労働者派遣事業許可申請の監査で気づく! 月次決算書に未払法人税を計上していないケースが多いので注意してください

労働者派遣事業許可申請のための監査をお引き受けさせていただく中で、許可要件の要である「財産的基礎要件」にはいつも関心を寄せています。この要件をクリアしているか否かという観点からも月次決算書を拝見するのですが、この月次決算書のクオリティが、顧問税理士の先生によって驚くほどバラバラである、という現実に直面することが少なくありません。

本来、会計処理は依拠すべき基準に従って行われるべきものであり、どの会社であっても、どの税理士が作成しても、一定の品質が担保されているはずです。しかし、残念ながら、中にはお仕事が丁寧とは言えないケースも散見されます。

特に、そうした「雑な月次決算書」で最も多く見受けられるのが、「未払法人税等」が計上されていないケースです。

「月次の段階で税金の計算なんてしていないよ」

「税金は年度末にまとめて計算すればいいんじゃないの?」

そう思われる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、労働者派遣事業の許可申請という公的な手続きにおいては、この「未払法人税等」の計上漏れが、重大な問題に発展することがあるのです。

今回は、なぜ月次決算書に未払法人税等を計上しなければならないのか、そして、それを怠るとどのようなリスクがあるのかについて、専門家の視点から詳しく解説していきます。あなたの会社の未来を左右するかもしれない、大切な話です。ぜひ最後までお付き合いください。

未払法人税の未計上とは?  雑な月次決算書の典型例

未払法人税とは、企業が事業年度中に発生した利益に対して課される法人税のうち、まだ支払っていない部分を負債として計上する勘定科目です。通常の年度決算では、実際の課税所得に対して税率を適用し、実際に未払となっている金額を計算・計上します。これにより、貸借対照表に「未払法人税等」として負債が計上され、純資産額が適切に算出されます。

しかし、月次決算書でこれを怠るケースを目にします。例えば、監査で見たある会社の月次決算書では、売上高と経費の差額として税引前利益が出ているのに、法人税の計上がゼロ。結果、純資産額が過大に表示されていました。これは一見「良い」ように見えますが、実際には基準資産額の判断を誤らせる要因となります。未払法人税を計上しないと、利益が水増しされた状態で審査に臨むことになり、後々、問題になるリスクが高まります。

なぜこんな処理が横行するのか? それは、月次決算を「仮のもの」として軽視する姿勢からです。税理士の先生の中には、「月次は大まかでいい、年度末に調整すればOK」と考える方もいますが、これは大間違いです。

会計基準の規定:会計制度委員会研究報告第12号を紐解く

未払法人税の計上を具体的にどのように行うかは、日本公認会計士協会の「会計制度委員会研究報告第12号『臨時計算書類の作成基準について』」にあります。この報告書は、事業年度途中での臨時計算書類の作成の具体的な基準を定めたもので、労働者派遣事業許可申請の際に提出する月次決算書のような場面でも依拠されます。以下に、関連する規定を引用しつつ解説します。

報告書の核心部分は、「臨時決算特有の会計処理(税金計算)  法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金については、臨時会計年度を事業年度と並ぶ一会計期間とみなして、臨時会計年度を含む事業年度の法人税、住民税及び事業税の計算に適用される税率に基づき、年度決算と同様に税効果会計を適用して計算する。ただし、臨時会計年度を含む事業年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積もり、臨時会計年度の税引前純利益に当該見積実効税率を乗じて計算する方法によることができる。」というものです。

これを分解して説明しましょう。

  1. 原則的な取扱い: 月次決算書は、事業年度の一部ですが、原則的な取り扱いは「事業年度と並ぶ一会計期間」とみなして税金を計算しましょうと書かれています。つまり、月次を独立した期間として税務計算を行うということです。
  2. 税金の計算方法: 法人税、住民税、事業税については、年度決算と同様に税効果会計を適用します。税効果会計とは、将来の税務影響を考慮した会計処理で、繰延税金資産や負債を計上するものです。例えば、月次で発生した利益に対して、適用税率(例: 法人税の実効税率約30-40%)を乗じて未払税金を算出します。
  3. 代替方法の許可: 厳密な計算が難しい場合、見積実効税率を使った簡易計算が認められています。例えば、事業年度全体の見込み税引前利益に対する実効税率を推定し、それを月次の税引前利益に適用するのです。これにより、月次決算の負担を軽減しつつ、正確性を保てます。

この規定を守って、見積実効税率を使って簡単に計算して未払法人税を計上すれば、月次決算書に未払法人税を適切に計上できます。しかし、雑な税理士の先生はこれさえも無視し、「月次は税金計算不要」と判断してしまうのです。結果、貸借対照表の負債側が不足し、純資産額が膨張します。許可申請では、この純資産額が基準(例: 2,000万円以上)を超えているかが審査されるため、未計上は致命的です。

具体例を挙げましょう。ある派遣会社A社の月次決算で、税引前利益が500万円出たとします。実効税率を30%と見積もれば、未払法人税は150万円(500万円×30%)計上すべきです。これを怠ると、純資産額が150万円過大表示されることになります。

注意点とアドバイス:きちんと処理しましょう

では、どう対処すればいいでしょうか? 以下に実務的なアドバイスをまとめます。

  1. 顧問税理士の選定: 雑な税理士に当たらないよう、勉強熱心で経験豊富な先生を選びましょう。事前に「月次決算の税務処理」について相談を。
  2. 規定の遵守: 会計制度委員会研究報告第12号を参考に、月次で未払法人税を計上。見積実効税率を使う場合、合理的な根拠(過去データや見込み利益)を残しましょう。
  3. ツールの活用: 会計ソフトで税効果会計適用までを自動化。Excelベースの見積ツールも有効です。
  4. 教育とチェック: 社内経理担当者も規定を理解し、税理士の処理をダブルチェックしましょう。

これらを実践すれば、誤った月次決算を防げます。許可申請にあたっては、事前準備が鍵です。

結論:未払法人税の計上で信頼性を高めよう

労働者派遣事業許可申請の監査を通じて、月次決算書のクオリティのバラツキに驚かされます。特に未払法人税の未計上は、雑な処理の象徴で、基準資産額の判断を左右します。会計制度委員会研究報告第12号の規定を参考にして、適切に計算・計上しましょう。

ご自身の会社で不安がある場合、ぜひ、ご相談ください。

お問い合わせ

預金不足の解決策、純資産不足の解決策、合意された手続、監査のお問い合わせなどお気軽にお問い合わせください。

投稿者プロフィール

jinzaihaken
jinzaihaken
労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。