労働者派遣事業許可申請:財産的基礎の要件クリアへの道筋 – 3つの選択肢と最適解
労働者派遣事業許可の取得を目指す上で、避けて通れないのが”財産的基礎の要件”です。これは、派遣事業を安定的に運営するための資金力を示すものであり、満たせない場合は許可を得ることができません。
当ページでは、この財産的基礎の要件をクリアするための3つの方法を徹底比較し、それぞれのメリット・デメリットを詳細に解説します。結論として、「M&Aによる既存企業の買収」が、いかに効率的かつ現実的な解決策であるかを強調しちゃっていますので、監査を受けなくても済む解決策を提案するなんて商売っ気のない会計事務所だなとお感じになるかもしれませんが、本当のことなので正直ベースで書いていきます。
1.増資による財産的基礎の充足:高コストで非効率な選択
最初に検討されることの多いのが、増資によって資本金を積み増し、財産的基礎の要件を満たす方法です。この方法は一見するとシンプルに見えますが、実際には多くの落とし穴が潜んでいます。
具体的な要件:
労働者派遣事業許可の財産的基礎要件では、以下の2つを同時に満たす必要があります。(他にも要件はありますが割愛)
基準資産額:2,000万円 × 事業所数(事業所が1つの場合は2,000万円)
自己名義の現金・預金:1,500万円 × 事業所数(事業所が1つの場合は1,500万円)
【増資のデメリット】
多額の資金が必要:
上記を満たすためには、少なくとも2,000万円以上の資金が必要となります。これは、本決算で財産的基礎の要件をクリアできなかった会社様にとっては大きな負担です。
均等割の増額:
資本金が増加すると、法人住民税の均等割という税金も高くなります。例えば、東京都23区内の場合、資本金が1,000万円以下であれば均等割は7万円ですが、1,000万円を超えると18万円に跳ね上がります。そして、これは各区に支店が増えれば、各区ごとに均等割を納める必要が生じるという悩ましい問題です。
しかも、この均等割の負担は1回限りではなく、毎年必要です。許可要件のために増資した結果、毎年余計に税金を払うことになってしまいます。これは、長期的に見ると大きな損失となります。
資金調達の困難さ:
1,500万円の預金残高、2,000万円の基準資産額に達するだけの資金を自己資金で用意できない場合、資金調達を実施する必要があります。しかし、会社様が直接借り入れたのでは基準資産額は増やせませんので、そもそも解決策になりません。それより何より、創業間もない企業や実績の乏しい企業にとって、多額の資金調達を実現するのは容易ではありません。
株式希薄化のリスク:
増資を行う場合、既存株主の持ち株比率が低下する可能性があります。これは、経営権の分散につながり、意思決定の遅延や経営方針の対立を引き起こす可能性があります。
結論:
増資は、一時的に財産的基礎の要件を満たすことができるものの、多額の資金が必要となるだけでなく、税負担の増加や株式希薄化のリスクも伴います。特に、これから事業を立ち上げようとする企業にとっては、非常にコストが高く、非効率な選択と言えるでしょう。
2.資本金2,100万円で会社を設立:時間と手間がかかる回り道
次に考えられるのが、新たに資本金2,100万円で会社を設立する方法です。一見すると、確実に財産的基礎の要件を満たすことができるため、安心感があるかもしれません。しかも、監査を受ける必要がありません。しかし、この方法もまた、いくつかのデメリットを抱えています。
【設立のデメリット】
設立手続きの煩雑さ:
会社設立には、定款作成、登記申請、各種届出など、多くの手続きが必要です。これらの手続きをご自身で行う場合、時間と手間がかかるだけでなく、専門的な知識も必要となります。
設立コストの発生:
会社設立には、登録免許税、定款認証手数料、専門家への依頼費用など、様々なコストが発生します。資本金2,100万円を用意するだけでなく、これらの設立コストも負担しなければなりません。
事業開始までの時間:
会社設立の手続きには時間がかかります。設立が完了するまでに数週間から数ヶ月かかる場合もあり、その間、事業を開始することができません。
均等割の増額:
増資と同様に、設立当初から資本金が2,100万円もあると、法人住民税の均等割が高くなります。これは設立直後の企業にとっては大きな負担です。
結論:
資本金2,100万円で会社を設立する方法は、財産的基礎の要件を確実に満たすことができるものの、設立手続きの煩雑さ、設立コストの発生、事業開始までの時間、均等割の増額など、多くのデメリットがあります。特に、すでに事業を始めている会社様にとっては、遠回りな選択と言えるでしょう。
3.M&Aによる既存企業の買収:安価で迅速、合法的な最適解
上記2つの方法と比較して、圧倒的におすすめなのが、M&A(Mergers and Acquisitions)による既存企業の買収です。具体的には、直近の本決算で財産的基礎の要件を満たしている会社を買収することで、監査も合意された手続も不要で許可申請ができます。
【M&Aのメリット】
圧倒的な低コスト:
2,000万円の資本金を用意する必要はありません。買収対象となる企業の規模や状況によって異なりますが、200万円程度の資金で買収できるケースも十分にあります。
手続きの簡略化:
会社設立や増資のような煩雑な手続きは不要です。買収対象企業の出資者と役員の変更手続きを行うだけで、労働者派遣事業を引き継ぐことができます。
時間の短縮:
会社設立や増資に比べて、手続きが格段に早く済みます。役員変更の登記手続きが完了すれば、労働者派遣事業許可申請をすぐにもできます。
【M&Aの注意点】
デューデリジェンスの重要性:
買収対象企業の財務状況や法務リスクなどを事前に調査するデューデリジェンスをしっかりと行う必要がありますので、既に公認会計士事務所等がデューディリジェンスを済ませている会社を買収するのが現実的です。
買収交渉の難しさ:
買収価格や条件など、買収対象企業との交渉が必要となりますので、良心的な売主と誠実な仲介者に巡り合うことが望まれます。
結論:
M&Aによる既存企業の買収は、低コスト、手続きの簡略化、時間の短縮、許可申請の簡単さなど、多くのメリットがあります。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。