顧問税理士の先生では対応できない理由~労働者派遣事業許可申請のための合意された手続に独立性は必要か?
労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要であり、その更新の申請にあたっては、中間決算書または月次決算書に対する「独立業務実施者の合意された手続実施結果報告書」が求められる場合があります。
この合意された手続を提供するのが公認会計士ですが、「顧問税理士の先生にお願いできないの?」「なぜ独立性が必要なの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、労働者派遣事業許可申請のための合意された手続における公認会計士の独立性について、詳しく解説します。
「合意された手続」とは何か?
まず、「合意された手続」とは具体的にどのような業務なのでしょうか。
公認会計士が行う業務には、大きく分けて「保証業務」と「非保証業務」があります。保証業務の代表例は「監査」であり、公認会計士は企業の財務諸表全体に対して「適正意見」などの保証意見を表明することで、その信頼性を高めます。これに対し、合意された手続業務は「非保証業務」に分類されます。
合意された手続業務は、特定の情報(例えば、特定の勘定残高、取引の記録、契約の遵守状況など)について、依頼者と公認会計士が事前に合意した特定の手続(例えば、関連資料の閲覧、照合、計算の検証など)を実施し、その実施結果を依頼者に報告する業務です。この業務では、公認会計士は意見や結論を表明するのではなく、あくまで「事実の発見」に徹します。手続の実施結果を報告するのみであり、対象となる情報が適正であるかどうかの保証を与えるものではありません。
したがって、この業務の利用者は、公認会計士が報告した事実に基づいて、自ら評価や判断を行うことになります。監査のような意見表明がないため、保証のレベルは監査よりも低いものとなりますが、特定の情報に焦点を絞り、効率的に必要な検証を行うことができるというメリットがあります。
一般的に合意された手続を提供する公認会計士に独立性は要求されない
さて、本題の独立性の問題です。結論から申し上げると、一般的に合意された手続を提供する公認会計士に独立性は要求されていません。
この点は、日本公認会計士協会が公表している専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」において明確に示されています。同指針によれば、合意された手続業務は、依頼主と公認会計士の間で合意された手続を実施し、その結果を報告するに過ぎないため、原則として、業務の対象とする情報に責任を負う者に対する独立性は要求されないとされています。
なぜ独立性が不要なのでしょうか。その理由は、合意された手続業務が「保証業務」ではないことに起因します。監査やレビューといった保証業務では、公認会計士は財務情報の信頼性について第三者に対して保証意見を表明します。そのため、公衆の信頼を損なわないよう、客観的かつ公正な立場を保つために厳格な独立性が求められます。
しかし、合意された手続業務では、公認会計士は特定の情報について意見を表明するわけではありません。あくまで依頼者と合意した範囲で手続を実施し、その事実を報告するに留まります。この業務の性質上、責任の範囲は依頼者との合意内容に限定され、一般の利害関係者に対して直接的な保証を提供するものではないため、監査のような独立性の厳格な要請は通常は適用されないのです。
もちろん、依頼者が特段に独立性を要求する場合には、公認会計士はその要求に応じて独立性を保持する必要があります。しかし、特段の要求がなければ、原則として独立性は必須要件ではないという点が、合意された手続業務の基本的な考え方です。
例外的に労働者派遣事業許可申請のための合意された手続には独立性が要求される
一般的な合意された手続業務とは異なり、特定の目的のために行われる合意された手続業務の中には、例外的に独立性が要求されるケースがあります。その代表的な例が、労働者派遣事業許可申請のための合意された手続です。
これは非常に重要なポイントであり、前述の「一般的に独立性は要求されない」という原則の例外に当たります。
労働者派遣事業を営むためには、厚生労働大臣の許可が必要です。この許可申請や更新手続きにおいては、企業の財産的基礎が適切であることを示すための財務情報提出が求められます。従来、これらの財務情報の信頼性確保のためには、公認会計士または監査法人の「監査証明」が求められていました。
しかし、中小企業においては、監査を受けるための費用や労力が大きな負担となる実情がありました。そこで、許可の有効期間の更新の事後申立てに限り、監査証明の代わりに合意された手続が行われるという経緯から、特例的にこの業務が認められることになりました。この経緯こそが、独立性要件の根拠となります。
日本公認会計士協会が公表している専門業務実務指針4450「労働者派遣事業等の認可審査に係る中間又は月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針」では、この業務の特殊性を踏まえ、明確に独立性の保持を求めています。
