DES(デット・エクイティ・スワップ)で財産的基礎を強化する前に知っておくべき法人税の「落とし穴」

労働者派遣事業の許可申請を進める中で、財産的基礎の要件、特に「基準資産額」の壁に頭を悩ませている事業者の皆様は少なくないでしょう。自己資本が不足している、負債が多すぎる、といった状況を改善するために、一つの解決策として「DES(デット・エクイティ・スワップ)」が検討されることがあります。

DESは、企業の財務体質を劇的に改善する可能性を秘めた手法である一方で、その実施には税務上の大きなリスクが潜んでいます。特に、平成18年度税制改正により、安易なDESが思わぬ高額な課税を招くケースが増えています。

この記事では、DESの基本的な仕組みからその効果、そして見過ごされがちな税務上の「落とし穴」までを詳しく解説し、皆様が慎重な判断を下せるよう情報を提供いたします。

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは?

まず、DESとは何かを理解することから始めましょう。 DES(Debt Equity Swap)とは、「債務(Debt)」を「株式(Equity)」に「交換(Swap)」するという意味で、会社が抱える借入金などの債務を、その債権者(お金を貸している側)が会社の株式と引き換えに放棄する手法のことです。

簡単に言えば、「借金を返済しなくていいことにする代わりに、債権者に株式を与える」という取引です。

なぜDESが注目されるのでしょうか?  労働者派遣事業の許可要件である財産的基礎の要件は、企業の健全な経営状態を測る指標であり、特に「基準資産額」が非常に重要です。基準資産額は、原則として「総資産 – 総負債」で計算される純資産の額から、一部の資産(繰延税金資産など)を控除して求められます。DESを行うことで、この「総負債」を減らし、「自己資本(純資産)」を増やすことができるため、基準資産額の改善に直結すると考えられています。

DESの具体的な方法と種類

DESの実施方法には、主に以下の2つのパターンがあります。

現物出資型DES

債権者が会社に対する債権(貸付金など)を現物出資という形で会社に出資し、その対価として会社から新たに発行される株式を受け取ります。
この場合、会社は金銭を受け取るわけではなく、債務が消滅することで資本金が増加します。
特徴: 会社に現金の流出入が発生しないため、資金繰りに影響を与えません。

金銭出資型DES(擬似DES)

まず、債権者が債権債務の金額(に近い額を)改めて金銭として会社に出資し、その対価として株式を受け取り、出資を受けた会社は払い込みを受けた資金を以て債務を弁済する方法です。
特徴: 名目上は金銭の出入りがありますが、実質的には現物出資型と同様の効果をもたらします。税務上の取り扱いが現物出資型と異なる場合があります。
どちらのタイプを採用するかは、債権者の意向や税務上の判断によって選択されますが、現物出資型が採用されるケースがより一般的です。これは、債権者が新たに資金を払い込むことに、通常ではなかなか理解(協力)が得られないためです。つまり、現物出資型が優れているのではなく、資金のやり取りをしなくていいという実務上の要請から消極的に選択されている現状があります。

DESがもたらす効果:なぜ財産的基礎改善に有効なのか?

DESを実施することで、企業は以下のような多岐にわたる効果を得ることができ、特に労働者派遣事業の許可申請における財産的基礎の要件クリアに大きく貢献します。

基準資産額の改善・自己資本の強化

負債の減少: 貸借対照表上の負債勘定にあった借入金などが消滅するため、総負債が減少します。
純資産の増加: 債務が株式に転換されることで、資本金や資本準備金などの純資産が増加します。
「基準資産額 = 総資産 - 総負債」の計算式において、総負債の減少と純資産の増加は、直接的に基準資産額を向上させる要因となります。これにより、派遣事業の許可要件を満たしやすくなります。

自己資本比率の向上と財務体質の健全化

負債が減り自己資本が増えることで、自己資本比率(自己資本÷総資産)が向上します。これは、企業の財務体質が健全であることを示す重要な指標であり、金融機関や取引先からの信用力が向上します。

