労働者派遣で派遣できる業務はどこまでか
人材派遣について「事務職だけの話でしょ」と言う人がいます。たぶんその人は、法改正の年号も、派遣先責任者の役割も、ついでに自社の管理部門がどこで泣くのかも、あまり見ていません。実際の制度はもっと実務的で、もっと細かい。現時点のルールで言えば、労働者派遣は原則として多くの業務で利用できますが、禁止業務と期間制限、そして「昔の用語を今の制度だと思い込む事故」にだけは要注意です。古い営業資料を握りしめて「専門26業種ならずっと置けるんですよね」と言い出すと、法務も人事も静かに遠い目をします。そういう“平成で時間が止まった説明係”を増やさないために、本稿では制度と統計を2023年12月時点で整理します。
労働者派遣の基本は「雇う会社」と「指示する会社」が分かれていることです
労働者派遣の定義は、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、派遣先のために働かせることです。ここで重要なのは、給料を払うのは派遣元、現場で業務指示を出すのは派遣先という三者関係になっている点です。つまり、派遣元は雇用責任を持ち、派遣先は使用責任の一部を持つ。請負や業務委託と違って、派遣先が直接指揮命令することが制度の中心にあります。ここを曖昧にすると、契約書は請負なのに運用は派遣という、現場あるあるであり監督署あるあるでもある、あまり笑えない話に転がります。
経営者目線で言えば、この仕組みは便利である一方、責任の所在を丁寧に分けないと事故が起きやすいモデルです。派遣先は必要な期間だけ人材を受け入れやすく、派遣元は人材の募集、雇用、教育訓練、勤怠や賃金管理を担います。要するに、派遣は「人を貸す商売」ではなく、「法令で分担された管理責任ごと引き受ける商売」です。そこを無視して「人月だけ計算すればいい」と考えると、だいたい後から台帳、労使協定、教育訓練、期間管理がまとめて殴り返してきます。
派遣できる業務は原則として広い。ただし「何でもあり」ではありません
労働者派遣は原則自由化されています。つまり、禁止されている業務や特別な制限がかかる業務を除けば、多くの職種で派遣は可能です。だから「派遣は事務だけ」「工場だけ」「ITだけ」といった言い切りは、だいたい雑です。実際には、製造、情報通信、金融・保険、研究、翻訳、秘書、受付、コールセンター、清掃、設備運転など、かなり広い業務が派遣の対象になり得ます。
もっとも、「広い」と言っても無秩序ではありません。派遣はあくまで法令で認められた枠内で運営する制度です。派遣先で何をさせるのか、指揮命令は誰がするのか、期間はどう管理するのか、直接雇用の代替をどう考えるのか。こうした論点を管理できる会社だけが派遣をきちんと回せます。逆に言えば、制度理解が甘い会社ほど「うちは柔軟にやれます」と言いながら、一番柔軟であってはならない法令解釈を柔らかくしがちです。そこは柔らかくしなくていい。むしろ硬めでいいです。
禁止業務は はっきり決まっています
労働者派遣が原則できない業務として、厚生労働省は港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院等における医療関係業務を挙げています。ここは「だいたいダメ」ではなく、法令で明示された適用除外業務です。したがって、営業トークで何とかなる余地はありません。制度の外側に出ると、それは柔軟運用ではなく単なる逸脱です。
医療関係業務も、一括で雑に語ると間違えます。医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、保健師、助産師、診療放射線技師、歯科衛生士、歯科技工士などは、病院等における医療関係業務として原則派遣禁止です。ただし例外があり、紹介予定派遣である場合、産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替である場合、へき地等で医師業務を行う場合などは認められます。「医療は全部ダメ」と覚えるのも雑ですが、「医療も結構いけます」と売り込むのはもっと雑です。実務はいつも、ざっくり説明を嫌います。
士業についても、ネット上ではしばしば乱暴な説明が見られます。弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務は派遣できません。公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士の業務も、それぞれ一部業務を除き派遣できないと整理されています。つまり、「士業は全部禁止」と断言するのも、「公認会計士は士業だけど一部いけるらしい」とふわっと済ませるのも、どちらも管理実務には向きません。業務単位で確認するのが正解です。
専門26業務は、2023年12月時点では「歴史用語」として扱うのが正確です
