「タレントアクイジション」という言葉をご存知でしたか?
労働者派遣事業許可申請のための監査を日々行う中で、派遣会社の経営者の方々とお話しする機会が多くあります。そんな中、最近特に耳にするのが「人材採用の難しさ」についてのお悩みです。
派遣先を見つける営業活動は従来通りのノウハウで進められるものの、肝心の「人材の確保」が極めて困難になってきている――これは多くの派遣会社が直面している共通の課題です。
「リクルーティング」から「タレントアクイジション」へ
先日、平本宏幸さんの著書『人材争奪』(日本経済新聞出版社)を読み、非常に興味深い気づきを得ました。特に印象的だったのが、122頁から書かれている「採用(Recruiting)から人材獲得(Talent Acquisition)へ」という章です。
言葉の変化が示すパラダイムシフト
この本によれば、米国企業では現在、人事の採用担当組織の名称が「リクルーティング(Recruiting)」から「タレントアクイジション(Talent Acquisition)」へと変わってきているそうです。
「リクルート」の語源は「新たに育てる」という意味にあり、もともとは軍隊の新兵募集で使われ始めた言葉。そこから企業でも新人を募集する際に使われるようになりました。この言葉には「未経験者を育成前提で採用する」というニュアンスがあるそうです。
一方、タレントアクイジションは「タレント(才能ある人材)を獲得する」という意味。この名称の変化の背景には、人材争奪が激化している昨今の環境があると、同書では指摘されています。
日本でも同じ状況が進行している
この内容を読んで、私は「確かに日本でも全く同じ状況だ」と感じました。
少子高齢化が加速する日本において、人材争奪はすでに現実のものとなっています。もはや「リクルーティング」という受動的な姿勢ではなく、「タレントアクイジション」という積極的な獲得戦略を持たなければ、優秀な人材を確保することは難しい時代になっていることは、人材派遣会社の幹部の皆様のほうがよっぽど実感していらっしゃいますよね。
人材派遣会社が直面する課題
監査業務を通じて派遣会社の経営者の方々とお話ししていると、皆さん口を揃えておっしゃるのが以下の点です:
- 派遣先を探す営業活動はそれほど難しくない
- しかし、派遣する人材を採用することが非常に難しい
この構造的な問題は、今後さらに深刻化していくでしょう。日本の少子高齢化は加速する一方であり、労働人口の減少は避けられない現実です。
日本でタレントアクイジションを実現する具体的な方策
では、日本の人材派遣会社が「リクルーティング」から「タレントアクイジション」へと転換するためには、具体的にどのような施策を取るべきでしょうか。
1. タレントプール(人材データベース)の構築
従来の「募集→応募→選考→採用」という受動的なプロセスから脱却し、継続的に人材との関係を築く仕組みを作ります。
具体的には、
- 過去の応募者や面接候補者のデータベースを整備
- 今回は採用に至らなかったものの、将来的に声をかけたい人材の情報を蓄積
- 定期的なニュースレターやイベント案内で関係性を維持
- LinkedInなどのビジネスSNSで潜在的な候補者とつながりを持つ
この方法により、急な人材ニーズが発生した際に、ゼロから募集をかけるのではなく、すでに関係性のある人材プールから迅速にアプローチできます。
2. ダイレクトリクルーティング(攻めの採用)の導入
求人広告を出して「待つ」のではなく、自社から能動的に候補者にアプローチする手法です。
具体的には:
- ビズリーチ、Wantedlyなどのダイレクトリクルーティングサービスの活用
- LinkedInで業界経験者を検索し、直接メッセージを送る
- 業界イベントやセミナーに参加し、人脈を広げる
- ヘッドハンティング的なアプローチで、即戦力人材を獲得
この方法は、求人広告費用よりもコストを抑えられる場合が多く、かつターゲットを絞った効率的な採用が可能です。
3. 採用マーケティングの実践
採用活動を「マーケティング」として捉え、自社の魅力を戦略的に発信していきます。
具体的には:
- 採用サイトの充実(社員インタビュー、働く環境の紹介、キャリアパスの明示)
- SNS(Instagram、X、Facebook)での日常的な情報発信
- 採用ブログでの業界情報や自社の取り組みの紹介
- Googleマイビジネスの最適化で地域での認知度向上
- 社員の声を活用したリアルな職場環境の発信
求職者は応募前に必ず企業のことを調べます。その時に魅力的な情報が発信されていれば、応募率は大きく向上します。
4. リファラル採用(社員紹介制度)の強化
既存社員からの紹介は、最も質の高い採用チャネルの一つです。
具体的には、
- 紹介インセンティブ制度の導入(紹介料、報奨金)
- 社員が誇りを持てる職場環境づくり
- 紹介しやすいツールの提供(紹介用のLPや資料)
- 紹介された候補者への丁寧なフォロー体制
社員が「友人や知人にも紹介したい」と思える会社づくりこそが、この施策の成功の鍵です。
5. データドリブン採用の導入
採用活動のあらゆるプロセスを数値化・分析し、継続的に改善していきます。
具体的には、
- 応募経路ごとの採用率・定着率の分析
- 面接通過率や内定承諾率の測定
- 採用単価(Cost Per Hire)の計算と最適化
- どの媒体・手法が最も効果的かを定量的に判断
- A/Bテストによる求人原稿の改善
感覚ではなくデータに基づいて採用戦略を立てることで、限られた予算を最も効果的なチャネルに集中投下できます。
6. 候補者体験(Candidate Experience)の向上
応募から入社までの求職者の体験を最高のものにすることで、採用成功率と入社後の定着率を高めます。
具体的には、
- 応募後24時間以内の初回連絡
- 選考プロセスの明確な説明と進捗の随時共有
- オンライン面接の導入で候補者の負担軽減
- 不採用者へも丁寧なフィードバックを提供
- 内定者フォローの充実(入社前の不安解消)
良い体験をした候補者は、たとえ今回採用に至らなくても、将来再応募してくれたり、他の人に自社を紹介してくれたりします。
7. 多様な働き方の提示
優秀な人材を獲得するには、柔軟な働き方の選択肢を用意することが重要です。
具体的には、
- リモートワーク・ハイブリッドワークの導入
- 短時間勤務や週4日勤務などの選択肢
- 副業・兼業の容認
- フリーランスや業務委託からの正社員登用ルート
- ライフステージに応じた働き方の変更を可能にする
特に育児や介護との両立を考える優秀な人材にとって、働き方の柔軟性は大きな魅力となります。
これからの人材派遣会社の命運を分けるもの
今後の人材派遣会社の成否を分けるのは、いかに低コストで効率的に優秀な人材を採用できるかという点にかかっています。
上記の施策を組み合わせることで、従来の求人広告に頼った採用から脱却し、持続可能な人材獲得の仕組みを構築することが可能になります。
重要なのは、「人材が応募してくるのを待つ」のではなく、「戦略的に人材を獲得しにいく」という意識の転換です。まさにこれが「リクルーティング」から「タレントアクイジション」への変化なのです。
まとめ
平本宏幸氏の言う「リクルーティング」から「タレントアクイジション」へ――この言葉の変化は、人材採用における意識改革の必要性を示唆しています。
育てる前提で採用する時代から、才能ある人材を積極的に獲得する時代へ。
人材派遣会社にとって、この認識の転換こそが、激化する人材争奪戦を勝ち抜くための第一歩となるでしょう。
当事務所では、労働者派遣事業許可申請の監査を通じて、多くの派遣会社の経営実態を拝見しております。人材採用戦略についてのご相談も含め、経営全般のサポートをさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
平本宏幸 著『人材争奪』日本経済新聞出版社
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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