資金繰りの改善

DESにより債務が消滅するため、その債務に対する元本返済や利息支払いの義務がなくなります。これにより、会社の資金繰りが大幅に改善され、本業への投資や運転資金に余裕が生まれます。

対外的な信用力の向上

健全な財務諸表は、金融機関からの融資審査や、新規の取引先との契約において有利に働きます。

DESのデメリット

DESは魅力的な手法である一方で、いくつかのデメリットとリスクも存在します。

株主構成の変化

債務が株式に転換されるため、債権者が新たな株主となります。これにより、既存株主の持ち株比率が希薄化し、債権者(新株主)が会社の経営に口を出す権利を持つことになります。特に、既存株主が経営権を維持したい場合には、慎重な検討が必要です。また、一株あたりの価値が希薄化する可能性があります。これにより、既存株主の経済的利益が損なわれる場合があります。そのため、労働者派遣事業許可申請にあたって財産的基礎の要件をクリアすることだけが目的のDESは、オーナー経営者が単独で100%株式を保有しているようなケースに限られるのが実情です。

債権者の同意が不可欠

DESは、債権者が自らの債権を放棄し、代わりに株式を受け入れるという行為であるため、債権者の協力と同意が絶対条件です。特に、銀行などの金融機関が債権者の場合、DESに応じるハードルは非常に高い傾向にあります。役員や親会社からの借入金など、内部の債務である場合に検討されることが多いです。


評価の問題

現物出資の場合、出資される債権の評価額や、それと引き換えに発行する株式の評価額について、公正な評価が求められます。評価が不適切だと、後々トラブルの原因となる可能性があります。

    DESの税務上の取り扱い

    平成18年度税制改正を受けて、それまでの税務上の取り扱いとは変更され、DESに際しては、その対象となる債権(会社にとっては債務)を時価評価することとされ、債権(会社にとっては債務)の簿価と時価とに差額がある場合、その差額は債務消滅益として法人税の課税所得を押し上げることとされました。

    それまでは、単純に貸借対照表に計上されている負債を資本に振り替えればいいと簡単に扱っていた向きが多かったのですが、この改正後はDESに際して債権債務の時価評価が重要な課題となっています。

    この税制改正により、DESを実施した企業は、債務消滅益を益金として計上する必要があります。これにより、以下のような問題が生じる可能性があります。

    予期せぬ課税の発生:債務消滅益が益金算入されることで、法人税の負担が増加します。
    キャッシュフローへの影響:債務が株式に変換されたにもかかわらず、法人税の支払いによりキャッシュフローが悪化する可能性があります。

    DESは、企業の財務体質を改善するための有効な手段ですが、特に、平成18年度税制改正により、DESによる債務消滅益が益金算入されるようになったため、思わぬ課税を受けるリスクがあります。先述の2つの手法の内、疑似DESを採用すればおおむね問題はないのですが、新たな資金を一時的にも拠出することは難しいため、現物出資型が採用されがちです。したがって、DESを検討する際には、専門家のアドバイスを受けつつ、税務上の影響を慎重に評価することが重要です。

    結論

    ここまでお読みいただき、「DESは便利なツールながら、その利用には税務面のデメリットが伴うことを忘れてはならない」ということがおわかりいただけたと思います。リスクを押さえ、正しく理解した上でDESを用いることは有益です。しかし、税務上のリスクを完全には排除できない場合は、M&Aによる方が無難です。もちろん、DESでは(基準資産額のハードルは越えられますが)預金残高のハードルは越えられませんから、その点からもDESは採用できないケースが多いでしょう。

    私たちは、単に監査や合意された手続を提供するだけでなく、お客様一人ひとりの状況に合わせた派遣免許維持を目指し、包括的なサポートを通じて、お客様の夢の実現を強力に後押しいたします。

    「財産的基礎の要件をクリアできない」と諦める前に、まずは一度、当事務所にご相談ください。経験豊富な専門家が、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な道筋を一緒に見つけ出すお手伝いをさせていただきます。

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    jinzaihaken
    jinzaihaken
    労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。