自分で増資の登記をした社長が損した理由。資本準備金を計上することで登録免許税は半分にできます!
私はもう10年以上派遣事業の許可申請のための監査をお引き受けしていて、多くの企業様に合意された手続と監査をご提供してきました。労働者派遣事業の許可を得るためには、純資産額が一定以上(通常2,000万円以上)必要になるため、増資を検討する経営者さんが少なくありません。そんな中で最近よく目にするのが、増資時の登録免許税の無駄な支払いです。増資額の全額を資本金に組み入れるのではなく、半分を資本準備金に振り分けるだけで登録免許税を節約できるのに、それを知らずに損をしているケースが目立ちます。
法令上、増資にかかる登録免許税は「増加した資本金の額の1,000分の7(ただし、3万円に満たないときは申請件数1件につき3万円)」と定められています。例えば、2,000万円を増資する場合、全額資本金にすると登録免許税は14万円かかりますが、1,000万円を資本金、もう1,000万円を資本準備金にすれば7万円で済みます。なんと7万円の節約! 増資時の出資金のうち2分の1を資本準備金とすれば、その部分には登録免許税がかかりません。これは法令で認められた方法です。
ところが、経営者さんの中には、自分で登記手続きをしてしまい、この節約術を知らずに全額資本金扱いにしてしまうかたが大勢いらっしゃるんです。法務省のウェブサイトで登記申請書のひな型を無料ダウンロードできる(「moj 法人登記の申請書様式」で検索すればすぐ見つかります)ので、自分でやろうとする気持ちはわかります。でも、結果的に司法書士に依頼した方が安上がりになることが多いんですよ。増資の登記にかかる司法書士報酬は5万円程度だそうで、節約額を考えると依頼する価値大です。今日は、そんな事例をいくつか紹介したあと、増資の手続きの流れを解説します。労働者派遣事業を目指す皆さんの参考になれば幸いです。
事例:自分で増資手続きをして登録免許税を払い過ぎた経営者さんのケースが続いた話
まず、A社さんのケース。A社はIT関連の派遣事業を計画中で、資本金が100万円しかなかったため、2,000万円の増資を決めました。社長さんは経理担当者と一緒に法務省のサイトから申請書をダウンロードし、自分で法務局に提出。無事に登記は完了しましたが、増資額全額を資本金に組み入れたため、登録免許税は増加資本金2,000万円×7/1,000=14万円を支払いました。監査証明をA社さんに提出し、監査業務が終了した後で、「半分を資本準備金にすれば7万円で済んだのでは?」と指摘。社長さんは「そんな方法があるなんて知らなかった。ネットのひな型にはそんなアドバイスなかったよ」と肩を落としていました。A社は小規模企業で、7万円の節約は大きな痛手。しかも、司法書士に依頼していれば5万円の報酬で済み、ネット節約額は2万円。自分でやったせいで時間もかかり、結局いろんな面での損失です。
次にB社さんの事例。B社は製造業の派遣を狙い、1,500万円の増資を実施。社長さんは元々総務部での勤務経験があり、「登記なんて簡単」と自分で挑戦。法務省のひな型を使って議事録等を作成し、登記申請。増加資本金1,500万円なので登録免許税は1,500万円×7/1,000=10万5,000円を払いました。でも、半分(750万円)を資本準備金に振り分けていれば、資本金増加分は750万円で税額は5万2,500円。節約額は約5万円です。監査終了後に私が経緯について質問すると、「司法書士に頼めばよかった。自分で調べる時間がもったいなかった」と後悔。B社の社長さんは増資手続後に時間繰りが厳しく受注を1件ロスト、余計な作業時間をつかってしまったことが響きました。司法書士報酬5万円をケチった結果、大きく損した形です。
さらにC社さんのケースは少し複雑。C社はサービス業派遣で、合計3,000万円の増資を2回に分けて行いました。1回目は1,000万円、2回目は2,000万円。社長さんは両方自分で登記し、合計登録免許税は1回目7万円(1,000万円×7/1,000)、2回目14万円で計21万円。ですが、各回で半分を資本準備金にしていれば、1回目3万5,000円、2回目7万円で10万5千円。節約10万5千円です! C社は頻繁に増資するタイプで、社長さんは「ひな型が無料だから自分でやったけど、登録免許税の仕組みを知らなかった」と嘆いていました。私が監査でアドバイスしたところ、「次からは司法書士に相談する」と決意。ちなみに、司法書士の先生に聞くと、増資1回あたり5万円程度で、複数回ならばさらに割引があるそうです。C社のように繰り返す場合、自分でやるよりプロに頼む方が断然お得です。
最後にD社さんの話。D社は新規派遣事業で1,200万円増資。社長さんはオンラインの登記ツールを使って自分で申請し、税金8万4,000円(1,200万円×7/1,000)を支払いました。半分資本準備金なら4万2,000円で節約4万2,000円。監査終了後に私が指摘すると、「労働者派遣事業許可申請で忙しくて、税金の細かいルールまで調べられなかった」とのこと。D社は司法書士報酬を惜しんで自分でやったのに、結果的に損。こうしたケースが続いたので、私はこのコラムを書くことにしました。皆さん、自分で登記するのは確かに無料ですが、知識不足で税金を払い過ぎるリスクが大きいんです。司法書士に依頼すれば、資本準備金の活用など有利な方法を教えてくれ、結果的に安上がり。私の経験では、こうした「自分でやって損した」事例がこの半年で10件以上ありました。労働者派遣事業の許可を目指すなら、増資は慎重に!
