常に重要です。なぜなら、誤って繰延資産に置くのがダメだからといって、何でも無形固定資産に積み直すのもまたダメだからです。会計に必要なのは勇気より根拠です。勢いで科目を移すと、今度は別の崖から落ちます。

この問題の本質は、実はお金の多寡ではありません。もっと手前にあります。税務の言葉で貸借対照表を作るのか、会計の言葉で貸借対照表を作るのか。この二択です。さらに派遣許可の文脈では、見かけの資産で審査に向かうのか、制度が予定する資産で審査に向かうのか、という二択でもあります。前者はその場しのぎの整合性、後者は制度適合性です。ここでいう制度適合性とは、単に数字が合うことではなく、数字の作られ方そのものが、会計基準と許可制度の双方に照らして首尾一貫していることです。

そして、この二択は後から効いてきます。今はたまたま一件の申請で済むかもしれません。しかし、更新、事業拡大、金融機関対応、M&A、税務調査と、会社は未来に向かって書類を持ち歩きます。今日の表示区分のゆがみは、数年後に説明責任のゆがみになります。未来から現在を照らしてみると、いま直すべきなのは資金繰りそのものではなく、会計の骨格であることが少なくありません。経営の現場では、売上が伸びていると細かい科目区分はつい後回しになりがちです。気持ちはとても分かります。私も書類整理はあとでやろうと思って机を積層岩のようにしてしまうタイプです。とはいえ、許認可の世界では、その積層岩が崩れると音が大きい。

労働者派遣事業許可に関心のある経営者の方に、最後に実務的な要点だけを静かに申し上げます。決算書の繰延資産に、ソフトウェア開発関連の外部委託費が入っているなら、まず立ち止まってください。その金額は、本当に会計上の繰延資産ですか。税務上の用語をそのまま表示区分に持ち込んでいませんか。自社利用又は販売目的のソフトウェアとして、無形固定資産又はソフトウェア仮勘定で整理すべきものはありませんか。あるいは、そもそも費用処理すべき支出ではありませんか。この確認だけで、財産的基礎の見え方が変わることがあります。しかもそれは、会計テクニックではなく、制度に沿って本来の姿へ戻す作業です。

当事務所では、労働者派遣事業許可に関する監査証明の実務において、単に数字を追うのではなく、その数字がどの会計基準に基づいているかまで確認します。繰延資産の中身の精査、ソフトウェア開発外注費の表示区分の確認、基準資産額の再計算、中間決算又は月次決算への対応まで、許可審査で説明可能な形へ整えることが重要です。派遣許可は、資金力の審査であると同時に、会計の整序力の審査でもあります。数字が足りないように見える会社ほど、実は数字ではなく分類が原因になっていることがある。そのとき必要なのは悲観ではなく、検証です。

結局のところ、これは資金不足の話ではなく、分類錯誤の話です。そこを直せるかどうかで、派遣許可の景色は変わります。私たちは会計の人間なので、景色を変える魔法は使えません。できるのは、レンズのピントを合わせることだけです。もっとも、許認可の現場では、その地味な作業がいちばん効くのですが。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。