その趣旨は、この合意された手続業務は、本来であれば監査証明という「第三者保証」が求められる場面において、その代替として位置づけられているからです。労働者派遣事業は、働く人々の生活に直結する重要な事業であり、その事業者の財産的基礎が適切であるか否かは、労働者の保護という公益性にも関わる問題です。そのため、提出される財務情報の信頼性は極めて重要であり、その信頼性を確保するために公認会計士が関与する際には、監査証明に準じる高い客観性と公正性が求められるのです。
このような背景から、専門業務実務指針4450では、本業務を行う公認会計士に対して、公認会計士法、同施行令、同施行規則、日本公認会計士協会の倫理規則、独立性に関する指針など、公認会計士に関連する職業倫理に関する規定を遵守することを求めています。つまり、この特殊な合意された手続業務においては、監査証明業務と同様のレベルで「独立性」が不可欠となるのです。
顧問税理士の先生は独立性がないため、合意された手続を提供できない
前述の通り、労働者派遣事業許可申請のための合意された手続業務においては、公認会計士に厳格な独立性が求められます。この独立性要件が、顧問税理士の先生がこの業務を提供できない理由となります。
公認会計士法は、公認会計士が監査証明業務を行う際に、独立性を損なう可能性のある利害関係を厳しく制限しています。例えば、公認会計士法第24条第1項第3号および第2項、並びに同施行令第7条第1項第6号などでは、公認会計士やその配偶者が、被監査会社(この場合は、合意された手続の依頼会社)から税理士業務により継続的な報酬を受けている場合、これを「著しい利害関係」とみなし、監査証明業務を行ってはならないと定めています。
これは、継続的な税務顧問関係にある場合、公認会計士(または公認会計士と同一人物である税理士)がその会社の財務情報に対して客観的な視点を保つことが困難になる可能性があるためです。例えば、顧問税理士として日常的に記帳や税務申告業務に携わっている場合、その過程で作成された会計情報を、今度は公認会計士として客観的に検証することは、「自己レビュー」にあたり、独立性を損なうと判断されるためです。
労働者派遣事業許可申請のための合意された手続業務は、前述の通り、監査証明の代替として位置づけられています。そのため、監査証明業務に適用される独立性に関する規定が、この合意された手続業務にも準用されることになります。
したがって、もし公認会計士が顧問税理士として既に税務顧問契約を締結し、継続的に報酬を受け取っている企業の場合、その公認会計士は、その企業から労働者派遣事業許可申請のための合意された手続業務を受託することはできません。顧問税理士の先生は、その顧問関係ゆえに公認会計士法上の独立性を確保できない場合があるため、この業務の提供は難しいと言えるのです。
独立性の重要性と当事務所のスタンス
公認会計士の独立性は、その業務の信頼性の根幹をなすものです。特に、公共性の高い業務や、公的な許可・認可に関わる業務においては、その独立性が担保されることで、利用者はもちろん、社会全体の信頼が維持されます。労働者派遣事業許可申請のための合意された手続業務は、まさにこの「公共性」と「信頼性」が極めて重視される業務であり、だからこそ公認会計士の独立性が厳しく求められるのです。
私たち公認会計士事務所は、企業様の信頼を第一に考え、常に公認会計士法および関連する専門業務実務指針、倫理規定を厳格に遵守して業務を遂行しております。
労働者派遣事業許可申請のための合意された手続業務においては、その業務の特殊性と、監査証明の代替としての位置づけを深く理解し、独立性の確保を最優先事項としています。ちょっと商売に消極的な事務所だと思われるかもしれませんが、労働者派遣事業許可申請のための合意された手続についてはそういうものなのです。そして、多くの場合、ご依頼いただいてもそもそも預金残高不足であったり基準資産額不足で財産的基礎の要件をクリアできていないケースの方が圧倒的に多いため、手前どもの事務所に限って申し上げれば、財産的基礎の要件をクリアすることにお手伝いに切り替えてご依頼いただくことがほとんどです。手前どもの事務所は、M&Aなどの手法により、預金残高不足の会社様でも適法適式に労働者派遣事業許可を取得いただける高度なソリューションを用意しております。そして、これらソリューションのご提供やコンサルティングのご提供に独立性は要求されていません。
当然、顧問税理士として顧問契約を締結している企業様からの監査・合意された手続業務の依頼については、残念ながらお引き受けできない場合がございます。これは、お客様への信頼性のあるサービス提供と、公認会計士としての専門的責任を全うするための判断であることをご理解いただければ幸いです。信頼のおける監査法人をご紹介しております。少しお値段は張りますが、同じ公認会計士として仕事内容にもお人柄にも問題ないと思える監査法人です。
許可申請や更新に関するご不明な点、または合意された手続業務についてご検討の際には、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の状況を丁寧にお伺いし、適切なサービスをご提案させていただきます。私たちは、資金不足の会社様にも労働者派遣事業許可を維持していただけるソリューションを安価にご提供し、誠心誠意サポートさせていただきます。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。