増資の手続きの流れ:登録免許税を節約するためのポイントを交えて詳しく解説
ここからは、増資の手続きの流れをステップバイステップで解説します。株式会社の場合を想定し、労働者派遣事業許可申請のための純資産増加を目的とした増資を念頭に置いています。ポイントとして、登録免許税の節約方法(資本準備金の活用)を織り交ぜて説明します。自分でやる場合の注意点にも触れますが、冒頭で述べたように、司法書士に依頼することをおすすめします。
ステップ1:増資の計画立案(準備段階)
まず、増資の目的と金額を決めます。労働者派遣事業許可では、基準資産額が2,000万円以上必要なので、現在の基準資産額を確認。例:基準資産額が現状1,000万円の場合、1,000万円以上の増資を検討。
ここで節約の鍵:増資額の半分を資本準備金に振り分ける計画を立てましょう。会社法第445条では、出資金の2分の1までを資本準備金に計上可能で、これにより資本金の増加分を抑え、登録免許税を減らせます。例:2,000万円増資なら、1,000万円を資本金、1,000万円を資本準備金に。税金は資本金増加分1,000万円×7/1,000=7万円(全額資本金なら14万円)。自分で計画する際は、定款の変更が必要か確認。司法書士に相談すれば、定款の見直しも含めてアドバイスしてくれます。
ステップ2:株主総会の開催と決議
増資にあたっては募集事項等の決定をしなくてはなりませんが、その決定機関はその会社ごと、その増資ごとに異なり、株主総会の特別決議が必要な場合もあれば、取締役会決議が必要な場合、取締役の決定だけでいい場合など様々です(会社法第309条など)。非公開会社が株主割当または第三者割当によって募集株式の発行等をする場合は株主総会の特別決議が必要となるケースが多いようにお見受けします。株主総会を開催するには、株主に招集通知を送り、株主総会を開催します。
株主総会では以下の事項を決議:
- 募集株式の数
- 払込金額またはその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨、その財産の内容、価額
- 払込期日又払込期間
- 株式を発行するときは増加する資本金・資本準備金に関する事項
例:2,000万円増資で、発行株式数1,000株(1株2万円)、うち1,000万円を資本準備金に計上と決議。決議書は法務省ひな型で作成可能ですが、資本準備金の記載を忘れると節約できません。ミスが多いのは、決議内容の不備で、後で登記が却下されるケースがあります。司法書士に依頼すれば、総会前のドラフト作成からサポートしてくれ、報酬内で節約策を提案。
ステップ3:募集株式の申込と払込
決議後、株主や第三者に株式を割り当てる。払込期日までに資金を入金。払込みがあったことを証する書面を作成(銀行の通帳コピーなどをバインディングしなくてはなりません)。法務省ひな型にサンプルあり。
ステップ4:登記申請の準備と提出
増資の効力発生後2週間以内に法務局へ登記申請。
必要書類:
- 登記申請書(法務省ひな型)
- 株主リスト
- 議事録
- 払込みがあったことを証する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 登録免許税の収入印紙(増加資本金の額×7/1,000、3万円未満は3万円)
- 他に、取締役決定書など増資の方法ごとに、会社の株式譲渡制限有無ごとに必要な添付書類があります。
ここが節約の核心! 登記申請書に課税標準金額を記載しますが、ここに増加する資本金の額を書きます。増加する資本準備金の額を含めないのがポイントです。
ステップ5:登記の完了と事後手続き
法務局で審査後、履歴事項全部証明書(いわゆる登記簿謄本)を取得。税務署や都税事務所などへ異動届出書を提出(資本金変更)。労働者派遣事業許可申請時は、この履歴事項全部証明書も提出が求められています。
追加の注意点
- 最低税額:増加資本金が約428万円未満なら税金3万円固定。少額増資時は資本準備金を最大限活用。
- 複数回増資:各回で節約可能だが、手続きが煩雑。司法書士にまとめて相談。
- リスク:自分でやる場合、定款変更忘れや計算ミスで追加税金。プロに頼めば安心。
- 司法書士の価値:増資に精通した司法書士の先生は、報酬5万円でアドバイスまでくれます。私の知り合いの司法書士さん曰く、「自分でやる会社が増えたけど、税金損してるケースが多い」そうです。
増資は労働者派遣事業許可にあたって実施するケースが多くみられますが、無駄なコストは避けたいものです。手続きの流れを理解したら、ぜひ専門家に相談を。
お問い合わせ
預金不足の解決策、純資産不足の解決策、合意された手続、監査のお問い合わせなどお気軽にお問い合わせください。
投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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