労働者派遣事業許可の「財産的基礎」問題、増資には合理性がない? 賢い経営者は新株予約権を視野に!
労働者派遣事業を展開する企業にとって、事業許可を取得し維持するためには、「財産的基礎」の要件を充たすことが必要です。具体的には、一定の資産規模や純資産額、預金残高を確保しなければなりません。しかし、いま多くの中小企業や新規参入企業は、これらの条件を満たすことに難しさを感じているケースが少なくありません。
本記事では、財産的基礎の要件を満たすための従来の方法――増資――の課題を整理した上で、それに代わる効果的な方法として「新株予約権」の活用について解説します。特に、「増資よりも合理的な選択肢」となる理由や、その運用のポイントについて詳述します。
財産的基礎の要件と増資の実務的課題
労働者派遣事業許可の要件の一つである財産的基礎は、下記の現預金残高や基準資産額の基準を満たすことが求められます。
①現預金が1,500万円以上ある
②基準資産額が2,000万円以上ある
③基準資産額≧負債の部の金額÷7 (なお、基準資産額 = 純資産の額 ー 繰延資産 ー 営業権)
これらを満たすためには、一般的に行われるのが「増資」です。新たに資本金を増やすことで、見た目上の基準資産額や預金残高を向上させ、条件をクリアします。
しかしながら、増資にはいくつものデメリットもついて回ります。
資本金の増加による経営コスト増
資本金の増加に伴い、毎年の資本金に基づく均等割などの税負担や行政負担が増加します。
資本金の維持コスト
増資後、資本金を減らすには減資手続きが必要となり、その過程で複雑な規制やコストが発生します。
このように、増資は形式的には簡単な策のように見えますが、実務的に見れば企業にとって負担となるケースが多いのです。
新株予約権という選択肢
そこで注目したいのが、新株予約権の活用です。新株予約権は、将来一定の条件で株式を取得できる権利であり、発行時に資金調達が可能である一方、直ちに資本金が増加するわけではありません。
新株予約権のメリット
基準資産額と預金残高の改善: 新株予約権を発行することで、発行価額分の資金が会社に入金され、基準資産額と預金残高を一時的に増加させることができます。これにより、財産的基礎の要件をクリアすることができます。
資本金の増加をコントロール可能: 新株予約権は、権利行使されて初めて株式が発行され、資本金が増加します。つまり、資金調達後、決算後に自社で新株予約権を取得(買い戻し)することで、資本金の増加を回避することができます。これにより、均等割の負担増を回避することができます。
解消手続きが簡単: 増資後に資本金を減らすためには、減資の手続きが必要になります。この減資にあたっては財源規制の制約や債権者保護手続きなど、非常に厳しいルールに従う必要があります。しかし、新株予約権であれば、簡単に新株予約権を自社で取得する方法が用意されています。新株予約権のまましばらく置いておいたとしても均等割の負担などは発生しませんので、解消の手続きを先送りすることも可能です。
具体的なスキーム例
新株予約権の発行: 財産的基礎の要件を満たすために必要な金額の新株予約権を発行します。
資金調達: 新株予約権の発行価額分の資金が会社に入金され、基準資産額と預金残高が増加します。
財産的基礎の要件クリア: 基準資産額と預金残高が要件を満たし、労働者派遣事業許可を取得、または更新します。
新株予約権の取得(買い戻し): 決算後、自社で新株予約権を取得(買い戻し)します。
資本金の増加回避: 新株予約権はなくなり、資本金の額も変動せず、均等割の負担増などもありません。
注意点
専門家への相談: 新株予約権の発行には、法務、税務、会計など、専門的な知識が必要です。必ず弁護士、司法書士、税理士、会計士などの専門家にご相談ください。
情報開示: 新株予約権の発行に関する情報は、適切に開示する必要があります。
まとめ
労働者派遣事業許可の財産的基礎の要件を満たすためには、増資という選択肢だけでなく、新株予約権の活用も検討する価値があります。新株予約権は、基準資産額と預金残高を引き上げ、財産的基礎の要件を満たすことができるという効果が得られる一方で、資本金の増加をコントロールし、均等割の負担増を抑えることができます。
もちろん、新株予約権の発行には、専門的な知識や手続きが必要になります。しかし、専門家のアドバイスを受けながら、適切なスキームを構築することで、増資よりもスマートに財産的基礎の要件をクリアし、安定的な事業運営を実現することができます。
労働者派遣事業を始める、または継続するために、財産的基礎の要件でお悩みの際は、ぜひ一度、新株予約権の活用をご検討ください。
当会計事務所では、労働者派遣事業許可に関する財産的基礎の要件クリアをサポートする専門的なサービスを提供しております。
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投稿者プロフィール

- 労働者派遣事業許可に必要な監査や合意された手続に精通し、数多くの企業をサポートしてきました。日々の業務では「クライアントファースト」を何よりも大切にし、丁寧で誠実な対応を心がけています。監査や手続を受けなくても財産的基礎の要件をクリアできる場合には、そちらを優先してご提案するなど、常にお客様の利益を第一に考える良心的な姿勢が信条です。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。