人材派遣会社が消費税の納税額に困るのはなぜか~給与は仕入税額控除の対象にならない

人材派遣事業を営まれている企業から、「毎月の消費税の納税額が非常に大きくて困っている」というご相談をよくいただきます。特に、事業が成長して売上が増加するにつれて、この問題が深刻化するという傾向があります。このことが原因で、労働者派遣事業許可の更新に際して労働局に提出する決算書の現金預金残高が不足して困っているとおっしゃる会社様が実際にいらっしゃるのです!

一見すると、利益が増えているのに納税額が急増するため、多くの経営者は「これは何か計算が間違っているのではないか」と疑問に感じるようです。しかし、実はこれは計算の誤りではなく、人材派遣業の消費税計算の構造的な問題なのです。

本記事では、この問題の原因を明らかにするために、まず消費税の計算ロジックを基礎から説明し、その上で、人材派遣業特有の問題点を指摘いたします。

消費税の基本的な計算ロジック

消費税について、まず基本的な仕組みを理解することが不可欠です。多くの経営者が消費税を単純に「売上に一定率をかけた金額」だと考えていますが、実際にはより複雑な計算ロジックになっています。

消費税の本質

消費税は、商品やサービスが最終消費者に到達するまでの各段階で、付加価値に対して課税する仕組みです。これを「付加価値税」と呼びます。

例えば、次のようなシナリオを考えてみましょう。

ある製造業者が、仕入先から原材料を1,000円(税抜き)で仕入れました。その際、仕入先から消費税100円を請求されます。製造業者は、この100円を「仕入税額」として記録します。

製造業者が、この原材料を加工して製品にし、1,500円(税抜き)で卸売業者に売却しました。卸売業者に対して、消費税150円を請求します。

ここで、製造業者が納める消費税は、売上に対する消費税(150円)から、仕入れに対する消費税(100円)を差し引いた、50円となります。

この50円は、製造業者が生産活動において付加させた価値(1,500円-1,000円=500円)に対する消費税にあたります。

つまり、消費税は、各段階での付加価値に対して課税される仕組みなのです。

消費税計算の公式

この仕組みを公式化すると、以下のようになります:

納付する消費税額 = 売上税額 - 仕入税額控除

より詳しく説明すると:

納付する消費税額 = (課税売上 × 税率)- (課税仕入 × 税率)

現在の標準税率は10%ですので(軽減税率8%もありますが、ここでは標準税率で説明します):

納付する消費税額 = 課税売上 × 10% - 課税仕入 × 10%

さらに整理すると:

納付する消費税額 = (課税売上 - 課税仕入)× 10%

この公式から明らかなように、課税仕入が多ければ、納付する消費税額は減ります

消費税の計算例

具体的な計算例で、これをご説明します。

例1:製造業の場合

  • 課税売上:1,000万円
  • 課税仕入(原材料、外注費など):600万円

納付する消費税額 = (1,000万円 - 600万円)× 10% = 400万円 × 10% = 40万円

例2:卸売業の場合

  • 課税売上:1,000万円
  • 課税仕入(仕入商品):800万円

納付する消費税額 = (1,000万円 - 800万円)× 10% = 200万円 × 10% = 20万円

この二つの例を比較すると、同じ1,000万円の売上であっても、課税仕入が大きい卸売業の方が、納付する消費税額は小さいことがわかります。

これは、消費税が付加価値に対して課税される仕組みを反映しています。卸売業は原価率が高い(利益率が低い)ため、付加価値が小さく、したがって消費税も小さいのです。

人材派遣業における消費税計算の問題

それでは、ここから本題に入ります。人材派遣業において、なぜ消費税の納税額が大きくなるのか、その原因を説明します。

人材派遣業の売上構造

人材派遣業の売上は、派遣先企業から派遣料として受け取る金額です。これは消費税の課税売上に該当します。

例えば、派遣社員一名を派遣先に送出し、月額50万円の派遣料を受け取ったとします。この50万円は消費税の課税売上です。

人材派遣業における原価構造

ここから重要なポイントです。人材派遣業における原価に相当するのは、派遣社員への給料・賞与です

上記の例で、派遣社員の月額給与が40万円だとしましょう。派遣会社は、派遣料50万円から給与40万円を支払い、差額の10万円が粗利となります。

売上(派遣料):50万円 原価(派遣社員給与):40万円 粗利:10万円

一般的な製造業や卸売業であれば、この原価(仕入)に対して消費税が課税されており、その消費税が仕入税額控除の対象になります。

ところが、人材派遣業では、この原価に相当する給与の支払いに消費税が課税されません。

給与が消費税の課税対象にならない理由

消費税法では、課税対象となる「役務の提供」は、通常、商業的な活動として対価を得て行われるものを想定しています。雇用契約に基づく給与の支払いは、商業的な役務提供ではなく、雇用関係に基づく対価という性質が異なるため、消費税の対象外となっているのです。

また、給与を消費税の課税対象にすると、以下のような問題が生じます:

  1. 労働者側の課税負担の増加:給与が消費税課税の対象になると、労働者の実質給与が減少します。
  2. 国際的な整合性の問題:ほとんどの国で給与は消費税(付加価値税)の課税対象外です。

このような理由から、給与は消費税の課税対象から除外されているのです。

人材派遣業の消費税負担が大きい理由

以上の説明から、人材派遣業における消費税負担が大きい理由が明らかになります。

比較分析

具体的な数字で、人材派遣業と他の業種を比較してみましょう。

【例:月額売上1,000万円の企業】

製造業の場合

  • 課税売上:1,000万円
  • 課税仕入(原材料、加工費など):600万円
  • 納付する消費税額 = (1,000万円 - 600万円)× 10% = 40万円

卸売業の場合

  • 課税売上:1,000万円
  • 課税仕入(商品仕入):800万円
  • 納付する消費税額 = (1,000万円 - 800万円)× 10% = 20万円

人材派遣業の場合

  • 課税売上(派遣料):1,000万円
  • 課税仕入(給与賞与):0万円(給与は消費税課税対象外)
  • 納付する消費税額 = (1,000万円 - 0万円)× 10% = 100万円

このように、同じ1,000万円の売上であっても、人材派遣業では製造業の2.5倍、卸売業の5倍の消費税を納める必要があるのです。

この問題の深刻性

では、なぜこのような不公正が生じるのでしょうか。

消費税の計算ロジックに立ち返ると、本来は課税売上から課税仕入を控除した、付加価値に対してのみ消費税が課税されるはずです。

上記の例で、人材派遣業における実質的な付加価値を考えてみましょう:

派遣料:1,000万円 給与賃金:例えば800万円 差額(付加価値):200万円

本来であれば、200万円の付加価値に対してのみ、20万円(200万円 × 10%)の消費税が課税されるべきです。

ところが実際には、1,000万円全体に対して、100万円の消費税が課税されています。

この差異は、給与が消費税法上の課税仕入に該当しないという法的構造から生じているのです。

解決策はほとんどありません。2期前の売上5,000万円以下なら簡易課税を選択という方法が考えられます。サービス業のみなし仕入率50%で控除額を増やせます。ただし、設備投資をするなど仕入税額控除の額が膨らむ年度には簡易課税制度を選択しているほうが不利になるおそれがあります。消費税につける特効薬は見当たらないようです。

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投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。