旧制度で有名だった「専門26業務」は、ソフトウェア開発、機械設計、事務用機器操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、調査、財務処理、研究開発、広告デザインなど26の業務区分を指していました。昔の派遣実務では、この区分が期間制限の扱いと深く結びついていたため、業界では非常によく使われた言葉です。年配の実務担当者の記憶に強く残っているのも無理はありません。制度の歴史としては大事です。
ただし、現行制度を説明するなら、「専門26業務」という言葉を現役ルールのように前面に出すのは不正確です。2015年改正で、旧26業務に対して期間制限を設けない仕組みは見直され、施行日以後の派遣契約には、すべての業務で事業所単位と個人単位の二つの期間制限がかかる仕組みに変わりました。平たく言えば、「専門26業務だから期間制限なし」という説明は、2023年では使ってはいけない古い地図です。地図が古いままでも散歩はできるかもしれませんが、許認可実務でそれをやると、到着先がだいたい違います。
期間制限は「3年ルール」と覚えて終わりにしないことが大事です
2015年改正後の現行制度では、同一の派遣先事業所が派遣を受け入れられる期間は原則3年、同一の派遣労働者を同一組織単位で受け入れられる期間も原則3年です。二つの制限が並行して存在するため、片方だけ見て安心するのは危険です。「3年まで大丈夫」という一言だけで済ませる説明は、だいたい重要な前提を落としています。
もっとも、この3年ルールにも例外があります。派遣元で無期雇用されている労働者、60歳以上の労働者、終期が明確な有期プロジェクト業務、月の日数が限定された業務、休業取得者の代替業務などは期間制限の例外です。ですから、実務では「業務名」だけで判断せず、「雇用形態」「就業先」「組織単位」「業務の性質」「代替要員かどうか」まで見なければなりません。派遣は業種の問題であると同時に、制度設計の問題でもあります。
派遣労働者実態調査を見ると、「派遣イコール一般事務」の時代観はかなり古いです
2022年10月1日現在の厚生労働省調査では、派遣労働者が就業している事業所割合は全体で12.3パーセントでした。産業別では製造業が23.6パーセントで最も高く、次いで情報通信業が23.1パーセント、金融業・保険業が21.0パーセントです。つまり、派遣の受入れは事務処理だけでなく、製造、IT、金融という企業活動の中核にかなり入り込んでいます。「派遣といえば昔ながらの一般事務」という理解は、少なくとも2023年時点では、かなり古い写真を見ながら現在地を語るようなものです。
派遣労働者の平均年齢は44.3歳でした。通算の派遣就業期間では、10年以上が28.2パーセント、5年以上10年未満が19.6パーセント、3年以上5年未満が16.4パーセントで、3年以上の経験者が6割を超えています。ここから見えるのは、派遣が単なる短期の入口労働だけではないという事実です。一定の経験を積んだ人材が、複数の業界や職種でキャリアを継続している。経営側が派遣を使う時も、単なる人数合わせではなく、経験値をどう活かすかという視点が必要です。
実務で重要なのは、業種理解より先に「許可要件を満たせるか」です
ここまで読むと、どの業務が派遣可能かという整理が中心に見えるかもしれません。しかし、派遣事業を始める側にとっては、業種の知識だけでは足りません。許可申請には財産的基礎が求められ、基準資産額は1事業所あたり2,000万円以上、かつ基準資産額は負債総額の7分の1以上、さらに自己名義の現金・預金は1事業所あたり1,500万円以上が必要です。ここは営業力では埋まりません。気合いでも埋まりません。埋まるのは現預金と、整った財務資料だけです。派遣業界を「人の話」だけで語ると、最後に必ず「いや、その前に貸借対照表です」という会話が始まります。
だからこそ、派遣可能業務の理解と同じくらい、許可要件、事業計画、組織体制、契約管理、期間管理を整えることが重要です。とくに新規参入では、業種区分を知って満足し、財産要件や運営体制の整備が後回しになる例が少なくありません。いわば「メニューは読んだが、厨房がない」状態です。ウェブ記事としては派遣できる業務一覧が目を引きますが、経営実務として大事なのは、その一覧を合法的かつ継続的に回せる会社になっているかどうかです。
まとめ
2023年時点で言えることは明快です。労働者派遣は、禁止業務を除けば広い業務で利用できる一方、港湾運送、建設、警備、病院等の医療関係業務などには明確な制限があります。士業も一律ではなく、業務ごとに可否が分かれます。旧専門26業務は歴史としては重要ですが、現行制度の中心概念ではありません。いま説明すべきなのは、「何が26か」より「現行ルールでどう管理するか」です。
経営者や管理部門の方にとって本当に必要なのは、業種の一覧表そのものより、禁止業務の見極め、期間制限の理解、そして許可要件を満たす財務と管理体制です。派遣ビジネスは、人が主役の事業です。ただし、許可は人情では下りません。制度、数字、書類。この三つを軽く見ない会社が、結局いちばん強い。そういう、身もふたもないが大事な話です。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。




